Posted by ブクログ
2014年05月15日
新聞をみると毎日のように日本に関する様々なニュースがデータとともに報道されていますが、そのデータが表現されたグラフは基本的にはその記事の主張をサポートするものです。つまり、書き手によって不都合なデータは載せられることはありません。
ある出来事を私なりに理解するためには、それらのデータをより長いスパ...続きを読むンで見てみる、また比較対象をできる限り多くして、その中での日本の位置づけを見ることが大事だと思います。
この本では様々な内容がデータとともに示されていて、いわゆる通説と本当の姿はどの程度異なっているかが示されています。更に最終章では、誤解をしないための「正しい統計データの使い方」についても解説されています。
これらを参考にして、テレビや新聞の報道内容を自分なりに咀嚼して将来に活かしていきたいと思いました。
この本には実際のデータを基に描かれた数多くの図表があります。一番楽しいと思ったのは、日本の各都道府県の経済規模が、どの国と同レベルかを表現した図(p26)でした。これによれば、東京=香港、大阪=イラン、名古屋=南アフリカ、北海道=チリ等です。
この本の最終章の最後に、この本の結論として、統計データから見る日本の姿が次のように記されています。これを見る限り、日本は素晴らしいです!
・統計データで明らかにした日本社会の本当の姿は、失業率はどんどん高まっているわけではなく、日本の経済力は高く、技術力も世界と比較して向上し続けている。経済格差も貧困も拡大しておらず、日本は国際的には平等社会を維持している。世界一の「小さな政府」が効率的に機能、高齢化の割には、医療費は低く抑えられている。その中で食べすぎや肥満に陥らず、世界一の平均寿命を達成し、女性はいきいきと美しく暮らしている(p311)
以下は気になったポイントです。
・科学技術研究調査における技術の輸出入(外国間におけるパテント等の技術の提供・受入れに伴う対価の受入れと支払い)は、1996年ごろから受け取りのほうが多い。ただし業界(エレクトロニクスと自動車)では状況は異なる。刷り合せ型技術が強く、モジュール型技術は弱体化している(p30,31、35)
・特許出願件数(PCT国際出願)で見れば、東京がシリコンバレーを凌駕して一位(p37)
・総務省の行っている家計調査データの長期間のデータ(1960年から)によれば、所得格差は小さくなっている。しかし、二人以上の世帯の集計で、近年増加している高齢単身世帯を含んでいない、厚生労働省の国民生活基礎調査(1985年から、全世帯)によれば年々格差は大きくなっている(p47)
・実質所得の推移を見れば、高所得者層の平均所得が大きく低下したのに対して、低所得者の所得低下には歯止めがかかっていたことがわかる(p51)
・大金持ち(上位1%)の所得拡大を長期間(1900年から)で見ると、日本とフランスは戦後はほとんど10%程度で横ばい、戦前の日本は世界一(p54)
・日本において所得格差が戦後で縮まったのは、戦時統制・新円切替・財閥解体・農地改革、といった戦中終戦直後の特別措置による(p57)
・生活必需品を買えないほどの貧困層がいるかどうかの比較では、日本は5%以下で他国比較でとても低い(p59)
・急激な公共事業の拡大は、1990年頃から起きている。日米構造会議による公約で、1991年から10年間で430兆円、1995年から13年間で630兆円という計画が作られた。(p79)
・日本の場合、一般政府総固定資本形成対GDP比率が高いのは、災害が多いことや、日本の都市は人口密度の低い市街地が拡大するスプロール化が進んでいるため(p85)
・1945年からの自殺統計でみると、総数は増えているが、自殺率では1955年あたりと同レベル、標準化自殺率(10万人あたり、年齢構造同一)でみると高度経済成長期と同レベル(p136,144)
・日本人のカロリー摂取は、1996年に2670Kcalを記録して、2009年は2439Kcalであり低下傾向にある。1960年のアメリカよりも低い(p161)
・肉や油を使わない料理は、味覚としては物足りないところがあったので、うまみ食品を日本は必死に開発した。中国から伝来した大豆を使った発酵食品としての、醤油・味噌および、昆布、鰹節、きのこを使った「だし」の文化である。味覚神経を通じて感知される味として、塩味・甘味・酸味・苦味の基本4味にくわえて、「うま味」がある(p175)
・江戸時代以降、全国各地で各種のスシ(巻きずし、棒すし、ちらしずし、いなり寿司等)が開発されたが、基本的には、明治から大正にかけては「関東の握り、関西の箱すし」という状況が続いていた(p181)
・江戸時代の握りずしは、超高級すし料亭と、路上の屋台店の両方があった。料亭型すし屋は、屋台ブームを取り入れて店内に屋台スペースをつくり、現代のカウンター方式のすし屋へと発展した。回転寿司は、握りずし発祥の屋台方式の現代的再現である(p185)
・米国は医療費の割りに平均寿命が低く、医療のパフォーマンスは悪い(p204)
・戦後50年の体格の変化では、男は各年齢も太る方向、女性は20代はどんどんやせている、30代以降になると太るが1970年以降はどの年代もやせてきている(p209)
・スリム化して体の切れもよく、おしゃれをして、きれいになり、笑顔で楽しく暮らしながら、男子の不甲斐なさを笑うかのように世界でも活躍の目立ってきている日本女子は、鬱屈して太り、大した成果も上げられない日本男子としては別の生き物かもしれない(p268)
・見せかけのデータに惑わされないようにするためには、常識を働かせ、作成者の意図を見抜きながら、指標やグラフに過度の強調などあやしいデータ表示や加工がないかを疑い、また、統計上使われる用語の定義をしっかりと確認する。原資料の性質に思いをはせることも大事(p278)
・1系列に近いシンプルな統計データを使ったランキングほど信頼でき、逆に、複雑な組み合わせで作成された総合指標によるランキングほど、実態とかけ離れる傾向がある。後者の場合は、統計データの選択やウェイト付けで作成者の主観が入る余地が大きい(p279)
・国際比較の場合、人口が急増した場合は、時系列比較でも、対人口比で分析しないと正しい理解が出来ないケースが生じる。日本のデータでも長期推移を分析する場合は、実数ではなく対人口比で比較する必要がある(p284)
2014年5月15日作成