米マサチューセッツ州生まれの、ブリティッシュ・エアウェイズでボーイング747を操縦する現役のパイロットが、空を飛ぶことの魅力を語り尽した作品。
原書『Skyfaring:A Journey with a Pilot』は2015年6月に出版され、A New York Times Notable Book of 2015、An Economist Bestseller and Best Book of 2015、A Wall Street Journal Best Book of 2015、BBC Radio Book of the Week、A Bloomberg Best Book of 2015などの高評価を受け、サン=テグジュペリの『夜間飛行』以来の名作と記す書評もある。
著者は、当初エアバスで短中距離フライトに携わった後、2007年からボーイング747で中長距離フライトを担当し、ロンドンを拠点に、欧州・中東・北アフリカの各都市、東京、ニューヨーク、シンガポール、ハワイ、ケープタウン、シドニー、デリー、リオデジャネイロ、香港、サンフランシスコ、バンコクなど世界各地に飛んでおり、本書でもそうした地名が随所に登場して旅情をそそられるが、本書の魅力はむしろ別のところにある。
それは、本書の、1.Lift(持ちあげる、あがる、高まる)、2.Place(場所、空間、住所)、3.Wayfinding(進む方向を決めること)、4.Machine(機械、装置、仕組み)、5.Air(空気、大気、無)、6.Water(水、海、川)、7.Encounters(出会い、遭遇)、8.Night(夜、闇)、9.Return(帰る、戻る、復帰する)という章立てに示されるように、パイロットとして航空機を操る楽しさ、地球上を短時間で移動することの驚き、航空機のメカニックの神秘、地上と異なったルールの支配する空の王国の面白さなどが、縦横無尽に語られているところである。そして、それが、ときに詩的なロマンティックな表現で、また、ときに科学的なロジカルな説明で描かれているところに、更に引き込まれるのである。
著者が航空機に魅せられたのは、13歳のときに自宅近くの国際空港で、中東から来た旅客機を見たときで、そのときの気持ちを、「昨日、私が寝ているとき、あのアラビアの旅客機はヨーロッパのどこかの空港で給油をしていたかもしれない。さらにその前はアラビア半島にいたのだ。・・・あの扉の向こうに、旅客機が見てきた一日が詰まっているのだろうか。地球儀に記された遠い場所の名残が、たとえばジッダとか、ダーラン、それにリヤドの景色が、閉じ込められているのかもしれない」と書いているが、このぞくぞくする感覚こそ、世界を股に掛ける仕事、それを自らの手で行い得るパイロットの魅力の原点であるように思う。
次に海外へ行く機会には、間違いなく本書を思い出して、前回のフライトとは違った思いを抱いて飛行機に乗り込むことだろう。
(2016年3月了)