2023年5月に出版され、手に取りながらも本棚の中で積読本と化してしまっており、今年改めて、第二次トランプ政権下において2度目の「グリーンランドを購入したい」発言を聞いて、慌てて手にとり読み漁った。
2010年、中国外交がこれまでの『韜光養晦』を事実上放棄した年とされているが、この年以降、南シナ海・東シナ海への強引な海洋進出に乗り出し、アラスカ半島から伸びるアリューシャン列島周辺の米国領12海里内では中国人民解放後軍の艦船5隻が戦略的コミュニケーションの典型である『砲艦外交』(ペリーが浦賀に、と同様)航行してみせた。ウクライナから世界最大の通常型砕氷船「雲龍」を購入し、積極的に行なった資源探査の結果を踏まえ、北極圏を一帯一路構想の一部「氷上のシルクロード」と位置づけたのだ。
その砕氷船、2022年のデータによると、ロシア51隻、カナダ12隻、フィンランド9隻、スウェーデン4隻、中国4隻となっている。
北極海沿岸国はグリーンランド(デンマーク)、カナダ、アメリカ、ノルウェー、ロシア5カ国、これらにフィンランド、アイスランド、スウェーデンを加えた8カ国が北極圏国と呼ばれる国々であるにも関わらずである。
既に2016年のチャイナネットに、中国自身が「アイスランド北部の湾に深海港を建設し、アイスランドを北海航路の主要な海運センターとするなど、野心に富んだ計画を交渉している」と述べている。
また、2015年にはグリーンランドの空港拡張計画に関しての建設費を拠出するため、自治政府が中国を頼ったところから、デンマーク本国・米国が危機感を募らせ、デンマーク政府が積極関与に転じた、という事態になった事もあったという。
そうなのだ!地球温暖化により、あらゆる国々の国益が北上しているのである。夏でも溶けない北極の多年氷が溶け出していることにより、費用も日数も削減できる北極海航路、厚い氷に阻まれていた調査が容易になり、俄然、注目されてきた北極埋蔵資源の存在。沿岸国でもなく、圏内にもない国も乗り出すほどに北極争奪戦が熱いのである。
イヌイットの友愛党所属のデンマーク議会議員、アージャ・ケムニッツ・ラーセンは新聞のインタビューに対して「中国・ロシア・米国からの関心が高まっている状況に鑑みて、域内各国が連携し、国際政治に関心をもたなければならない」「トランプ大統領のグリーンランド購入発言が世界に対する目覚ましとなった」と発言している。そのトランプ大統領の「世界への目覚ましコール」は、まさしく北極圏をめぐるロシアと中国の緊張の高まりがあるのだと思われる。
2019年の北極評議会会合における当時のポンペオ国務長官の「先住民族のコミュニティが、債務と腐敗に陥ったスリランカやマレーシアの前政権と同じ道を辿らぬように、北極海の重要なインフラが、中国に建設したエチオピアの道路建設のようにわずか数年で崩壊して危険な状態にならぬように、北極海が、軍事化と競合する領有権争いに満ちた、新たな南シナ海にならぬよう」という発言の通りを強く望むものである。
2022年に表沙汰になった、デンマーク本国政府による、イヌイット系住民女性に対して、強制的に避妊具を体内に装着させられていた約4500人の本国に対しての反感は、今後の方向性を決める一つの声になりうる。
「南極のように世界で仲良く科学調査」といかないのが北極であり、「水中や空中ではハードな軍事的競争が継続する空間」である北極の行末に注視していかなくてはいけない。