変人(と言われている)芸術家と、絵を描くことが大好きな小学生との、芸術教室での交流の話です。
著者は、蟹江 杏(かにえ あんず)さんという女性画家で、画業25周年記念として初めて書いた小説とのことです。
この本を手にしたきっかけというのは、あまりよく覚えていないのですが、本の帯に「落合恵子さん絶賛」と書いてあるのを見て、
「ああっ落合恵子さん!懐かしいっ!」
「それなら優しい人たちの話に違いない」と思って購入した気がします。
落合恵子さんって、元文化放送のアナウンサーで、「セイヤング」というラジオの深夜放送で「レモンちゃん」という愛称の人気DJ(現在でいうラジオパーソナリティ)でした。私が中学高校の頃、勉強しながら良く聞いていた気がします。
さて、この本ですが、主人公は本当に絵を描くことが大好きな小学生の女の子で、芸術教室の看板が出ている風変わりな建物を、そこの生徒になりたいと1人で訪れます。家主でもある住人は世間の人から変人と言われている彫刻家で、この人も芸術家にありがちな風変わりな人ですが、物怖じしない女の子は、早速「オッサン先生」と呼ぶようになります。
他人と交流することを嫌うこのオッサン先生ですが、なぜかこの女の子とは気が合うのか、先生と生徒としての交流が始まります。
この女の子は、のちにロンドンで個展を開く程のプロの画家となるのですが、とにかく絵を描くことが大好きという女の子の性格と才能を、オッサン先生は瞬時に見抜いていたのだと思います。
読み終えて思うのは、この女の子の絵を描くことが大好きという真っ直ぐな性格と、それを優しく見守る両親、そして時には変人らしく相手が小学生であっても悪態をつくオッサン先生、そして一緒に芸術教室の生徒となった同級生、みんなそれぞれにいい関係で、素敵な出会いを経て、この女の子は幸せな人生をこれからも送るんだろうなと、温かい気持ちになりました。
そんな女の子が、本当に絵を描くことが心から大好きなんだなと、強く思わせてくれる文章がありました。
女の子がオッサン先生の息子に宛てた手紙です。本当は絵を描くことが好きで才能もあるのに画家への想いを諦めようとしている彼への手紙です。
「私にはまだよくわからないけど、絵を描くことをやめたくないです。なぜなら、好きなことをやめるのはとてもつらいと思うからです。私は将来画家になれるかわからないけれど、もしも画家になれなくても、どんな時もずっと絵を描いていたいと思います。好きだからです。」
何かのために大好きなことを犠牲にすることは出来ない。大好きなことは、どんなことがあっても続けていたい、というものでした。
あらためて、私はどんなに忙しくても、大好きな「読書」の時間は大切にしたいと思いました。
私の知的好奇心を満たし、フィクションの世界を想像力で楽しませてくれる「読書」は、いくつになっても、どんな時も私の心を穏やかにしてくれるものだと、あらためて気づかせてくれました。
なるほど、落合恵子さんが絶賛する理由が良く分かりました。