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飛騨から信州へと向かう僧が、危険な旧道を経てようやくたどり着いた山中の一軒家。家の婦人に一夜の宿を請うが、彼女には恐ろしい秘密があった。耽美な魅力に溢れる表題作や、滝の白糸で知られる「義血侠血」、「夜行巡査」「外科室」「眉かくしの霊」の5編を詳しい解説とともに収録。(C)KAMAWANU CO.,LTD.All Rights Reserved
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Posted by ブクログ
泉鏡花の『外科室』に魅力を感じ、それならばと『高野聖』も手に取ってみました。 こちらも面白い。 原文・文語体ですが、読みにくさが却って一層話を怪しくしています。 ミステリーではないですが読み終えてから、思わず読み返しました。 旅先で出会った、二人の僧侶が、道中暇なればと世間話を交わします。 昼に開...続きを読むいた弁当をきっかけにやあやあと行先を伴にします。一晩宿に泊まり、片方の旅僧が話を始めます。 飛騨から信州へ。山を超えようと、途中分かれ道に当たる。先を歩く薬売りが旧道を選び「こちらが正しい」というも、どうにも怪しい廃れた様子。そのまま別れてもよかったが、やはり気になり追いかけます。途中に蛇は出るは、ヤマビルは出るは。ろくな道じゃない。引き返そうと思うも、薬売りの安否も気になる。そうこうしているうちに日は落ち、道は暗く。引き返す方が怖くなり、目をつぶるように道を進むと一軒の古屋に辿り着く。出迎えか門に立つ主は「阿呆のよう」。すると奥から家の婦人が現れる。 旅僧は世話になるのを悩みに悩み、されどヤマビルにかまれたが痒すぎる。一息つけるのならばと婦人に頼み、一夜の宿を頼む。 風呂はないが川がある。夫人に連れられ、その川でヤマビルに噛まれた皮膚を流すと、夫人が衣を脱いで背中を撫でてくる。その手に触れられると、痛みは消え、川の水は冷たさを失い、その呼吸は花の香のようであった。 家に戻りようやく布団に入ると、外が騒がしい。牛の声。サルの声。二本足の獣が草履を履いて歩いてくるような音まで聞こえる。家の周りを魑魅魍魎が囲むよう。 すると夫人の声「お客様がいらっしゃるでしょう」と。 私はお経を唱える。 朝を迎え、別れを告げ川を下る。 修行の身なれど、この先歩いて行かば何が楽しかろう。年老いた老婆にお茶を出されるが関の山。修行を成し遂げられぬども、この婦人とそばに居られることに比べればなんの後悔もない。 川が巌にぶつかり二つの滝に分かれる。幅の広い滝の堂々たる音に男たる勇ましさを見、幅の狭い滝の静々と流れる様に、男の膝にすがる女のしおらしさに見て取る程の想いであった。 「引き返そう」 そう思うていたところに、宿の主人が声を掛けてくる。 「さてはうちの嬢様に心惹かれましたな」 「昨夜、川に行かれましたが、私は驚いた」 「帰ってくるあなたはまだ人の顔、人の体をしておった」 「悪いことは言わない、心固くして早く先に進むがよい」 翌朝、旅僧が雪のかかる山道を登っていくのを、名残惜しく見送った。 雪が降る中上っていく後姿はまるで雲の向かうかのようであった。
美しい文章と精緻なストーリー、独特な世界観と人間観、後の文豪たちが鏡花を崇拝する理由がわかりました。文語体で読むのは骨が折れましたが、それをする価値がありました。
これは……なんで今まで読まずにいたのだろう。 こんな幻想的な小説を書く人が、ずっと昔に存在していたんだ。 素晴らしすぎて、言葉にならない。 美しい文章に流れるようなペースで読んでしまった。
幻想的で艷やかな文体で綴られる短編集。漢字が多くて難しく感じたが、それでも耐えて読んでみると作中の風景がありありと目に浮かんでいた。『夜行巡査』がお気に入りかも。
親が小説の面白さをを理解した作品としておすすめされたので読んだ。 眉かくしの霊を読んだ後の気持ちを、40年前の親も味わったんだなと重なりを感じて不思議な気持ちになった。
どの小説も、情景描写が繊細で読んでいてとても惹かれるものがありました。特に後半二つの高野聖と眉隠しの霊は、とても読みごたえがありました。 私の故郷の地名も登場していたので、想像しながら読み進めることもできてとても楽しかったです!
古い文体だけど読みやすかった。 文章のリズムも良く言葉も美しい。 何よりストーリーが面白い。特に前半の3つの恋物語はいずれも成就しないで終わっている。その秘めたる想いが何とも哀しく美しい。
漢字の多さにおののきつつ読み進めていくと、物語にいつの間にか引き込まれていました。義血侠血も、外科医も、夜行巡査も、眉かくしの霊も、死が纏いついて綺麗だけど引いてしまう中、高野聖はユーモアと救いのある点で、この中では一番好きな話です。他の作品も読みたいです。だけど休み休み。だって疲れるー。
角川の夏フェア本。かわまぬカバーにひかれて。泉鏡花賞は存じ上げていたが大元の泉鏡花作品は初。世間は不条理にあふれているが、その不条理の中で生きるのが人の業というもので。人には様々な事情がつきまとうものだが、どこかに肩入れするでもなく、フェアネスにあふれた描写がよかった。漫画「秘密」で青木が言ってた外...続きを読む科室が収録されていて、読んで納得。確かに青木の言わんとすることは言い得て妙であった。
全体に歯切れ良くリズミカルな文章。擬音語の差し込み方が印象的で好き。最後までぐいぐい読まされてしまう。 初めの収録作品は、まず怒涛のように押し寄せる見慣れない漢字や古い文法に面食らったけれど、分かり易い展開と心情描写のお陰で、慣れてしまえばすいすい読めた。高野聖、眉かくしの霊になると、大仰な表現は...続きを読む鳴りをひそめ、華美な装飾を削ぐことでさらにリズムの良さ、品の良さが際立っている。美しい情景描写を堪能し、楽しい読書時間を過ごせた。 以下ネタバレ含む、各話感想。 義血俠血 勢いの良い若々しい文章。義理人情が主題のためか、熱っぽくドラマチックな展開が続き、まるで舞台を観ているよう。 特に多く割かれた前半の競争シーンや、白糸の殺人を犯す場面は圧巻の臨場感! 夜行巡査 抑揚がなくやや退屈。伯父と八田の極端ぶりには心底驚き。最後に皮肉っている辺り、揶揄の対象を考えさせられる。 時代を考えると社会派な一面もある作品?色々な読み解き方がありそう。 外科室 まさに病院の中のような白っぽい文章。 道ならぬ恋、ひた隠していた想いが情熱を育み、それを解き放つとき。 非常に奥ゆかしい恋だと感じつつも、夫人はなんと剛毅な人かと。読んでいて血の気が引いた。 高野聖 ぐんと文が洗練されている。これまでの小話よりも話の奥行きも増したように思う。 色っぽい場面があるけれども、艶かしさよりも、妖しさや神秘性が際立つ。 蛭の森や水辺の描き方など、異形の世界のようでありながら、神話的な荘厳さも感じる。 読解力不足で大事なところを見逃したみたい。「高野聖」に呼び名を変えたところを気付かなかった。 忘れた頃に再読しよう。 眉隠しの霊 これもまた舞台にできそうな美しさ。 お化けものながら、こちらもやっぱり高貴な雰囲気漂う。 残念ながら物語それ自体については、理解が及ばなかったのか、良さがわからなかった。 自分の旦那を救うのに、旦那の情婦に協力してもらう…?当時では不思議でなかったの?あとがきでもなんじゃそりゃ扱いされてたので、なんとも。。 しかし綺麗だった。幽霊の登場シーン。
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高野聖(角川文庫)
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