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腐敗し白骨化してゆく亡骸の変化を、九つの段階で描く九相図。仏教とともに伝来し、日本に深く根を下ろしたこの不浄の絵画は、無常なる生命への畏れ、諦念、執着を照らし出す。精気みなぎる鎌倉絵巻から、土佐派や狩野派による新展開、漢詩や和歌との融合、絵解きと版本による大衆化、そして河鍋暁斎や現代画家たちによる継承と創造へ――。芸術選奨新人賞・角川財団学芸賞ダブル受賞作に補遺を付し、全作品をカラー掲載する決定版。
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Posted by ブクログ
何度も手にとってようやく、購入しました。 東洋には、死体が腐乱して白骨となるまでを9つの相で表す、九相図という絵画がある。 これは、死体の変化と僧侶の修行の段階を表した九相感と重ね合わせたとある。僧は人が変わりゆくのを見て、修業に励むのである シルクロードの石窟にも書かれた九相図は、日本に伝来して、...続きを読む鎌倉仏教と結びつき、凄惨な主題であるにもかかわら、その絵は圧倒的な美しさをたたえてた。 九州国立博物館に伝えられた、九相図に対して、詞書(ことばがき)も、外題(げだい)もなく、箱書きのみから、その手がかりを探ることからはじまる。 先ず絵巻には、出所となるものがなにも書いていない。過去に修繕された形跡があり、そのときに、後世に伝えることをはばかるものを省いたのかもしれない ふたの表に、「九想図 土佐光信筆 西塔寂光院什物」 土佐光信 1462~1520活動期 室町時代後期に活躍したやまと絵師である 旧所蔵先 西塔寂光院 は、比叡山延暦寺の西塔、延暦寺第二世座主の円澄が開いた寺院である すなわち、寂光院の宝物の1つとして後世に伝わったものと推定をされている。 九相とは次の状況を言う 脹相(ちょうそう) 顔色が黒ずみ、身体は硬直して手足が花を散らしたようにあちこちを向く 壊相(えそう) 皮や肉が破れ壊れ身体の色が変わり、識別不可能となる 血塗相(けちずそう) 血が流れだし、あちこちに飛び散り溜まり、ところどころをまだらに染め、悪臭を放つ 膿爛相(のうらんそう)肉が流れて、火をつけたろうそくのようになる。 青瘀相(しょうおそう) 死体が腐敗して黒ずむ、痩せて皮がたるんでいる 噉相(たんそう) 動物に食われて、肉片が、引き裂かれ、ちりぢりになる 散相(さんそう) 死体の部位が散乱する。 骨相(こつそう)膿やあぶらがついた骨と白骨とに分かれる。散乱している 焼相(しょうそう) 魔訶止観には記載がない 天台僧源信が残した、「往生要集」にある、人道不浄相が「魔訶止観」と「大般若波羅蜜多経」を引用に後世に多大なる影響の残した 古事記の伊邪那岐(いざなぎ)命と伊邪那美(いざなみ)命の黄泉の国の話、見てはいけないといわれてみていたら、蛆がたかり忌まわしい姿の元妻のすがたに、急いで逃げ帰り、黄泉の国との入口を大きな岩でふさいでしまう。 嵯峨天皇皇后で、仁明天皇母の、檀林皇后が、世人の愛欲を戒めるために自らの遺骸を野に捨てるように遺言した話 小野小町が、驕慢の果てに零落し、死後にはその遺骸を葬る者もなく、野ざらしのしゃれこうべになったという伝説 花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせし間に 思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを なくなった妻の死体を捨てないで、横に寝ていたら、変色していて、そのことがきっかけで発心(出家すること)した、高僧の話などが紹介されている 全国には、10以上も九相図はのこっており、2004年に松井冬子が「浄相の持続」という絵画を表し、平野美術館へ委託している。 人間は時代が変わっても、決してかわってはいない。 身近な死体と、情念、そして仏教とをつなぐのが本書と理解しました。 目次 序 九相図の一五〇〇年 第一章 九相図とは何か 第二章 九相図の源流──西域・中国から古代日本まで 第三章 中世文学と死体 第四章 「九相図巻」をよむ──中世九相図の傑作(一) 第五章 国宝「六道絵」の「人道不浄相図」をよむ──中世九相図の傑作(二) 第六章 「九相詩絵巻」をよむ──漢詩・和歌と九相図の融合 第七章 江戸の出開帳と九相図 第八章 現代によみがえる九相図 おわりに 補遺 朽ちてゆく死体の図像誌──戦の時代の九相図 文庫版あとがき 図版協力 参考文献一覧 ISBN:9784044007485 出版社:KADOKAWA 判型:文庫 ページ数:400ページ 定価:1740円(本体) 発売日:2023年07月25日初版発行
以下の箇所を中心に読んだ。 序 九相図の一五〇〇年 第一章 九相図とは何か 第二章 九相図の源流──西域・中国から古代日本まで 第三章 中世文学と死体 第四章 「九相図巻」をよむ──中世九相図の傑作(一) 第六章 「九相詩絵巻」をよむ──漢詩・和歌と九相図の融合 第七章 江戸の出開帳と九相図 第八...続きを読む章 現代によみがえる九相図 おわりに 文庫版あとがき 大河ドラマ「べらぼう」で、「愛した女性が亡くなり腐っていく様を目にしながらも、彼女の“美しい姿”を描き続ける喜多川歌麿」というシーンがあり、あまりにもつらくて最高だったのだが、そのシーンで九相図を思い出したので積読棚から引っ張り出してきた。 (歌麿がしていたことは九相図とは真逆だが) 現在では『呪術廻戦』で九相図を知った人も多いかもしれない。 私が初めて知ったのは、河鍋暁斎の展覧会だった。 幽霊・髑髏という流れで見て、かつ、暁斎が九歳の頃に川で拾った生首を写生したというエピソードを知っていたため、最初は暁斎の趣味かと思ってしまった。 後に仏教絵画だと知り、強く印象に残ったのを覚えている。 これまで私は、九相図とは男性出家者のための「性的煩悩(=女性)を退ける修行」に使われるものだと思っていた。 しかし九相図はそれだけではなく、近世初頭では女性が主体的に仏教へ関与する手段としても使われていたことが、この本を読んで分かった。 特に興味深かったのは、九相図が日本に伝わってきた頃のことだ。 九相図の各相を詠んだ詩「九相観詩」が日本に伝わったとき、出家者の悟りのための厳しい修行である「不浄観」から、在家者の共感を得やすい「無常」へと文脈が発展していた。 伝わったそのときから、文学的側面も色濃く結びついていたようだ。 そしてその後、朽ちていく死体を四季の移り変わりと重ねて詠んだ「九想詩」も生まれた。 この「無常観と四季」という組み合わせは、当時の日本人にウケるだろうな……というのが第一に感じたことだった。 九相の変化を四季の移り変わりになぞらえるという趣向は和歌にも取り入れられ、中・近世日本で制作された多くの九相図にも受け継がれているそうだ。 今回嬉しかったのは、河鍋暁斎の九相図について詳しく知ることができた点だ。 河鍋暁斎は私の推し絵師の一人であり、私が初めて九相図と出会ったきっかけでもある。 そんな彼の絵をカラーで見ることができ、また詳細な分析を読むことができて嬉しかった。 また河鍋暁斎の次に挙げられていた山口晃の「九相圖」は、私の中の九相図のイメージを大きく変えるものだった。 描かれているのは間違いなく九相図なのだが、死にゆく馬の胴体がバイクになっている。 やまと絵のような風景の中にバイクと融合した馬が存在している、そのチグハグさが面白かった。 一度生で見てみたい作品だ。 九相図は仏教絵画であるが、この本では文学的側面や説話にも目を向けており、たいへん面白く読むことができた。
仏教における過去の日本の女性たちの立場が九相図で朽ちていくのがほぼ女性であることと結びついているといったあたりは、なるほどと思った。絵画としての九相図が持つ意味は、時代と共に日本的価値観や文化的な発展と融合しつつ少しづつ変わりながら、長く繋がれていったのが九相図なんだなと。
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増補カラー版 九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史
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