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「あんたバカぁ?」「このタコが!」「だって女/男の子だもん」。私たちが何気なく使う言葉にも、悪い言葉がたくさん潜んでいる。では、その言葉は本当はどこが悪いのか? さらには、どうしてあの言葉はよくてこれはダメなのか? 議論がつきない言葉の善悪の問題を哲学、言語学の観点から解き明かす。読み終えると「ことば」への見方が変わるはず。
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Posted by ブクログ
言語哲学について知らなかったので、目から鱗の一冊。(言葉」に関心がある人は持っておくべきと思った。 哲学というので小難しかったり、抽象的な話なのかと思えば、さにあらず。 具体的な言葉の運用で、どう解釈すべきかという大問題にさらっと切り込んでくれる。 言語学で意味論というのがあるが、あんまり意味につ...続きを読むいて説明してくれていなかった不満があった。この本を読んで自分が知りたかったのは言語哲学だったというのがよくわかりました。
川添愛さんの著書で紹介されていたので購入。 本書もそうだが、連鎖的な読書にはハズレがない。 専門用語は多数出てくるものの、導入が丁寧なので抵抗感はない。身近な「悪い言葉」が題材であり、実例も豊富で最後まで興味深く読めた。 悪口がなぜ悪いのか、悪口が悪口たる条件等いくつかの問いに明快な回答が示されてい...続きを読むる点も良い。 愛情を込めた「馬鹿だな」が、悪口にならない理由が論理的に説明できるようになります。
「『悪い言語』哲学入門」であり「悪い(=あくまで正統的でない、という意味で)『言語哲学入門』」でもある本。 言語哲学については、言語行為論をはじめいくつか目を通したことがあったが、それら、「言語哲学」の中でいくつか出てくる理論(けして奇をてらったものではなく、言語哲学のなかではかなりベーシックなもの...続きを読むだ)を総ざらいしつつ、それらの理論が「ヘイトスピーチ」など、現代社会における発言・言語をめぐる問題にいかにインパクトをもたらすかまで論じられており、単純に面白い。「言語を哲学する」という営為が、たしかに、私たちの日常を変え、社会問題を考える際の切り口を提供することを実感させてくれる本。 そして個人的には、言語哲学における固有名論争を理解するさいに、『とってもラッキーマン』の知識が非常に有用だということを示してくださった点が、素晴らしいと思いました。
言葉のもつ表の意味と裏の意味を知った。この分野は語用論という。実際の言葉の形から、ではどういう意味をもつのかを研究する。 京都の人が「えらいいうまい演奏ですなあ」といった場合、それは演奏を誉めているのではなく、うるさいからピアノを引くのをやめろ、という含みをもつ。このように言葉にはその言葉の裏にある...続きを読む「含み」をもつものがある。 自分は正面から言葉の意味を受け取ってしまうタイプである。この本のなかで言葉の表の意味と裏の意味を取り上げている中で、裏の意味がすぐにわからないことが多々あった。 言語行為論 言葉を発するのは純粋な情報伝達手段だけではなく、行為のひとつである。これを言語行為論という。 (1) 掃除は一年担当だよ(先輩が一年生に向かって) この場合、文の意味は掃除をするのは一年生であるという真理的条件文(真か偽が導ける文)であるが、その含みは「お前が掃除しろよ」である。 この言葉は相手にこういう行動をとれと命令している行為なのだ。 ヘイトスピーチの章で、いわゆる「言葉狩り」を批判している。 差別的な歴史をもつ言葉の使用により共有基盤(両者が了解している前提条件)がアップデートされる。特定の社会集団の序列・ランキングを下げる効果がある。「お前タバコやめたんだ」という言葉にはタバコを吸っていたという前提条件が含まれる。このようにいうことで暗黙のうちに共有基盤がタバコを吸っていたという事実があったとしてアップデートされる。 そういった言葉の使用は憎悪のもとであり使用の禁止を検討すべきである、という。 私は言葉狩りには反対の立場であった。なぜなら言葉というのは、今ここに記している通り、自分の考えを伝えるものであり書き留めていく技術なのである。 その言葉を制限されるのは自分の思考・表現を制限されるようで、かなりの苦痛である。 それを踏まえて言葉狩りには反対の立場であったが、言語行為論を知り発話は行為ならば、集団を傷つける言葉は暴力行為になる。そうならば規制されて当然だろう。
悪口という切り口から言語にまつわる理論を紹介する本で、長ければ順番を変えたり飛ばしたりして読んでもいいよ、と書かれていますが、 最後のヘイトスピーチの論考に必要な要素を順に導入していき、最後に回収するという作りになっているので、そこは順序を守って読むのが良さそうです。 悪口がなぜ悪口として機能する...続きを読むのか。 ヘイトスピーチがなぜ悪くて、なぜそこでは表現の自由が認められないのか。 禁句がなぜ必要になるのか。 言語素人ながら言語でコミュニケーションを取らざるを得ない我々が知っておくべき教養だと感じました。
悪口を例にした言語哲学の入門。 「なぜ悪口は悪いのか?」 「そしてときどき悪くないのか?」 「どうしてあれがよくてこれがダメなのか?」 こうした問い、ある表現や言葉が悪くなったり悪くなくなったりする原理を、言語哲学の概念を使いながら解き明かしてくれる。(あまりよいことではないが)悪口は、軽いもの...続きを読むから重いものまで、身の周りに溢れているので、実感を持って難しい哲学的な概念についても理解することができるし、そうした概念を通して身の周りの悪口についての理解も深まるので、とても面白い。より専門的に勉強したい人向けに、巻末にブックガイドもある。 おわりにまとめてある「あるべきでない序列関係・上下関係を作り出したり、維持したりするから」悪口は悪いのだという結論が、個人的にはすっきりとして納得のいく答えだった。 つい先日、中学生の女の子が「顔面土砂崩れ」というあだ名をつけられたのだが、本人的には嫌ではないから別にいいと言っていたことを読んでいて思い出した。よく「いじり」と「いじめ」の境目は何かといった話があるが、こうしたときに、本人が良ければいいじゃないかという意見は、よく見かけるように思う。「顔面土砂崩れ」と呼ばれた彼女も、自分はいいと言っているが、この本のまとめから考えると、やっぱりだめなんじゃないかと思う。 著者の結論から言えば、彼女が、それを自分は別に気にしないからという理由で認めてしまえば、そこに「あるべきでない序列関係」がおそらく生まれる。だから、これは「悪い」のだと言える。 たとえ彼女がよかったとしても、それを許してくれる女の子が一人いたということが、言ってもいいことなんだという事例を作ってしまう。この本7章と8章では、名詞化とヘイトスピーチがテーマになっているが、やがて、そうした事例は、クラスの中で「女の子」という集団を下に見ていいという雰囲気を作りかねないのかもしれない。 あだ名や悪口は、ただ単純に本人の気持ちの問題ではなく、やはり、口にされた言葉が何をもたらすのかから評価されなくてはいけないということを改めて思った。 著者も言っていることだけれども、言語哲学という分野に興味のある人が入門するための本としても、もっと直接的に「悪口」と呼ばれる表現にモヤモヤを持っている人が「悪口」について考えるきっかけにする本としても読める。そして、ここで言われている問題は、上の自分の体験のように、誰にとっても心当たりのある、切実な問題なのではないかと思う。 そんな言葉の問題について一度でも切実に考えようと思う人には、十分おすすめできるいい本だった。
第8章のヘイトスピーチに関する議論をするため、それまでの章で言語哲学的道具立てを整えている。そんな作りの本。第3-4章辺りがややハード。言語学を学ぶモチベーションのある学生さんには良い本かもしれない。第8章については、なるほどと思った。
本書の主題は、「悪口はなぜ悪いのか」と「どうして場合によるのか」ということである。本格的な議論の道具立ての導入も丁寧だし、語口調も面白い。それでも、難解な部分が残るのは、言語に関わる行為を真正面から捉えることの難しさが関わっているのだろう。逆に言えば、本書が随分とハードルを下げてくれている部分は多い...続きを読むので、語用論の良い入門書でもあると思う。 第7章の総称文については、主語の大きさ問題を考える上では興味深いし、第8章のヘイトスピーチも現代的な問題として重要。これら終盤の2章までしっかり読んで欲しい。
あだな、悪口、嘘、ヘイトスピーチ。 こういった邪悪な言語使用がもとで命を落とす人もいる。 本書はそれらに立ち向かうためにまずはどのように理論的に分析されるのかを解いていく。 新書としては貴重な本だと思う。 前半は、分析のために使用する言語学、言語哲学の概念が紹介される。 タイプとトークン。 意味は...続きを読むどこに存在するか。 意味の機能的側面(真理条件的内容、前提的内容、使用条件的内容、会話の含み)。 確定記述。 言語行為論(発語行為/発語内行為/発語媒介行為)。 扱われている概念の広がりを見ると、なるほど、本書が「入門書」を名乗ることがわかる。 筆者によるとヘイトスピーチは、権力を持った者がある集団を不当に低くランク付けするところに問題の根源があるという。 そして、「ヘイトスピーチ」という語の用法に、単に憎悪を表現したものと矮小化したものがあるとも指摘されていた。 この問題について、自分がいかに考えていなかったのか気づかされる。 とはいえ、上に列記したような概念を、一応頭に入れて読み進めることになる。 例をたくさん挙げ、語り口も少しくだけているので、読みやすいと言えば読みやすいけれど、やはりある程度下地がないと、ちょっと厳しい。 総称文のところを読んでいて、以前読みかけて放り出している飯田隆『日本語の論理』が何を問題にしようとしていたか、ちょっとだけわかった。 この本を手掛かりに、積読状態になっていた本が読めるようになるかもしれない。
「悪い」言語「哲学」。それはまたどういうことだろう?タイトルにひかれて読んだら、とても興味深い内容で、日頃モヤモヤしていることの霧が晴れた気がした。 恥ずかしながら、言語哲学という学問分野があることを、これまで知らなかった。筆者は「言語のダークサイドに立ち向かう際に、言語哲学が必ず役に立ちます」と...続きを読む言う。言語学は「こうなっている」と事実関係を明らかにするが、そこに、歴史的にものごとの善悪について考えるための道具を提供してきた哲学をプラスすることで、「これはよくない」「こうすべきだ」というような、価値についての判断にまで到達することができるのだ、と。なるほど~。 具体的に取り上げられているのは、悪口や嘘、デカイ主語、ヘイトスピーチなど。どれも切り口が新鮮で、とても面白かった。「入門」とある通り、学問的探求の入口を示す程度にとどめてあるので読みやすく、同時に、重ねられてきた研究の成果としての信頼感があると思った。以下は覚え書き。 ・ことばの評価はタイプ単位ではなく、トークン単位で行うべきもの。どんな場で、どんな文脈で使われたかで、同じことばが違う意味を持つ。 ・「言語行為」という考え方。あることを言うことそのものが行為である。「○○とは言ったけどからかったりしていない」という言い訳はできない。 ・「ことばは情報伝達の道具」という考え方の誤り。誹謗中傷をしながら「本当のことを言っているだけ」という場合、単に情報(本当のこと)を伝えたいだけではないはずで、これも言語行為。 ・悪口や不適切な発言があったとき、単にどの表現タイプを使った、使ってないということだけに注意をそらされてはいけない。また、「どういうつもりだったか」という答えの出しようのない問いは煙幕となる。 ・総称文(「男は~だ」「日本人は~だ」)は、単に「そうでない人もいるからよくない」のではなく、その集団が「本質的に」その性質を備えていると主張し、ステレオタイプや偏見を表明している可能性があるから、そのことに自覚的になるべき。 ・哲学者のミルによる言論の自由擁護の論証では、真か偽となる「意見」を提示する自由が擁護される。意見の提示ではない加害行為を、言論と見なして擁護する必要はない。 ・哲学者のヒラリー・パトナムの言葉。「ことばを一種の道具と見なすとしても、それがハンマーやねじ回しのような一人で使う道具ばかりでなく、複数の人間が関わる蒸気船のようなものである可能性も考慮しなければならない」 ・敬語などが持つ含意を私たちは自由に決められない。差別的語彙が持つ含意も、私たちは自由に決められない。 「差別的発言が、同列に位置づけられるべき集団を低くランクづけするような効果を持つならば、それは話者の意図と無関係に何らかの制裁の対象となるべきでしょう。本当のところは、深層心理では、差別的意識がないとかあるとか、そういったことは、表現の公共的使用とは無関係なのです」 ・「ヘイトスピーチの可能な規制や、人権を侵害する言語使用を批判するとき、私たちは蒸気船やタンカーの造船技術・運行規制・免許制度などについて話をしているわけです。『タンカーの操縦に規則なんかいらない、大事なのは安全に運転しようとするそれぞれの意識だ。ほっといてくれ』などと言われて納得する人はいないでしょう。ところが、言語については、『ことばよりも個人の意識が大事だ』のような見解がしばしば提示されます。少なくとも、私たちは、言語がときとして、大事故を引き起こすタンカーや航空機のように、人を傷つけ、社会を壊すことがあることを忘れてはならないでしょう」 以前テレビで、民族学校に街宣車が乗りつけ、「○○を叩き出せ!」「○○を殺せ!」と大音量で叫び、学校のなかにいた子どもたちが「怖い-」と泣いてるのを見た。憤りで体が震えた(本当に)。このとき以来、「ヘイトスピーチ」は「ヘイト」でも「スピーチ」でもないと思っている。恫喝や脅迫は犯罪だし、あれは絶対に「スピーチ」なんてものではない。「言論」が尊重されるのは権力に対するときであり、「何を言ってもいい」わけではない。本書のような論考はとても大事だと思うけど、現実には、そんなもの屁とも思わない人たちがたくさんいることを思うと、もどかしくてたまらなくなる。
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