とても素晴らしい内容。
全般通じて筆者の安全保障に対する熱意と、官民問わず、また産学官問わず、日本国関係者全員が戦争回避のために役割を果たすべきというメッセージを強く受け取った。
日本も戦争とは無関係ではないという前提に立ち、その上で技術を用いていかに戦争を回避していくかという視点に立っている。
戦争は時代とともにそのあり方も変化していき、非国家主体での脅威が注目される時代もあれば、多くの人間にとって想定外だった大国ロシアとウクライナ間での戦争も行われているという不確実性ある世界情勢推移を認識している。さらに技術については、ゲームチェンジャーの登場頻度が加速しているという考え方を紹介している。
戦争を回避するための根本的かつ基礎となる理論として、対立状態から誤認識、不確実性などが介在して戦争に至ることがあるが、あらゆる発信に加えて、防衛的又は経済的手段による抑止力を強化することが、誤認識、不確実性を起因とした戦争の回避も可能だとしている。
伝統的な陸海空以外にも宇宙・サイバー・認知戦など領域を拡げると、SNS、ウェブマーケティングなどもデュアルユース、ミクスドユース、フュージョンユース技術として応用できる。また、先端技術のみではなく既存の技術の活用方法の発見からゲームチェンジャーは登場しうる。こういった技術の傾向や動向がある中で、科学者、技術者、製造企業、官公庁などが連携することで、幅広い領域での技術安全保障の推進と、ゲームチェンジャーの効率的効果的な創出ができるというメッセージを感じた。
重要技術について、官公庁だけの調査のみではおそらく網羅できないため、サプライチェーンポイントの候補となりうる製品やゲームチェンジャーに応用可能な技術を科学者、技術者、企業などが報告し、官公庁が受け取る仕組みが必要である。
さらにはこうした情報の収集・分析・評価を行うために、経済、経営、科学技術、国際情勢など広範な分野での横断的な知見を融合できる体制が必要である。
イノベーション論に触れつつ、技術プッシュ型とデマンドプル型のゲームチェンジャー創出のフローも描いている。いわゆる段階的にフェーズを通過していくフローのようにも見えるが、その間には試行錯誤とフェーズのやり直しなどが発生することも前提に論述されている。また、各工程・フェーズでも必要な知見が異なり、科学技術、経営、その他あらゆる知見の融合が必要である(この論点は本書を通じて繰り返される)。
マルチ専門チームの体制構築のあたりではプロジェクトマネジメントについても言及があり、個人的にも興味が高まった。
ゲームチェンジャー市場の一つのアイデアとしてドローンをデュアルユース化し、購入費の一部を国が負担し、有事にはどのドローンを活用できるというもの、非常に共感しよいアイデアだと思った。