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村上春樹は、いまや世界で最も広く読まれている日本人小説家である。その世界的な人気の背景には、英語圏――とりわけアメリカ――での成功がある。日本文学の英訳の多くが政府や文化機関の支援を受け、限られた読者(主に日本研究者など)を対象に刊行されてきたなか、村上作品はアメリカの文芸出版の権威であるクノップフや『ニューヨーカー』などの出版社・雑誌から世に送り出され、大勢の読者を獲得し、多くの同時代作家に影響を与えている。この英語圏での活躍の裏には、それぞれの人生のポイントで村上作品と出会い、惹き込まれ、その紹介に情熱を注いだ翻訳家、編集者、エージェント、研究者、書評家、書店員といった、出版界のスペシャリストたちがいた。翻訳家アルフレッド・バーンバウム、ジェイ・ルービン、編集者エルマー・ルーク、リンダ・アッシャー、ゲイリー・フィスケットジョン、クリストファー・マクレホーズ、装丁家チップ・キッド……。『ねじまき鳥クロニクル』での世界へのブレイクスルーまでの道のりを後押しした、個性あふれる30余名の人々との対話、そして村上本人へのインタビューをもとに、世界的作家Haruki Murakamiが生まれるまでのストーリーを追う。
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Posted by ブクログ
日本の現代文学において、最も海外で読まれている作家は村上春樹を置いて他にない。本書はなぜ彼の作品がここまで海外で受け入れられたのかという点について、彼の英語圏での出版を手助けした翻訳家・編集者・出版エージェントといった文学の”裏方”の人間たちにスポットを当てることで解を出した労作である。
こうした”裏方”については、村上春樹本人が、アメリカで翻訳された短編作品だけを収める形で半ば逆輸入的に日本で出版された『象の消滅 村上春樹 短編選集1980-1991』の序文で本人の口から細かく語られている。その中では英語圏の出版業界の比類なきプロフェッショナリズムが、大いなる賛辞と共に示されているが、その内実がどのようなものかは正直不明なところも多かった。本書ではそのプロフェッショナリズム、そして何よりも文学に対する愛情に、文学を愛する一人の読者として心を揺さぶられた。
特に、海外での出版にあたり最も重要となる翻訳者については、本書でもかなりのページ数が割かれている。村上春樹の英語翻訳については、彼が贔屓にしている数名の特定の翻訳家がいるが、その一人、アルフレッド・バーンバウムは初期の傑作『羊を巡る冒険』の翻訳にあたり、特徴的な登場人物である羊男のセリフ「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ。なぜ踊るかなんて考えちゃいけない」を以下のように翻訳したという。
「Yougottadance.Aslongasthemusicplays.Yougottadance.Don`teventhinkwhy」(本書P262より)
バーンバウム曰く、訳文を何度も読み返す中で聞こえてきたのがこのボイスであるとのことだが、『羊を巡る冒険』の読者であれば、羊男の饒舌なボイスとそのリズムを表すのに、この字続きの表現が適切だということを同感されるのではないだろうか。
村上春樹のファンはもちろん、英語圏における文学や出版というものの実態を知りたい人にとって非常にお勧めできる一冊。
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