「また〇〇さんが面白いことを始めたなぁ」
それが、彼女が星野リゾート全制覇を目指し始めたときに抱いた感想だった。
彼女とは同じ会社で働いていたことがある。本の中にもちらっとだけ登場する、彼女が新卒で入った恋愛ゲームの会社だ。私はそこに中途で入った。
当時の彼女は、私の憧れの存在だった。美人で都会的で洗練されていて、頭が良くて仕事ができて、それでいて抜群に面白い。当時毎週行われていた施策発表会は、私にとって退屈で憂鬱な時間だった。そんな中、彼女の発表はいつも異彩を放っており、唯一楽しみにしていた。いつも真面目くさった顔をして発表してるんだけど、うっすらナメた感じもあるのがすごくよかった。無敵だった。そんな彼女に惹かれつつも、どこか自分とは遠い存在だと思っていた。
そんな彼女が、30歳での失恋をきっかけに、星野リゾート全制覇?とやらを目指し始めたという。彼女が会社を辞めるときに、なんとかSNSで繋がることができた私は、noteに綴られたその一部始終を、割と最初期から見守っていた1人だと自負している。
この本には、等身大の30代女性の「あるある」と「ないない」がちょうどいいバランスで詰まっている。星野リゾートの各施設の見どころや旅の感想を綴った旅行記の体をとっているものの、読みどころはまさに彼女の生き様だ。
「ミカちゃんより面白いコンテンツがあると思った」というエキセントリックな理由で元カレに振られた彼女が、それならなってやろうじゃないか、面白いコンテンツとやらに!と奮起し、節約生活をしながら星野リゾートに行きまくる。その中で、かけがえのない友人との交流や、新しい恋の予感と霧散(!?)、そして心の奥底にしまい込んでいた夢を思い出すといった転機が次々に起こっていく。
同世代なら誰でも「わかるわかる」と頷いてしまうような悩みや迷いを率直に書いていて、彼女を遠い存在だと思っていたけれど、実は案外近いところにいたのかもしれないなと思った。彼女みたいな人はずっと「勝ってきた人」だから、私が抱えてるような悩みとは無縁なんだろうなって勝手に思って線を引いていた。だけどそれってもしかしたら逆にすごく失礼だったかもしれない。真剣に生きているからこそぶつかる悩みや葛藤。そんなのあるに決まってるよなぁ。
「あるある」がふんだんに散りばめられている一方で、彼女の言葉で「極論」「クレイジー」と表現されるような、常人には思いつかない発想力や、それを次々に実行する行動力は、「ないない」の部分だ。星野リゾート全部行ったろっていうアイデアがそもそもユニークだし、観光は一切しないでホテルの部屋にこもって漫画を読むとか、星野リゾートのホスピタリティをより楽しむためにわざわざビジホに前泊するとか、なかなかどうして狂ってる。もちろん褒め言葉だ。
40年近く生きていると、知らないうちに自分自身に制限をかけたり、自分の心からの欲求に無意識に蓋をすることが多くなる。社会や家庭の中で求められる役割や型に、自分から嵌まろうとしてしまう。そのほうがラクだし、安心できるから。
でも一度しかない人生、どうせなら自分のやりたいこと全部やったほうがいいじゃん。後悔したくないじゃん。そうやってミカちゃんがどんどん解放されていく様に、エンパワーメントされない女はいないと思う。すごいことをやってのけたよ、アンタ。
今まで勝手に線を引いて距離をとって、すごく勿体無いことをしてたのかも。そう思って、彼女に本の感想LINEを送るとき、今までは苗字で呼んでいたのを、ちゃっかりミカちゃん呼びにしてみた。そして、前まではお互い敬語だったのを、うっかりタメ口にしてみた。そしたらタメ口で返事が返ってきた。これもまた小さな一歩だ。
一歩踏み出すのに、遅すぎることなんてない。
だって今が一番若いんだから。