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Posted by ブクログ
『君を「ナツキ」と呼ぶまでの物語』は、「名前を呼ぶ」という一見ささやかな行為にこれほど深い感情と時間を託せるのかと、静かな驚きを与えてくれる作品。本作は派手な出来事や劇的な転換に頼ることなく人と人との距離がほんのわずかずつ縮まっていく過程を、誠実に、そして丁寧に描き切っている。
物語の中心にあるのは、相手を大切に思うからこそ踏み込めない心の逡巡であり、呼び名一つを変えることすら躊躇してしまう不器用さだ。その感情は決して誇張されることなく、沈黙や言葉の選び方、視線の揺れといった細部を通して描かれるため、登場人物の内面に静かに寄り添うことになる。
本作の重厚さは、感情を急がせない構成にこそ宿っている。読者に理解を強要せず、説明過多にもならず、ただ「そういう時間が確かに存在した」と感じさせる描写の積み重ねが、物語に確かな説得力を与えている。
青春や恋愛を描いた物語でありながら、本作が扱っているのは年齢を問わない普遍的な感情――他者を尊重することの難しさと、その尊重がもたらす静かな温度である。読み終えた後、読者はきっと、自分自身が誰かをどう呼び、どう距離を測ってきたのかを振り返ることになるだろう。
『君を「ナツキ」と呼ぶまでの物語』は、声高に語られることはなくとも、人の心の奥深くに確かに届く作品であり、その静けさと誠実さこそが、この物語の最大の魅力である。
著者初読。KU。