将棋カメラマンとして長年にわたり、棋士を撮りつつ交流を続けてきた中での様々な出来事や思い出を綴ったもの。著者は、棋士と一緒に麻雀をしたり酒を酌み交わし、深い付き合いをしてきたことから、将棋界からの信頼がとても厚い。昔と今の棋士、将棋界、ファンやサポーターの違いについての話が面白い。内容は濃く、著者の
...続きを読む将棋界に対する思いの深さがひしひしと伝わってくる。良い本だと思った。
「(大山康晴 将棋連盟会長)車を降り、早足で歩き回ってアポイントもない企業に自ら飛び込んでいく。「将棋の大山ですが、社長さんはいらっしゃいますか」社長がいない場合は印刷の扇子を、社長が出てきた場合には直筆の扇子を渡し、関西将棋会館の建設費の拠出協力を呼びかける。交渉が終わって車に乗り込むと、会社の従業員が見送りに立っている。後部座席の大山先生は前を向いたままこう言った。「この会社がいい会社かどうか。車が見えなくなるまで、外に出て手を振っていればいい会社」」p65
「(米長邦雄)自分自身にとっては消化試合であったとしても、相手にとって重要な対局ほど、本気で負かしにいかなければならない」p82
「(林葉(中原)事件)人間のたったひとつのことを取り上げて、全人格を潰すような風潮は良くないということである」p90
「棋士でない僕に対しても、毎年、羽生家からお中元とお歳暮が送られてくる」p158
「藤井聡太さんの活躍を見ていつも思うのは、将棋の強さもさることながら、取材に対する受け答えや立ち振る舞いの完成度だ。使う言葉にも教養が感じられ、将棋同様にまったく隙のないコメントが繰り出される」p171
「「飲む、打つ、買う」を地で行くような棋士が勝てない時代に移り変わったということだろう」p173
「(渡辺淳一)「成功するために大切なのは努力ですか、それとも才能ですか」すると、渡辺先生が言う。「ひとついえることは、努力ができない人というのは何をやってもだめなんだ。ひとつのことを続けるというのは成功の必要条件だ」」p184
「(立石鉄男について)鶴巻さん、テッチャンは仕事がないわけじゃないんだ。あれでも芸能人としては全盛期は凄かった人だから。何でも仕事を受けるわけには行かないんだよ」p188
「立石鉄男さんは2007年、急性動脈瘤破裂のため急逝した。64歳だった。晩年の立石さんを支えていたものは、若き日に活躍した人気俳優としてのプライド、そして将棋であったと思う」p190
「ネット中継に映る対局室の変化もまた、僕のような古い人間にとっては驚きだ。いちばん大きく変わった点は、対局場にスポンサーの「主張」が入るようになったことだろう。棋戦名が書かれたパネル、主催紙の題字や社旗。一般企業がスポンサーに入っている場合には棋戦名に社名が入り、その会社が発売している飲料や菓子が画面に映り込む場所に配置される。かなりの広告効果が期待できるのだろう。それらは対局者の思考を直接阻害するものではない。とはいえ、対局場の旅館の歴史や格式はそれらによって消されており、いまや対局室内に「情緒」を求めるのは不可能になっている」p202