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Posted by ブクログ
世の中に潜んでいる人間を脅かす不可知な存在や現象(アノマリィ、小説ではアンノウン)を創作するWEBのコミュニティサイト「SCP財団」から生み出された小説で、そのアンノウンの中でも出色の出来栄えの「反ミーム」という属性のアンノウンたちの脅威と対峙する〈機関(WEBオリジナルではこれが正にSCP財団という設定)〉の「反ミーム部門」の人々の戦いの物語である。
反ミームとは、人間に認知された途端、その認知記憶を人間から奪ってしまうという、認知を拡散していくミームの真逆的な特性を持っているため、それが何であるかは視認も動画等の記録もとれるが、それを記憶に留めることができない、記録した文や動画が後から見ると何であるかわからない、映っているのに見落とされてしまうという存在で、人間の認知機能を食べてしまう個性豊かなこんなアンノウンたちが数体登場し、反ミーム部門の隊員たちとバトルを繰り広げていく。したがって「反ミーム部門」がいつなぜ誰がたちあげたのか、〈機関〉が収容している反ミームアンノウンもいつどうやってそこに収容されているのか、それを認知できる領域から外に出ると誰も覚えていないわからない、「反ミーム部門なんて存在しない」のである、という趣向だ。
自分の側近の部下だと思っていた人間が、実はいつから存在していたのか覚えていないという敵だったり、相手を認知した途端、相手もこちらを認知して殺されてしまうという敵から逃れるため「記憶忘却剤」を注射して脱出したり(脱出後自分が何をしていたか覚えていないというのがミソ)、人間が行動判断のもとにしている認知や記憶が次の瞬間に違うものと置き換わってしまったりするということの自我が混乱する恐怖がこんなにも不安な気持ちにさせられるのかという、反ミームという斬新な設定がもたらすバトルは新鮮そのものでこんなネタよく思いつくよなと思ったりしたのだが、バトルの舞台が転々してそのたび「マップ的」な説明があること、かつて自分が書きおいたメモがバグっていて読めなくなっていること、戦闘行為中に忘却剤や逆に記憶固定剤を使用しながら戦うなどこれって「回復系アイテム」じゃんと気が付くと、要は「初見殺し即死イベント」の無理ゲーをどうやって攻略するかを楽しむ「ホラーゲーム」がルーツなんだとわかる。
人類という生物が誕生し文明を形成しているという現象は説明できても、では人間の「意識」とか「記憶」とかはなぜ存在しているのかはわからない。反ミームが記憶や認知を食う存在なら、記憶や認知もまた食えるような「物質でもある」ととらえることも可能だ。ラスボスと主人公の概念世界での対決は、サイキックバトルの新しい一つの頂点かも知れない。とりわけ主人公を●●●●せる手法には思わず唸ってしまった。
少しそれるが村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の中にあった、世の中というものは、人が何かについて感じたり、誰かが誰かのことを思ったり、という100年後には誰も覚えていない、そういうものたちでできている、というテーゼを思い出す。経済や文明のように記録や歴史的な出来事のようには残せないけど、確かにその時その時で世の中に存在し、経済や文明よりも圧倒的に主要に占めていたはずの人々の無数の「記憶」や「思い」というものに改めて思いを馳せてしまった。
Posted by ブクログ
SCPなるものをよく知らない(超常生物?を取り扱ったクトゥルフ神話的な体系という理解)まま、SFホラーという分類に惹かれて購入。いやー面白かった。「反ミームなる概念が存在したらどうなるだろう」というSF的・思考実験的面白さもあり、知覚すること自体が脅威になるというホラー的恐怖感もあり、それでいてストーリー自体は最終的に「U-3125というでっかい強いラスボスを倒そう」というシンプルなところに着地するのがいい。認知戦のステップごとの視点の転換も鮮やかで、小難しい概念をポンポン投げ込まれながらも最後まで飽きずに読めた。
細部で理解しきれてないところがありそうだから、いつか再読しよう。カバーのよさも含め紙で買ってよかった。満足度の高い一冊。最近”SFホラー”というフレーズを聞く機会が多い気がしてうれしいね。
Posted by ブクログ
アイテム番号:SCP-12526-JP
オブジェクトクラス:Safe
特別収容プロトコル:SCP-12526-JPはサイト-○内にある認識災害収容ユニット197内部に収容されます。この収容ユニットは19×75×14cmの本棚と2畳程度の書斎に偽装され、鉛、テレパシー防壁が組み込まれています。また、このユニット自体に認識阻害装置を取り付けることで、外部からの認知を抑制します。SCP-12526-JPの閲覧はレベル4クリアランス以下の職員による閲覧は禁止され、閲覧後はDクラス記憶処理が義務付けられています。
説明:SCP-12526-JPは日本で発見された10.6×1.4×15.7cmからなる400頁の文庫本です。著者及び、出版社は架空のものが用いられており、現実には存在しません。表題は「??は存在しない」となっており、強度の認識阻害がかけられています。この認識阻害を排除する試みはいずれも失敗に終わっています。
SCP-12526-JP物語内に登場する用語、オブジェクト、収容プロトコルが現実のものと酷似しており、別世界の出来事であることが推測されています。しかしながら[データ削除済み]という部門は存在せず、SCP-12526-JP と同様のK-クラスシナリオが発生したかは不明です。
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存在しないはずだ。だって憶えていないのだから。でも全ての証拠を考えると存在しなければ辻褄が合わない。機関にはそんな部門はない。……本当に?そんなおはなし。
さて、本作はSCPという超常的な存在を確保、収容、保護するというネット上の怪奇創作を土台とするサイエンスフィクションである。現実には存在しない異常な存在「アノマリー」を誰の目にも触れずに管理する。そのための仕様書がSCP記事であり、そのSCP記事と物語から本作は展開された。元となったネット記事とは、所々設定が異なる。ネット記事では舞台がアメリカであるのに対し、本作はイギリスが舞台となっている。主人公夫妻の名前も変更されており、より示唆的なネーミングとなっている。財団なんて単語は一度も登場せず、オブジェクトクラスも風変わりなものが設定されいる。これらの変更にネット記事が好きだった身としては少し残念に思うが、多くの変更は良いものであったと考える。というのもネット記事では登場するアノマリーのうち、本作で登場しないものがある。財団の特殊部隊である「アラ・オルン」である。これは死後の概念かつ、理解するのに財団の異常性を理解している必要があるため、本作で除外することは理解できる。小説として先鋭化された知識を省き、より多くの人が理解できるよう調整されていることが伺える。
本質的に半ミーム部門の戦いは負け戦である。小説内で大敗を喫したということもあるが、半ミーム部門の職員は一度、オブジェクトの異常性に曝露した上で対処しなくてはならないという構造になっている。というのも、半ミームとは存在自体の記憶を定着させず、認識できないという特性を持つ。つまり先手は常に相手にあるということだ。先手必勝という言葉がある通り、先手を打つことの優位性は大きい。初撃で致命傷を喰らえば、存在そのものを抹消され、敗北さえ記録されない。その敗北を積み重ねることで異常性の穴をつき、辛勝を勝ち取る。それが半ミーム部門の勝ち方であり、戦術だ。この犠牲の上で成り立つ戦法は負け戦に他ならない。
私がネット上の「反ミーム部門は存在しない」を読んだのはおおよそ4年ほど前である。当時はSCP記事の隆盛の時期と言え、本シリーズ以外にも多くのSCP記事を目にした覚えがある。その中でも特に異彩を放っていたのが本シリーズである。マリオンとアダムとの関係。アノマリーの特異性。なによりも部門の決定的敗北の衝撃は凄まじいものであった。それを4年ぶりに触れたのだ。同時に、この月日が私から記憶を奪い去ったことに気がついた。マリオンが何を託し、アダムが何を受け取ったのか。反ミーム部門は何故戦っていたのか。忘れられた記憶は本作に触れることで蘇る。私にとって読むという行為は思い出すという行為でもあったのだ。
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