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西田幾多郎は,難解な論文を書き継いだ書斎の学者のイメージが強い.然し,西田は壇上に立ち,聴衆に熱く問い掛ける古代ギリシアの先哲の如き人でもあった.晦渋と評される自身の思想を解説し,何より哲学することの意義を知ってほしいの思いを込めた講演は,優れた西田哲学入門となった.「語る哲学者」西田の講演集をまとめる.
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Posted by ブクログ
西田幾多郎といえば、岩波文庫の『哲学論集』全3巻がとても気に入っていて、夜寝る前にときおり再読していると、あの独特の言い回し、「〜でなければならない。〜でなければならない。」といった畳みかけるような呪術めいた文体が催眠効果を持ち、よく眠れるような気のする魔法の本だ。 その西田哲学の、本書は講演を...続きを読む集めたもの。あのような特異な文章を書いた人が、話し言葉ではどのような平易な語り口になったのか、と興味を持って読み始めた。が、愕然とした。なんと、この話し言葉も書き言葉も、まったく同じなのである。 講演を聴いた人が筆記したようなことが解説に書いてあるので、後日いくらか修正されたにしても、どうやら本当にこのように西田幾多郎は講演で語ったようだ。話し言葉としてかなり奇妙なこの文章を、彼はどんな抑揚で読み上げたのだろう。 内容はもちろん、これまで読んできた西田哲学の既知の愛用とかなり重複しているのだが、ちょっと未知だった部分も語られていて、やはり興味深いものだった。 鈴木大拙と仲が良かったらしい西田の思想は、かなり禅問答的な部分があり、たとえば 「本当の現実の世界は主観と客観に結び付いた、主観的であると共に客観的、客観的であると共に主観的である。私の書物ぶよく言う一般的であると共に個物的、個物的であると共に一般的、直線的であると共に直線的である。それがいわゆる歴史の世界である。これが人格的生命の世界であると言ってもよい。」(P177) といったパラドキシカルな論理を駆使する。 西田の書物は海外でどのように受け止められたのであろう? そもそも翻訳され読まれたのかどうかも知らないが、欧米人がこの論理にどんな風に反応したのか、気になる。ジョン・ケージのような奇人なら気に入ったかもしれない。 他に、本書では、 「日本文化は情的なもので上は流れるというような形に構成されている。」(P190) 「理論的に言えば社会は時間的空間的、主観的空間的であると言わなくてはならないが、しかし実際に成り立つ社会は主観に偏したものであるか客観に偏したものであるかである。だから主観から客観へ客観から主観へと動かなくてはならない。それが動いてゆく方向が社会の目的である。」(P194) といった文化観、 「自分の働いて作ったものが、自分の作ったものでありながら自分のものでなしに公のものとなるのである。働いた結果が自分から離れて独立する。・・・物は私が作るがその物は公の物となり、つまり歴史的事物となり、そっれに依って私自身が変化を受ける、即ち私自身が作られてゆくということになるのである。ものを作るとは、自分が作られることである。」(P203-204) というような「制作」についての分析を改めて興味深く受け取り、また、共感を持った。 その他に、「時間」に関する思考も、やはり西田の中心思想の一つとして、面白いものだと思う。 本書は、『哲学論集』全3巻と共に、折に触れ再読したくなる魅力を持った書物である。
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