Posted by ブクログ
2022年05月08日
宮崎駿の対談なんて面白いに決まってる。一言一言がワクワクするし、聞き逃したくない。一瞬で購入を決めた。
駿が対談相手に選んだという半藤さん、私は存じ上げなかったのだけど、著者紹介に2021年1月永眠とあって、つい最近のことでなんだか悲しくなった。帯にも「追悼」とあるもんね。
この本を読んでいる途中...続きを読む、最近たまたま録画していた山本五十六の特別番組を見ていたら、半藤さんがVTR出演されていて驚いた。対談から受ける印象そのものの、お上品そうな?おじさんだった。
2人とも好奇心旺盛で中身が若く、謙遜して相槌を打っているように見せながら知識披露合戦を繰り広げている。
p25
2人とも漱石のファンらしく、『こころ』について半藤さんが「遺書が長い」と言っていて笑った。やっぱり思うよね、あれは遺書の文量ではない(笑)
実は志賀直哉のためだったとは。
『風立ちぬ』エピソードは興味深い。最近じっくり見て、大人向けのいい映画だなと思っていたから。
戦争の話にもなって、そういえば駿は飛行機が大好きだったの思い出した。
p40
「艦橋」って初めて知ったけど、そういえば軍艦て、よくわからないものがデコボコうず高く積まれているイメージ。あれがただ見栄を張りたいだけだったとしたら、相当アホらしい。係長がいっぱいいる町役場って例えがぴったり。
p54
「五機つくって南方に送っても、着くのは一機だけ」「五機同士でアメリカと日本の飛行機がすれ違うと日本は一機だけ残って、向こうは一機が薄い煙を吐くだけ」
戦時中でさえみんな日本は負けだと分かっていたのに、なんで戦い続けるんだろう。いやそもそも、開戦前から勝てると思ってたのだろうか…
p66
日本は自分の国をそもそも守れないそうで、守れないとなったら攻撃するしかない、「攻撃こそ最大の防御」だということで侵略主義に…ということらしい。ところが資源もないのでどのみち負けなんだそう。
勝つ負けるの問題ではないけれど、負けると分かっていても侵略だの攻撃だのって、いつか報われるとか、頑張ればもしかしたら戦勝国となり得るとか考えていたのだろうか…
安直で、愚かで、頭の中お花畑だなと思う、今の日本も。
p71
「いまもそうですが、この国は責任者というものがわからないような仕組みになっているんです。」
それは責任者と言えるのか?むしろ部下に押し付けたり、丸投げだったり、放置したり。自分の方が給料も待遇も良いはずなのに、後輩や部下を助けようとしない。でもそういう人は自分で自覚しているはずで、自信もないし罪悪感を感じているはず。必ず、相応の罰が下る。
p77
お二人によると、この先日本が世界史の主役になることはなく、脇役でいいそうで、強い人からしたら情けなく、勇ましくないように見えるが、そういう「腰抜け愛国論」というものもあるのだと…それでタイトルの意味が分かった。
p82
ジブリがデジタルになった理由が、フィルムだとお金がかかるからだったなんて。現像所も少なくて、フィルムの質を保つのも難しいと…フィルムカメラとデジカメのようなものか。最近そういえばBlu-Rayで作品を販売していたのも、劣化防止がきっかけだったのかな。
クリエイティブな仕事をしている人は、高齢になっても常に時代に合わせて最先端を取り入れていかざるを得ないこともあるんだなぁ。
p90
半藤さんの父は、太平洋戦争が始まった日に日本は負けると予想していたらしい。それも大声で吹聴していたらしく、近隣住民に密告されていたとか。区議会議員だったからすぐに釈放されたものの、異なる意見を持つ者であれば自国民でさえ切り捨てるその考え方が恐ろしい。
p95
半藤さん、ハチ公の銅像と、まだ生きているハチ公を見る為に渋谷に行った思い出があるらしく、ハチ公を見た人が平成(令和)に存在していたと思うと不思議な気分。
p113
駿のおじいさんの機転がすごい。大地震の直後に真っ先にご飯を食べて、お金だけ持って逃げて材木を買い占め、それを売って震災復興で儲けるなんて。さらに世界恐慌を他国のヒット商品のまがい物を売ることで切り抜けて苦労知らず…
知恵があり生きる力が強い人なんだなと。さすが駿の一族!
p128
最近のジブリが昔のようにファンタジーじゃなくなったのって、リーマン以来、世の中の情勢が変わったからなんだ。世界が不安な時に、ファンタジーは空想的でチグハグな感じがするからなのかな。
私はリーマンショックの影響をもろに受けた世代だけど、でもジブリでは昔みたいなファンタジーも見たいなぁ。空想の世界で癒やされたい。物語の世界では現実を直視したくない。
p160
堀辰雄は戦時中に既に、戦後はEUのような国家間の連合が希望になると考えていたようで、いつの時代でも先のことを考えられる、時代の一歩先をゆく人は存在していたのだなと感心する。
p193
「この国はあいつのおかげで滅んだ」ほらやっぱり、責任をなすりつけている。対立する意見を自分の主張で納得させられなかったならそれはもはやどっちが良かった悪かったとは言えないのでは。最終的にどちらも意見を譲らず中途半端な飛行機が出来上がったのは、紛れもなくどちらにも責任がある。これが決定権を持った人のやることなんだろうか。この人達は仕事をしていないも同然じゃないか?
こういう有能でないオジイサンの為に、何人の若者が亡くなったんだろうと考えると本当に虚しい。しかもオジイサンは生きている。国民は軍に対してなぜ反撃しないのか?と思うのだけど、それは当時の様子を知らないから言えるのだろうか。
p211
『こころ』のお嬢さんが2人の好意に気付いていたかについて。私も絶対気付いてないと思ってた。文面からはそんな要素が一つも感じられない。Kとは仲良さそうな印象を受けたけど…だから先生が急にお嬢さんのお母さんに娘さんをくださいと言う場面、お嬢さんの意思も確認せずモノのように奪う感じがして、何か不愉快。
あと主人公と未亡人のお嬢さんが結婚はどう考えてもないでしょう。
p221
「民草は食うのに一生懸命」「ほとんどの人が刹那的」…では戦争以前は、戦中・戦後を想像できたのだろうか。どうやって戦争に突入していったんだろう。覚悟はあったのか。
よく思うのが、戦争中、南国の真っ青なスカイブルーの海を見て、戦争する気が起こるもんなのか、あんな美しい海の上で殺し合う気なんて起こるのかと思うけれど、命じているのは安全な場所にいる参謀本部なわけだから関係なかった。
令和の現代も、若者はお金もないし未来は不安だらけだし、一生安泰な職業なんてもはやない。国が不安定だと国民は刹那的に生きるしかなく、悠長に未来を考える間もなくなるのか。
p234
「エネルギーが石油に移行することをしっかり認識しておれば、次の戦争の主役は飛行機と戦車と潜水艦になるということがわかったはず」
p235
エネルギーの大転換は歴史の節目節目に必ずやって来るものだが、日本人はそのことに対して鈍い民族…
国家そのものが何事も後手に回る受け身だし、刹那的。他国の真似は得意だが、リーダーには向かず、非合理的で決断が遅い。結局、得意だったことも次々と外国に乗っ取られてしまう。
思考停止と無責任の集まり、それが日本…なんでしょうか。誰か否定できるならして欲しい。
p238
ソナーやレーダーの話、呆れて笑えるほど非合理的。駿に発想が役所で、バカとまで言われる海軍。上がポンコツだと下は失わなくて良い命が失われるんだなぁ。どうしてダメだと分かっていて、発言や改善ができないんだろう??日本人に限らずなのかもしれないが、本当に非合理的で、無駄に空気ばかり読む「動物」なんだなと思う。空気が何か解決してくれるんでしょうか。そして対して読めてもない。
p242
「歴史は四十年サイクルで盛衰して行く」という半藤さんの「四十年周期説」…
面白い。2013年の当時で「失われた20年」だとすると、1990年頃から確かにバブル崩壊の影響で不況が始まり、となると2030年代頃にはどん底を迎え、それ以降は上昇していくのだろうか…だったらいいな。
p243
私も年金のために子どもを産まなきゃいけないなんて馬鹿げていると思う。どうしてそんなに視野が狭くなるんだろう。目的は、子どもを増やすことじゃないでしょ。その考え方は中国のひとりっ子政策と一緒。人権がない。不自然。
それに今の若者は昔ほどお金や心に余裕がない。希望もない。生まれたときから不況なんだから。
だからこそ社会制度を変えるとか、あるでしょ。
皆が快適に暮らしたいという目的の為に、手段を間違ってはいけない。国民同士で揉めてどうする。そんなことより全世代、選挙に行った方がいい。
p245
確かに日本は着るものや食べ物など、自国で何も作ってない。そして国民は自覚していない。
私は水が奪い合いになるかも…という話は聞いたことがある。そうなったら地球が終わる、ぐらい恐ろしいことだなと思った。
p247
尖閣の問題、2人は棚上げしたほうが良いという意見なんだ。先送りではなく、堀辰雄が考えたように東アジアにEUのような制度を作って、未来に希望を見出す形で。個人的にはアジアは個性が強すぎてまだ難しいとは思うけど。
テレビで、戦争を起こさない為に地球全体を連合国のように考えて国境を無くすのはどうかいう考えも聞いたことある。
もしかしたら、これからの人達には国境なんて見えなくなるのかもしれない。でも決して、戦争をしたらどうなるかは忘れてはいけない。戦争で解決なんてしようとしてはいけない。
p267
半藤さんのあとがきがまた素晴らしい。
「いまの日本の政治は期末利益優先の株式会社の論理で国家を運営している。わたくしにはそうとしか見えません。とにかく目先きの利益が大事であって、組織そのものの永続は目的ではない。自然資源や医療や教育や自活の方策など、国民再生産の重要課題などは後回しで、その日暮しで、国民の眼くらましとなる利益のあがる政策最優先です。」
「でも、「国家百年の計」という言葉があるように、百年スパンでことを考え構想し、それへ一歩踏み出すのが国家運営の責任をもつ人たちの仕事だと思うのです。」
先日、私の祖母が最近の政策を鑑みて今の若者はかわいそうという話をしていて、ハッとなった。
人口に対して高齢者が多い→票を得るために高齢者向けの政策ばかり作られる→高齢者向けの政策を作った政党に投票される→若者が不利…
と考えていたけど、勝手に高齢者VS若者のような構図になっているけれど、若者や未来の日本のことを考えてくれる高齢者はいる。やっぱり社会問題を身近に捉えているし、それに対する見解も長年の経験や勘から的を射ている。
逆に若者の方がまだ人生経験も浅く、自分の未来に降りかかるであろう問題が見えていない、実感がない。けれどこれから苦労するのは明らかに若者だ。
だから、高齢者と若者と分けて対立させるのではなく、協力してお互いの良いところを掛け合わせる。高齢者には若者のアドバイザーやコンサル的な立場になってもらい、若者はその情報を元に未来への対策を構築し、実行する。
人間の一生はそんなに長くない。何の情報もなく無策で生きていると、要領を掴んだ頃には寿命を迎える。それは知能の高いはずの人間には勿体無いことではないか。
0から人生を始める必要はない。言葉や本やメディア等で先人の知恵をお借りして、目一杯利用する。
どうせなら自分が生きている間に、世の中が目まぐるしく発達し、より生きやすくなっていけば幸せじゃないか。
私達の世代は生まれた時から未来に希望が見えず、不安だらけで期待もしていなかったけれど、まだ諦めなくても良いのかもしれないと思える。
きっとこの対談の二人や私の祖母、その親世代が若者であった時代は生き残ることさえ難しかったと思う。
それでも生きて、今の若者世代を慮る人がいるということは、若者にとって非常に心強いことではないかと思う。
半藤さんも期待していたジブリの次回作、まだかな…。
20220508