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Posted by ブクログ
パワーファミリーの一日を考える 次に働き方を比べてみました。 場所や時間といった、働く環境に大きく影響を与えるリモートワークに注目してみると、パワー層は、夫婦いずれかがリモートワークをしている人がり・2%、夫婦ともにリモートワークをしている人は30.3%でした(いずれも月1回以上)。 一方、一...続きを読む般層では、夫婦いずれかがリモートワークをしている人(月1回以上)は、15.5%であり、夫婦ともにリモートワークをしている人は、2.8%でした。 パワー層と、一般層間で、働き方に大きな差が見られました(図20)。 パワー層はリモートワークの機会が多いため、住まいで仕事をしながら快適に過ごせるように、住まいの使い勝手を高めるための工夫をしていると考えられます。 マンションの間取りでは「書斎・スタディコーナ1」を設けることや、仕事中の休息を取りやすくするための「自動コーヒーマシン」、くつろぐための「マッサージチェア」など、パワー層の生活シーンを想定したうえで各種商品・サービスの企画ができるのではないでしょうか。 働き方の異なるパワー層、一般層では、夫婦間の家事分担はどのようになっているのでしょうか。 平日の家事分担実態を比較しました(図2)。年代別に見ると若年層の20~30歳のパワー層では、平日、妻が7割以上家事をしているケースは54・7%ですが、一般層では38・3%であり、28・6ポイントの差が見られました。 40~50歳においても18・3ポイントの差が見られ、パワー層が夫婦で協力しながら家事を行っている姿が確認できました。 休日で同様に見てみると、20~30歳のパワー層では、妻が7割以上家事をしているケースは34.0%に下がり、一般層との差は3・4ポイントと広がっていました。休日は、よりパワー層夫婦の協力が進んでいることがわかります。 特に若年層で、パワー層の夫の家事参加率が高いことから、夫婦で使いやすい高さのキッチンなど、夫(男性)にも使い勝手の良い、男性目線の家電やサービスの商品化が考えられます。 お金持ち一家は、どうやってお金を使うのか? パワー層では、夫婦が協力して家事を行っている実態が見えてきました。 では具体的に、どのような商品を所有し、どのようなサービスを利用して生活しているのか、お金のかけどころを見ていきます。 パワー層と一般層の間で保有率の差が顕著なのは、「ロボット掃除機(23・9ポイント差)」、「ドラム式洗濯乾燥機(1・2ポイント差)」、「食器洗い乾燥機(2・1ポイント差)」でした(図22) 夫婦がフルタイムで働き子育てを行うパワー層では、家事を効率化できる(タイパにつながる)商品を多く所有している傾向があることがわかります。 さらに、パワー層へ今後欲しい商品/サービスを聞くと、「ロボット掃除機」8・8%、「自動掃除機能付きトイレ」7・9%、「自動掃除機能付き浴槽」6・7%、「電気調理鍋」6.4%といった省力化/自動化ができる商品や、「掃除代行」7・6%、「家事代行」5.た(図23)。8%といった代行サービスが選ばれていました。 家事の負担や時間をさらに短縮できる商品やサービスが望まれていることがわかります。 また、「マッサージ機」7・5%、「美容家電」6・1%など、疲れを軽減し、リラックスするための商品も見られました。 夫婦共働きで収入はあるが、時間が無いパワー層にとって、子どもと触れ合う時間、学びや趣味の時間、睡眠や休息の時間は、かけがえのない価値があるのではないでしょうか。そのために自分たちの時間を創出するための最新家電・設備、代行サービスなどに注目が集まっていると思われます。 「楽をする、手間を省く」の旧来のちょっとサボっているようなネガティブなイメージではなく、「時間をお金で買う」、そしてもっと大事な事に時間を使うというポジティブな考え方がパワー層を中心に今後広がっていくと考えられます。 では、もしまとまった時間ができたとしたらパワー層は何をしたいのでしょうか。 今後3日以上の休みができたら行いたいことを聞いてみました(図4)。女性20~39歳に着目してみると、パワー層では「海外旅行」33.2%、「趣味に没頭する」18・9%、「美容・エステ」14・8%、「コンサート・ライブ・観劇に行く」14・6%、「資格取得に向けてのスキルアップ」13・6%が挙がりました。 一般層の女性20~30歳では、「マッサージ」「コンサート・ライブ・観劇に行く」「温泉」「友達と出かける」が上位に挙がり、友人や家族と一緒に過ごす内容が多いことがわかります。 一方、パワー層では〝個』での活動が上位に挙がっており「自分に投資する」傾向が見られます。 この傾向は女性で顕著であり、より自分を内面・外見ともに磨き、さらに豊かな生活を手に入れるとともに、仕事でも上位を目指す貪欲なスタイルが見えてきたのではないでしょうか。 今まで見てきた。パワー層は時間が無いから「タイパ」を重視する』という姿のほかに、休日を謳歌するだけでなく、自分を磨く積極的な姿が見えてきました。 パワー層は一般層と比較し、レジャー、サービス分野においても支出額が多いことが読み取れます。 パワー層をターゲットとした商品・サービス開発においては「時間」をキーワードにすることが有効です。 例えば「時短により今の生活を豊かにする」商品やサービスとして、「タイパ家電」「宅配食」「代行サービス」などが挙げられます。 また、「将来の時間を豊かにする」商品やサービスとしては、「視点を広げるワーケーション」「パーソナルコーチ(仕事、資産、生活)」などが考えられ、幅広いビジネスの発想が広がるのではないでしょうか。 「Z世代の価値観」 ・Xや急上昇ワードなどで、話題になっているネタを仕入れる ・ジャンルを問わず、流行は常にチェックしている ・初対面の人と話をするのは苦手だ ・家族と過ごす時間より、自分の時間が大事だ 第2節「令和」を象徴する四つの選択プロセス」とは? 四つの潮流――多様化、賢堅消費、個人最適、リキッド消費。これらは単なる価値観の変化ではなく、日々の行動、とりわけ『選択のしかた」を深いレベルで書き換えてきました。本節では、四つの潮流がそれぞれ選択プロセスのどの部分を、どのように変えたのかを、「起点(どこから始まるか)」「前段(何を確認してから選ぶか)」「基準(何を判断軸にするか)」「更新性(毎回どう変わるか)」という四つの視点で整理していきます。 1 多様化——————選択の「起点」が“属性”から“文脈”へ移る かつて、選択の起点は「20代女性がよく買うもの」「シニア男性の需要」といった属性によって捉えられてきました。しかし現在、同じ属性に分類される生活者の行動は大きくばらつき、“属性が共通でも選択理由は全く異なる」という状況が一般化しています。 その背景には、選択の起点が属性ではなく文脈に移ったことがあります。 「私たちはもう『30代男性』という枠では動いていません。仕事モードの自分、父親としての自分、趣味の自分・・その時々の『文脈』によって欲しいものはまるで違います。従来の売り場や検索は、このコロコロ変わる私の文脈を理解してくれず、ズレた提案ばかりすることに、私たちはストレスを感じていました」という生活者の声が聞こえてくるようです。 例えば、仕事帰りで疲れている子どもと一緒にいる時間がない、気温が高くてさっぱりしたい、気分転換したい。こうした。その瞬間の状態=文脈』が、最初に思い浮かぶ候補(起点)を左右するようになりました。 同じ人であっても、「今日はこれを選ぶ」「明日は違うものを選ぶ」という変動が自然になってきています。多様化とは、〝選択の起点が属性から文脈へと分散する現象」考えています。 2 賢堅消費――選択の「前段」の“安心を確保する 選択の「前段」に”安心を確保する工程”が挿入されるようになったのです。「失敗したくない、損をしたくない」その防衛本能が、生活者を選択の手前で足踏みさせます。レビューを読み漁り、比較サイトを巡回する・・・・・・。私たちは選ぶ楽しみよりも、「安心するための作業」に膨大な時間を費やすようになってしまいました。 その結果、かつての選択は「候補を見つける→比較する→決める」という一直線でした。 今は「安心の材料を集める→その範囲で選ぶ」という前段重視の構造へ移りつつあります。 賢堅消費は、選択プロセスの初期条件そのものを慎重化させた潮流です。 3 個人最適———選択の「基準」が生活者の内側から生まれる 「みんなが良いと言うものではなく、『私にとって』良いものが知りたい」。他人の評価軸ではなく、自分自身のわがままな物差しで選びたい。そうやって、選択の主導権を自分に取り戻したいという欲求が高まっています。他人の評価より『自分の正解』を重視したい自分仕様の体験に価値を感じる。 こうした心理によって、比較の最初の軸は「他人がどう評価したか」ではなく「自分に合うかどうか」へと移動しています。 これは選択プロセスにおいて、最初の比較基準(選択の物差し)が個別化するという変化です。 企業のレコメンドは、この心理変化がつくる構造に『後から重なる』ものであり、生活者の内部基準を推測し、最初の候補範囲を整える役割を果たすにすぎません。 個人最適とは、選択プロセスの基準そのものを個別化する潮流だと言えます。 4 リキッド消費―――選択が積み上げ式”から“流動式』へ変わる リキッド消費は、以下の三つの変化が重なって生まれます。 (1)脱物質:選ぶ対象が『モノ』から『体験』へ広がるデジタルサービスや体験型の消費が増え、選択の対象そのものが、固定された商品カテゴリーから、より広く・より抽象度の高い領域へと拡張しています。 (2)アクセス・ベース化:所有しないため、”都度選択”が増えるサブスクやシェアリングの普及により、生活者は「必要なときに、その都度選ぶ」という行動が標準化しました。”前回の選択”が、次の選択の前提にならないのです。 (3)短命性:ブームも関心も寿命が短いトレンドや嗜好の滞留時間が短く、昨日の選択が今日の選択に引き継がれる保証が弱くなっています。 この三つが重なることで、選択プロセスは「積み上がらない」「毎回リセットされる」という〝流動式の選択」へ移行しています。 そこにあるのは、「『いつもの』に縛られたくない」「前回買ったから今回も、と決めつけられるのが窮屈だ」という心理です。生活者は、その時々の気分で毎回ゼロから選び直したいという、気まぐれで流動的な心理を持つようになりました。これを受けて、企業側にとっては、 一度勝てば次も勝てる”という前提が弱まり、毎回の比較の場に入り続けることが競争条件になってきました。 リキッド消費とは、選択プロセスを固定化から流動化へと押し流していく潮流と整理できます。 「”選ぶ”」を変えた四つの潮流」に共通しているものは何か? 四つの潮流は一見異なるように見えますが、選択プロセスという軸で眺め直すと、すべて同じ方向に収束しています。 1起点が文脈へ分岐し(多様化) 2前段の安心確保が肥大化し(賢堅) 3比較基準が内側に移動し(個人最適) 4過去の選択がリセットされる(リキッド) つまり、四つの潮流はすべて、選択プロセスの『前段』を厚くし、選択の“個別化”を進める方向で働いています。 この厚みを増した前段こそが、本書で繰り返し扱ってきたEMOTの主戦場であり、生活者にとっても企業にとっても、最も重要な接点になりつつあります。 これは単なる消費行動の変化ではなく、生活者がモノ/サービスと向き合う際の意思決定そのものの構造が再編されつつある、ということです。 もちろん、生活者の行動すべてが常に「選択」によって動いているわけではありません。放置や習慣、自動更新に身を任せるような、選ばない行動」も少なくありません。 それでも、ごく短い「選ぶ瞬間」には、その人の価値観や文脈、不安や期待が最も濃く表れます。 そして、この”前段化×個別化”の構造が、次に扱う「AIが選択プロセスと自然に重なり合ってしまう理由」の基盤となります。 第3節AIが押し広げる「四つの潮流」 前の節では、生活者が「属性に縛られず文脈で生きたい」「失敗のリスクを減らしたい」「毎回自由に選びたい」と願い、選択のプロセスを変えてきたことを見てきました。いわば、生活者側には「埋まらない空白」がすでに生まれていたのです。 そこに現れたAIは、何か新しい欲求を作り出したわけではありません。生活者が抱えていたその「空白」の形に、AIというピースが驚くほど正確にフィットしてしまったのです。 なぜAIはこれほど急速に普及したのか。それはAIの機能のすべてが、生活者が求めていた「足りない部分」を補う形になっていたからです。 本節では、この「生活者の空白」と「AIというピース」がどう噛み合ったのか、技術的な側面から見ていきます。 1 多様化―――。いまの文脈』に合わせて候補を提示するAI AIは、この「属性ではなく文脈」という変化に最適でした。 AIは「30代男性」という記号ではなく、入力された言葉の端々から「今は疲れている」「急いでいる」という文脈を計算します。 人間が抱えていた「今の気分をわかってほしい」というニーズに対し、AIはその瞬間の最適解を提示することで応えたのです。それはまさに、選択プロセスの出発点(起点)を整える行為です。 多様化が生んだ、”文脈主導の選択”に、AIは自然に寄り添い、選択を始めるまでの”迷い”を減らしていきます。 2 賢堅消費―安心の材料を瞬時にまとめるAI 賢堅消費には、「買い物で後悔したくない」という、生活者の強い心理があります。 この「安心するための膨大な作業」を、AIが一瞬で肩代わりしました。100件のレビューを3行に要約し、メリット・デメリットを表にする。 人間が安心を得るために支払っていた時間的コストを、AIは限りなくゼロに近づけたのです。 賢堅消費が押し広げた「慎重に調べてから選びたい」という動きに対し、AIはその前段を軽くし、速度を上げ、情報の質を一定に保つ役割を担っています。 3 個人最適―――その人らしい“選び方のクセ』を読み取るAI AIは、数千人向けの正解ではなく、「あなた一人にとっての正解」だけを提示します。生活者が求めていた「自分だけの物差し」を、AIはデータ解析によって擬似的に再現し、目の前に差し出したのです。 スッキリ感を重視する人、失敗しないことを優先する人、店の雰囲気が大事な人――基準はさまざまです。 AIは、この『その人らしい選び方のクセ』を読み取り、最初から「自分向きの候補」だけを並べ、似合わなかったり必要なかったりする候補を外すことができます。またそれだけではなく、普段の選び方の傾向を反映し、本人が気づきにくい基準も補うことで、最初の比較セット(入口)を整えます。 「内部基準を外部化する」という難しい言い方を避ければ、AIがやっているのは結局のところ、〝あなたなら最初にこれを見るだろう」という形に整えることです。 個人最適の動きを、技術の側から後押しする存在だと言えます。 4 リキッド消費――毎回の選択を“流れるように、組み直すAI 毎回ゼロから選び直すのは本来手間がかかります。しかしAIは、過去の記憶に引きずられず、毎回その場で新しい候補を生成(リセット)します。 この「都度生成」の機能が、生活者の「流動的に生きたい」という欲求と合致したのです。 つまり、AIは、現在の文脈を読み直し、最新トレンドを自動で取り込み、過去の行動との整合性を軽くチェックしたうえで、毎回新しい候補をその場で、作り直すことができます。生活者が都度ゼロから選び直す世界において、AIは毎回その瞬間に合わせて選択の舞台を再構築する存在として機能しています。 つまりAIは、リキッド消費が生み出した「流動的な選択環境、と自然に同調し、その流れをさらに滑らかにしていきます。 AIと選択プロセスの関係『肩の上の秘書』(星新一) ここまで見てきたように、四つの潮流はそれぞれ選択プロセスの異なる部分を動かしていました。 1多様化:選択の「起点」を文脈に 2賢堅消費:選択の「前段」を慎重に 3個人最適:選択の「基準」を自分仕様に 4リキッド消費:選択の「流れ」を都度リセット AIはこのすべての部分に自然と入り込むように機能しています。 AIが行っているのは、文脈を読み(起点)、要点をまとめ(前段)、自分らしい比較セットを整える(基準)ことです。 結果的に、新しい候補を提示(流動)、という、選択プロセスの“前段、全体の再設計です。AIは潮流を強制したのではありません。同時に、いくつかの領域では、それまで存在しなかった新しい「入口」そのものを生み出す主体にもなりつつあります。 むしろ潮流が生んだ構造に吸い込まれるようにして、選択プロセスの前段部分に深く定着していった技術なのです。 AIと選択プロセスの関係を象徴する比喩として、今から60年以上前に発表された星新一の短編『肩の上の秘書』は示唆に富んでいます。 物語の中で、営業マンと客は向かい合って会話しています。一見すると人間同士がやりとりしているように見えますが、実は細かい説明や丁寧なやりとりは、彼らの肩に乗った小さなロボット(秘書)同士が行っています。 人間は、秘書ロボットが整えてくれた“要点だけ、を知り、〝要点だけ”を口にします。つまり、人間の表面に見える会話は「要点の交換」にすぎません。 裏側では、秘書ロボット同士が、過去の情報を照合し、条件を整理したうえで、相手の秘書と情報も交換することで、最適な返答を組み立てるという膨大な処理を行っているのです。 この世界は、人間が扱う〝表の層”と、秘書が処理する『裏の層』の二つの層で動いています。 現代のAIも、まさにこの構造を現実化してしまいました。生活者が読むのは、要点の層』ですが、その裏ではAIが、膨大な計算の層」を動かし、選択の前段をすべて整えています。 四つの潮流が前段を肥大化させた結果、その前段を人間だけで処理することはもはや難しくなりました。AIが自然にその役割を引き受け、“裏の層』を担い始めたのです。 今はまだ「秘書(AI)」を信用しきれていない過渡期ですが、未来の生活者は「秘書(AⅠ)」をどう選び、自分の意思をどう反映させるかが大事になるでしょう。 AIは、多様化・賢堅消費・個人最適・リキッド消費という四つの潮流が生活者の選択プロセスを変化させた後に広がりました。 だからAIは、潮流と争うのではなく、潮流に重なり、潮流を押し広げ、潮流を整え、そして生活者の選択プロセスに新しい形をつくりつつあります。 AIが変えたのは生活者そのものではありません。生活者の側にあった「選択の変化」に寄り添い、それを加速させたのです。 その加速が最も色濃く表れるのが、本書でEMOTとして捉えてきた選択の前段・入口の領域です。 そしてこの”前段の外部化”が、後に扱う生活者の未来像を理解するための重要な伏線となります。 第4節企業は、選択プロセス』の変化にどう向き合っていくべきか? 四つの潮流とAIの普及によって、生活者の選択は「前段が厚くなる」「入口が個別化する」という新しい構造へと移行しています。 すなわち、企業はEMOT(選択の入口の瞬間)の設計競争に巻き込まれつつあるとも言えます。 本節では、企業がこの変化にどう向き合うべきかを四つの層(素材・器・意味・構造)というフレームで整理していきます。 これは、「レストランづくり」に喩えるとわかりやすいかもしれません。最高のひと皿(選択体験)を提供するには、新鮮な食材(素材)、清潔なキッチン(器)、シェフの哲学(意味)、そしてメニューの構成(構造)が不可欠です。 これと同様の準備が、これからの企業活動にも求められるのです。そして、これは単なる企業のフレームではなく、生活者の未来像そのものを支える裏側の構造でもあります。 1「素材」とリサーチ――選択をどれだけ正確に計測できるか 選択プロセスの設計素材=データの正しさで決まります。ただし、ここで言うデータは、蓄積された数字ではなく、生活者をどう計測したか(リサーチそのもの)を指します。 ここで言うリサーチは、狭義のアンケート調査だけを指すのではありません。センサーデータや購買ログ、店頭情報など、生活者を捉えるあらゆる計測活動を含む広い概念として用いています。 生活者の選択が文脈依存・個別化・流動化していくほど、素材には次の三つが求められます。 (1)正確性(バイアスの少なさ):偏ったデータでは入口が歪みます。AIはデータを疑わず、誤りをきれいに要約してしまいます。 (2)鮮度(新鮮さ):生活者の価値観・行動の変化が早いため、古いデータは入口の精度を大きく下げます。 (3)代表性と文脈:『誰から取った情報か』『どの状況での計測か”が重要です。 そして、この素材をつくる最上流が「リサーチ」です。 リサーチは、従来のアンケートに限りません。 「意識の定点観測(定量調査)」「文脈の可視化(定性調査)」「パネルデータ(継続トラッキング)」「購買・視聴・移動のログ」「店頭」「ECデータ・センサーデータ・ソーシャルデータ」…・・・・。これらのすべてが入口の素材となります。 つまり、AI時代は,入口の素材づくり」のためのリサーチの重要性が増していきます。企業が入口を整えたければ、まず素材を整えなければなりません。 2「器」とデータ基盤――素材をつなぎ、扱える状態にする、"基礎装置” 素材が整っても、それを扱えなければ意味がありません。ここで必要になるのが、Snowflake、Databricks、BigQueryなどに代表されるデータ基盤です。 選択の入口が個別化されるほど、扱うデータは「多様」であり、「粒度が細か」く、「更新も速い」。その一方で「量が膨大」となり、「関連性も複雑」化していきます。 データ基盤はこれらを一箇所に集め、つなぎ、使える形に整える”器”の役割を果たします。 ただし――器がいくら立派でも、素材が悪ければ意味がありません。素材(リサーチ)と器(データ基盤)は常にセットで考える必要があります。 3「意味」とブランド――入口と体験をつなぐ二つの役割 選択の入口が個別化されるほど、それに意味づけをするブランドが新しい役割を引き受けるようになっていきます。ブランドは、入口と体験をつなぐ役割へ進化します。 (1)第一の役割:入口での軽い意味づけ』(無意識的・自動的な思考への作用) 入口の瞬間、生活者は深く考える前に判断します。 このときブランドは次のような軽い意味」を提供します。例えば、「今回の選択は『安全』」とか「この文脈ならこのブランドで良い」「これは自分に合いそう」といったものです。 これは行動経済学の父としても名高いダニエル・カーネマンが論じた「システム1」や、マーケティングの理論家バイロン・シャープが紹介した「メンタル・アベイラビリティ」にビリティ」に近いものです。 この二つの概念に共通して言えるのは、人は選択の初期段階において、合理的に比較検討する前に、記憶に残りやすく、思い出しやすいものや直感的に「間違いなさそうだ」と感じるものに強く引き寄せられる、という点です。 その点においてブランドは、入口の意味のレイヤー』として機能します。 (2)第二の役割:体験を通じた長期の価値形成(ブランド資産) そして、入口は最初の一歩にすぎません。 その後の比較・使用・継続の中で、生活者は「期待通りだったか」「自分の価値観と合うか」「企業の姿勢に一貫性があるか」「世界観に共感できるか」といった、深い層でブランドを形成していきます。 ブランド戦略論の第一人者であるデービッド・アーカーや、ケビン・レーン・ケラーが示した「ブランド資産」(迷いが生じる前に「これでいい」と思わせる判断の近道のこと)はこの層に対応します。 ブランドは、「入口の軽い意味」と「体験の深い価値」の二つの役割を持つことになるのです。 4「構造」と入口の設計―――選択の“最初の3秒」をどうつくるか 選択プロセスの入口とは、生活者が比較・検討を始める『最初の3秒”に何を見るかを決める仕組みです。 生活者はこの瞬間に、「どの候補から比較するか」「どんな基準で見るか」「何を頼りにするか(安心材料)」「何を避けるか(リスク回避)」といった、選び方の構え」を決定しています。 この「最初の3秒の設計」こそが、本書でたびたび言及してきたEMOT(選択の入口の瞬間)のコアです。 入口を構成する主な要素は次の四つです。 (1)最初の候補の並び(初期セット):その人の文脈・状況に「合っている」候補。 (2)最小限の比較軸(初期基準):生活者がとりあえず比べるポイント』。 (3)安心材料のひとこと:「これは失敗しにくい」という軽い保証。 (4)地雷の事前除去(誤解の回避):不要な不安を入口のうちに消す。 AIはこれらの入口構造を自動的に整えます。だからこそ企業は、入口をどう設計するかを主体的に決める必要があります。 入口とはコピーでも宣伝でもありません。比較がどのように始まるかを規定する〝構造そのもの”です。 企業は”入口の設計者”へと進化する ここまでの議論を、より抽象度の高い『構造』としてまとめると、選択プロセスの前段は、以下の四つの層によって成立します。 素材:リサーチ(正しい・新鮮・代表性のあるデータ) 器:データ基盤(素材を扱える装置) 意味:ブランド(入口と体験をつなぐ意味づけ) 構造:入口(選択がどのように始まるかの仕組み) 言い換えれば、これら四層が整うことで、企業は自社なりのEMOT(選択の入口の瞬間)のかたちを設計できるようになります。 ここでは理解のために四つの層として切り分けていますが、実務の現場ではこれらの層は互いに重なり合いながら同時に動いています。境界がにじんでいること自体が、生活者の実態に近いと言えます。 これらは単独では機能しません。むしろ四層が揃って初めて、選択の前段は正しく立ち上がります。 そしてこの四層は、企業が整えるべき『戦略フレーム』であると同時に、生活者の未来像の裏側を形づくる構造でもあります。 AIが前段を整える時代、企業の役割はむしろ「素材(リサーチ)」を整え、「器(データ基盤)」を整備し、「意味(ブランド)」を与え、「構造(入口)」を設計するという、前段全体の統合設計を担うことにあります。 四層すべてを一度に完璧に整える必要はありません。自社の状況に応じて取り組みやすい層から着手し、少しずつ連動を高めていくことでも十分に意味があります。 四層を整えられる企業は、生活者と最も強い関係を築くことができます。 第五節 選択のかたちが変わった先の「生活者」の未来像 1 生活者は”入口から始まる選択”により慣れていく 2 生活者は”素材(データ)によって描かれる存在”になる 3 生活者は”器(データ基盤)によってつながる存在”になる 4 生活者は”意味(ブランド)によって選択を調整する存在”になる 5 生活者は”構造(入口)を自分で選ぶ存在”になる
なんとなく実感のある生活の変化がデータ化されている面白い本。多数出てくるグラフを自分なりに解釈しながら読み解くのが面白かった。 最終的にはビジネスへ活かす考察がなされているが、とりあえず生活者として読むことをおすすめする。
面白かった。仕事に役立つかな、勉強になるかな、と思って読んだのだけれど。統計して、統計データから見えてくるものを解説してくれる。その辺に面白さを感じる。統計データから何を読み解くのか。そこら辺を勉強したいなぁ。
自身が登録している消費アンケートサイトの結果がこのように使われているのだと大変興味深く読みました。 評価が星3つなのは、途中の章が首都圏中心のデータ分析で、圏外の者からは実感の湧かない内容だったからです。 割と最近の世間の動向が少し見えた気がします。
データを元に令和の時代の傾向を読み解く本 一冊全部データと分析なので興味のあるところだけ飛ばし飛ばし読んだ
タイパ時代の消費行動をなんとなく感覚理解していたところだが、データを見ることで根拠を持って理解できるようになった。 全体的に淡々とデータが展開されている感じなので、興味のある部分だけ読むスタイルが良さそう。
【入口はAI】 AIの進歩により、おのおのがAIアシスタントをつくる時代になります。 まず1番初めに相談するのが自分のアシスタントAIで、 「今日の昼飯何がいいか教えて」 「明日の服装はどうしたらいい」 「来週の献立を考えて」 「スマホを新しくしたいけどどれがいい」 など、AIがその人の秘書となっ...続きを読むていろいろとアドバイスします。 しかも、一般的な答えではなくその人に最適な回答をします。 その人の購買意欲をかきたてるには、その人のアシスタントAIを攻略する必要があります。
推し活が物価高に影響しないというのは面白いと思った。ますます個人最適化、流動的な選択が今後も進むし、本書の通りこの時代にAIはとてつもなくマッチしていると感じた。
人の選び方はこれからより多様化していく。 日本人がどんなモノを選んでいるのか、価値観の変遷、そして未来にどんな選択をしていくか。調査会社インテージは知っていても、そんな調査もしている(データもある)のかと、序盤はちょっと驚きつつ興味深く読んでいった。 コロナ禍や物価高といった現象の影響がグラフとし...続きを読むて見ると分かりやすく感じるものも、多かった。 ちょこちょこマーケティング的な助言は入ってくるが、終盤の内容含めこれだけ人の選択が多様化すると、STPの定め方も容易では無くなってくるように感じた。
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