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明治~戦前昭和の思想史を通覧する四巻シリーズの第1回配本の本書では、大正期に焦点を当てる。明治以来の「国体」の確立と文明化推進の動きはこの時期に変容し、現存する日本を改造し解放への希望を与える思想と運動が盛んとなった。国家主導だった文明化と「国体」の設定を、民衆の側から再設定する動きが広がり、知識人や運動家がその動きを担っていく。こうした大正期の多様な思想を15のテーマと11のコラムで、最新の研究成果と学術的知見を交えつつわかりやすく解き明かす。
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Posted by ブクログ
大正期を代表する思想と歴史を、15の講義と11のコラムにより論じたもの。 編者の「はじめに」で大まかな見取り図が示されている。明治期の政府は、文明化の推進と「国体」の確立をめざした、しかし、この試みは、天皇の死と代位に伴う「国体」のほころび、及び第一次世界大戦の衝撃による文明化の変容(西洋化では...続きを読むない「文化」の発見)により大正期に入るころから変化を強いられてきて、それがこの時代の思想や運動に現れてくるという。 興味を持ったところを以下簡記。 吉野作造の民本主義(第3講)や天皇機関説論争(第2講)、大正マルクス主義(第5講)や大正アナーキズム(第6講)などは定番のテーマだが、要領よくまとまめられており、新たな知見も得ることができた。 女性解放思想(第10講)では、平塚らいてう、与謝野晶子、伊藤野枝、山川菊栄、市川房江などの間での論争に関する問題の争点やそれぞれの立ち位置について、また水平社の思想(第13講)では、全国水平社の設立等の水平運動に対する喜多貞吉、佐野学の影響について、それぞれコンパクトに分かりやすく解説されている。 また、ほとんど知らなかったテーマとしては新教育(第11講)がある。国家の欲する”国民”を作っていくために教育、特に学校教育が重要であることは言うを俟たないが、明治期に導入された「ヘルバルト主義」教授法に対して、この時期、教員が児童の意欲を引き出し児童の学習を輔導する「新教育」が提唱され実践されたが、しかし……というもので、教育学に関する有益な知見を得ることができた。 教養主義(第4講)については、『三太郎の日記』などなぜあれほど一世を風靡したのか、人格の陶冶が本当にできたのかなど疑問が残ったし、皇道大本と「大正維新」(第12講)では、宗教の教義や宗教運動についてなかなか関心が持てないので、本講を読んでも今一つ釈然としないものが残った。 やはりこの時代を表す言葉と言えば「大正デモクラシー」。各講の参考文献でも松尾尊兊『大正デモクラシー』が挙げられているが現在品切れ中。読んでみたい。
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