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日本人として2人目のノーベル賞に輝いた朝永は、当代一流の粋人にして随筆の名手でもあった。飄々とした闊達なユーモアと、平和への真摯な姿勢に満ちた珠玉の24篇を厳選。
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Posted by ブクログ
ある書店でSTANDARD BOOKSのフェアをやっていたのに偶然に出会い、何の気なしに朝永振一郎を選んだ。 本書所収の随筆「鏡のなかの世界」は不思議な一編だ。だって朝永振一郎を含めた科学者の面々が「なぜ鏡には左右が逆に写るのか」を真剣に議論しているから。私ならば「なぜ左右逆かって?鏡なのだから左...続きを読む右が逆に写るのは当たり前じゃないの?」で終わってしまう。だが物質がそれぞれに有する法則性を解明しないと収まらないのが真の科学者らしい。言い方を変えれば「当たり前」でわかったつもりで終えることを良しとせず、物事を統御する真理を自分なりにつかみ取らないと納得できないのが科学者なのだろう。 そう思って改めて鏡のなかの像について考えると、確かに不思議な現象だ。と言うのは、自分自身を鏡に写した場合、鏡に写った自分自身には心臓が右にあるのだから。つまりトリックアートのように製作者がひねって作り出した架空のものではなく、この世に絶対的にありえないものが実存の姿として現れており、科学者のアンテナに引っかかるのもわからないでもない。 鏡に関してどんな主張が科学者から出されているか…「幾何光学」「心理的空間」などの一般的ではない用語が飛び交い、それこそ侃侃諤諤。まあその一編では結論は出ていないし、著者も改めて解答を導き出すつもりもなく、1つの事柄に科学者はこれほどまでに熱中できるのかというその熱量の大きさを文章にしたかったようでもある。 私は結局文系の学部に進んだけれど理科や物理などの自然科学にも若干興味はあるので、朝永の一連の文章もおもしろく読めた。とは言っても、朝永は論文以外で文章を小難しく書くのは好きではなかったようで、この本では原子核物理学のことも花鳥風月のことも同じような調子で書かれている。その証拠に、この本では冒頭に「鳥獣戯画」という一篇がまずあって、飼っていたねこの話や、自然が残る武蔵野の生活風景を書いた随筆が続くが、その後の理化学研究所や留学先での研究生活を書いた各編も同じトーンで読める。 私が一番印象に残った一編は「暗い日の感想」だ。大昔の爬虫類の体格やマンモスの牙が種の存続という目的から逸脱しているとも思えるくらい巨大化し、それゆえに滅びたのではないかと朝永は書く(P188)。そして人類が無自覚に原子力を追求していくことへの警告を朝永なりの比喩で発している。だが朝永は“正直”ゆえに、原子力の研究自体をストレートに否定していない。しかし憂慮はしている。なぜなら朝永自身が尊敬するアインシュタイン博士やオッペンハイマー博士ですら止められなかったほど“手ごわい”ものだからだ。そんな難解な命題を前に朝永がとった選択肢は「歴史の中での評価に委ねる」ことだった。 当初私は朝永に対して、カール・セーガンのように強くて明確な主張と姿勢ではない軟弱なものとして拒否反応が出た。しかし朝永がいくらその道の専門家だからといって彼だけにその責務を負わせるのは結局自分が責任転嫁しているだけであり、正しくはない。この大きな問題が1人の人間だけで解決できるわけがないのだ。だから朝永の文章からは、自分をリレーランナーのように考えて、バトンを落とさず自分ができる限りの力によって走り、そして次のランナー(次の世代)にしっかりとバトンを手渡せばいいと、そう読めるように思えた。 端的に言うと私たちのような物理学の素人が原子力の平和利用を求めるのに原子核理論を学ぶことが要求されているわけではない。一方でその素人の私たちがノーベル物理学賞を受賞する可能性は限りなくゼロだが、私たちの世代が朝永の意思を正確に読解して受け継ぎ次世代に伝えられれば、私たち国民全体としてノーベル平和賞を受賞できる可能性は、必ずしもゼロではない。
朝永さん、めっちゃいい人。物理の勉強してみようという気になった。何か学ぼうと思ったら、そのものについてよりも、まずそれに関わっている人について知ることから始めるとよいかも。
うーわわわ!ものすっごく親しみやすい!! 最高に大好きな科学随筆だ。STANDARD BOOKSシリーズで一番好き。 表題の「見える光、見えない光」は高校生が物理を勉強する前にまず一番に読んでほしい名文。本の構成もよくて、身近な出来事や暮らしの話題に始まって、わくわくする科学小話があって、最後に原子...続きを読む核と原子力についての深い思いに触れるというシンプルで素直な構成が優しい。
自然に対する豊かな観察眼や優しさ、人間的な弱さを自ら披瀝する鷹揚さを通して、距離が縮まり親しみ易さを感じる。難しい数学的手法を駆使する業績からは思いもつかない平易な文体、軽妙洒脱な筆致により引き込まされる。研究スタイルや根元にある考え方には共感を覚える。
科学者としての喜びや苦悩を書いたもの、を期待していたのですが、前半は、科学者、というよりも、風流なおっさんが書いた文章でして、読んでいて退屈でした。 後半は、期待していた内容であり、朝永振一郎が生きた時代の物理学の発展の様子を感じることができ、なかなか面白かったです。 自分の中で、朝永振一郎は...続きを読む「天才」というイメージしなかったのですが、想像していたよりも、苦悩の日々を過ごしていた時期が長かった、しかもそれが、若い時期だったことは意外でした。 朝永振一郎も、人間なんですね。 当たり前ですけど。 そして、想像以上に、普通の人だったみたいですね、朝永振一郎。
前半は、身近な出来事から垣間見える粋人としての視点に、どきりとするエッセイ集。読みやすい。 後半は、原子物理学についての考察が本格的で、少し難しかったが、学者としての使命と義務と責任に真摯に向き合っている姿が印象的だった。 とても真面目な人柄なのだと思う。 永遠のライバル湯川についての言及も、ちらり...続きを読むと見えて面白い。天才を前にして秀才は悩み、同じだけど別の道を、しかし確かな歩みを進める。 岡潔や中谷宇吉郎の名が出てくるのは、シリーズとして上手い。
自然の移り変わりや家庭に関する軽いものから、冷戦時代の原子力兵器実験や原発に関する、原子核研究者以前に一人の人間としての葛藤など、読みやすさと読み応えを両立させているエッセイ集。
数学者のエッセイ。 雰囲気が柔らかくてめっちゃいい。 少し前の文章だからか読点が多いのが少し気になるけど、そういうもんだと思ってしまえばなんともない。 日高敏隆さんとか梨木香歩さんとかの雰囲気に近い気がする。 お気に入りのシーンは、「鏡は左右は反転するのに上下は反転しないのは何故か?」を数学者仲間...続きを読むと議論して、仲間のひとりが特殊相対性理論を持ち出して解決しようとしたときに「おとなげない」で一蹴されるところ。
朝永振一郎氏(1906~1979)、1965年ノーベル物理学賞受賞「見える光、見えない光」、2016.10発行。エッセイ集です。十八番である物理に関するエッセイも多いですが、私は動物関係(鳥獣戯画、庭にくる鳥、ねこ など)がとても良かったですw。
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朝永振一郎 見える光、見えない光
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