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Ryoko Paris Guide
フランス政府公認パリガイド。大学の仏文学科を3年で中途退学し、単身渡仏。映画学校などで学んだ後、フランス人と結婚、離婚、再婚、出産を経験する。在住23年の現在は、夫と10歳の日仏ハーフの娘と3人で暮らす。翻訳業などを経て、フランス政府公認ガイドとなるが
...続きを読む、コロナ禍で始めたYouTubeチャンネル「Ryoko Paris Guide」では、フランスでの飾らない庶民の暮らしや、パリの街歩き、フランスの旅レポートなどを発信している。
フランス人は生きる喜びを知っている 人生に貪欲なパリジャンに囲まれてみつけた小さな幸せ
by Ryoko Paris Guide
絵画表現でも、若い肉体は「生命、美の象徴」で、老いた肉体は「老い・近づく死、醜さの象徴」というのは男女とも同じはずなのですが、外見に関して世の中から受けるプレッシャーはおフランスでも男女平等ではありません。
私が「熟女大国」というのは、「何の努力もせず年を重ねる女性ばかり」という意味ではありません。チーズだって何もせず放ったらかしにすれば腐った牛乳にすぎませんが、極上のチーズは気温や湿度などの環境に気をつけながら、熟練の技で手間暇をかけ「熟成」させていきます。おフランスにはそのような「極上のチーズのような熟女がワンサカいる」のです(ワインの方が素敵なたとえなのでしょうが、私はお酒が飲めないのでチーズの方がピンときます)。 町に繰り出すと「ん? これは熟女大国おフランス・マジック?」と思うことがよくあります。それは、 40 代どころか 60 代と思われる女性でも「色っぽい」女性を多くみかけることです。
「熟女が売れる」時代になってきたのは最近のことですが、歴史上の実在人物にも( 16 世紀の国王アンリ2世と 20 歳年上の愛妾ディアンヌ・ド・ポワティエとの熱烈なロマンス)、文学などの架空の人物にしても( 19 世紀文学の金字塔スタンダールの『赤と黒』のレナール夫人)、フランスは昔から熟女の魅力には敏感でした。
私が尊敬する輝くオバサンたちは、いろんな心の栄養を吸収できるように、常に好奇心を持っています。 80 歳を超える元夫の叔母もその一人。彼女の目は常にキラキラしています。小娘の私の話をいつも心から面白そうに聞いてくれ、私の手を握りながら笑ってくれます。彼女と話をしていると、まるで自分が特別な人間のように思えてしまうのです。
最近とてもショックだった出来事があります。 50 代の日本人女性のお客様(動画にも匿名で登場いただいた 様) をお迎えした時のこと。夏のパリで、ミニスカートやデコルテの開いたワンピース姿の同年代の女性たちをみて「日本でこんな露出をしたら、『ババアが色気づいて』と罵倒されますよ」と大変驚かれていたこと。それを聞いて私の方こそ驚愕しました。 私より一回り年上ですがスタイル抜群で、何を着ても似合いそうなのに、「なんてもったいない」と思い、「パリにいる間だけでも」と、私の大好きなセザンヌでショートパンツをお勧めしました。翌日セザンヌで揃えたショーパン・ルックでホテルのロビーに現れた 様は、とってもキラキラしていて「やっぱり女性ってこんなに変わるものか!」と惚れ惚れしました。
もちろんとやかく言う人も中にはいますが、そんな時にはひと言。「Et alors(エアロ)? だから?(それが何か?)」で良いのです。
寝起きに朝のコーヒーを飲んでいたら、熟年のカップルが笑顔で「これのおかげで人生がスムーズになりました」と、シーツの下でいちゃいちゃしている映像に、バラの花びらに 雫 が流れる……という映像が目に飛び込んできました。なんと、更年期を迎えた女性の性器を潤すジェルのCMだったのです。コーヒーを噴き出しそうになりました。 おフランスの輝くオバサンたちの秘密は、ここにもあるのかもしれません。
世界中の男性たちが妄想する日本人女性のイメージは、未だに「ゲイシャガール」です。奥ゆかしく、男性を立ててくれ、男性の喜びのために尽くし、黙ってお酒をつぎ、黙って床に入る……。そんな妄想は未だに「サムライ」と同じように日本人にまとわりつくイメージの一つなのです。私がお父ちゃんと出会った国立の映画学校の学生たちによって制作されたSF映画に、チョイ役で出演した際は「スペース・ゲイシャ」という役名のアジア人の娼婦役でした(笑)。ただ宇宙船に乗っているだけのエキストラみたいなものでしたが。
日本ではあまりないと思いますが、フランスではいたって普通のことです。同棲して、子どもを持つ家庭のうち、結婚しているカップルはなんと半数以下の 45%! それ以外のカップルは、子どもを作っても結婚せず、union libre(自由な関係) や、concubinage(同棲)、 PACS(民事連帯契約という日本語訳が覚えられない制度) の関係にあります。 PACSをザクッとご説明すると、法律婚が許されていなかった同性愛のカップルにも、法律婚のカップルと同等の権利を与えて、法的にカップルであることを認める制度として1999年に制定されたものです。同性愛者の法律婚は、カトリック信者の多い保守派のフランス人からの猛反対で、2013年まで認められていませんでした。 「結婚ほどかしこまっていないけど、結婚とほぼ同じ」制度ということで、例えばパートナーの社会保険によって保障されたり、家族手当も法律婚のカップルと同じ条件で受給することができます。相続権に関しても、遺言さえ残せば同じです。普段の生活では法律婚と大差はありません。大きな違いといえば、PACSは簡単に締結・解消できるということ、そして法律婚は、死別したパートナーの年金を受給することができるということです。 PACSの場合は、亡くなったパートナーの年金はお国に吸い取られてしまいます……。この制度は、ふたを開けてみると、同性愛者カップルよりも異性カップルの間に広まっていき、なんと今では法律婚と半々!
お父ちゃんからすれば「これからも真剣にカップルとして一緒に生活していきたい」という誠意の表明で、清水の舞台を飛び降りる気持ちで申し出てきたのだと思いますが……。「ケジメつけるんやったら結婚やろっ! あかんたれ!」(なぜか関西弁ですが、フランス語の口調がこんな感じでしたので) と突き返しました。特に結婚したかったわけではないのですが、「この中途半端な制度」がどうも腑に落ちなかったのです。
でも、自己主張が苦手な妻を守るとか、サポートしてあげようという男性なら良いですが、自分の思い通りに丸め込もうとするフランス人夫では、ある日突然妻が子どもを抱えて永久帰国しても当然です。「日本人だから」ではなく、自分という人間に惚れ込んでくれた相手でないといけません。「黒髪の慎ましい日本人女性」だから近づいてきた男性と一緒になっても、それは後で自分の首を絞めることになるのです。そういうカップルは、大概別れます。「自分にしかない魅力」を褒めてくれるのではなく、日本的な女性の魅力を褒めたり自慢する男性には要注意ということです。
日本では、例えばお湯が出なくなったり、鍵をなくしたとしても、曜日や時間に関係なく業者に連絡して素早く修理をしてくれるし、詐欺に遭う危険もありません。宅配便も指定した日時に、奇跡のようにピッタリ配達してくれます。迅速で正確で信頼のおける日本のサービスはユネスコの無形遺産にでも登録してほしいくらい世界でも珍しい、日本にしかできない離れ業です。
プロヴァンス・コートダジュール 3大バカンス地の一つは、もちろんPACA(Provence-Alpes-Côtes d'Azur) と呼ばれる地域圏、特にコートダジュールです。夏になると、カンヌからイタリア国境のマントンまでの 60 キロの海岸に、普段太陽光線に飢えた北のフランス人や海外からの旅行者が、憧れのフレンチ・リヴィエラ目指して押し寄せます。
ニースの「英国人の散歩道」は、お天気の悪いイギリスの冬を避けて滞在するようになった英国人富裕層の発案・出資のもと、 19 世紀に整備された遊歩道、というのは有名なお話です。 19 世紀~第一次大戦までの「第二帝政期」「ヴィクトリア王朝期」そして「ベル・エポック」と呼ばれるこの時期に、ヨーロッパが目まぐるしい勢いで近代化していく中で観光業が生まれたのですが、この当時の華やかさを今でもうかがい知ることができるのが、「フレンチ・リヴィエラ」とも呼ばれるコートダジュールです。
日本からの旅行者が、ゴージャスでセレブでクリーンなイメージのニースに比べて圧倒的に少ないのは、「治安が悪い・汚い」といった悪評高い庶民的な町だからなのですが、私はマルセイユが心の底から大好きです。なぜかは分かりませんが、町と人との出会いというのは似ていて、フィーリングが合うと欠点も含めて愛さずにはいられなくなるのです。ハッキリ言って、悪評通りのところもある町ですが、シャルル・アズナヴールの有名な歌『世界の果てに』の中にあるように「太陽の下では、貧しさもましに思える」のです。イタリアでいうとナポリのような、雑多でちょっと怖いけど、美しい自然と太陽と海があって、さまざまな人種が交差してきた歴史があって、人情味に溢れていて、美味しいものがあって……。複雑な問題は山積していますし、マルセイユっ子たちも不満を訴えてはいますが、「マルセイユで生まれたらマルセイユで死ぬ!」という誇りを持って生きています。
さて、南仏コートダジュールは日本の皆様にもお馴染みのリゾートですが、同じ地中海エリアにありながら、おフランス・リピーターでもあまり足を運ぶことがない「未開の地」があります。それがフランス人に大人気のコルシカ島です。コルシカ島は、イタリアのサルデーニャ島の北に位置する島。「L'île de la beauté=美の島」の名の通り、私はフランスで最も美しい場所は、このコルシカ島だと思っていますし、「コルシカ島民魂」には、なにかビビッとくるものがありました。 14 世紀にジェノヴァ共和国に征服され、 18 世紀にフランス王国に編入されたナポレオンの生地で(ナポレオン誕生の1年前までジェノヴァ共和国領)、「常に征服されど、決して服従はせず」のフレーズで知られるように、地中海の戦略的な要所にあることから常に他国に侵略されつつも、独自の文化・言語、アイデンティティを守り続けた、一つの独立した国のような島です。
お酒に弱い私ですが、生牡蠣を食べる時は覚悟を決めていますし、酔っぱらっても良いバカンスならではの楽しみと言えます。 生牡蠣も我々日本人にとっては、馴染みやすい名産品ですが、なんとブルターニュでは、カツオ節や、近年の日本食・健康食ブームで、オーガニックのスーパーでも普通に売られるようになった「kombu=昆布」も生産しています。
高い」とぶつぶつ文句を言いながら、食べ物にこだわりがある我が家のお父ちゃんはそれでも毎週必ずマルシェに行きます。やはり、マルシェで買う食材は鮮度も良く、味もまた格段に違うからです。 私はスーパーのレジに並んでいる時に、人が買うものをチェックするのが大好きです。「あーこの人は独身男性で、ごはん作る暇ないんだなー。野菜が一個もなくて、調理済みのものばかり!」とか「大家族だな。添加物タップリの一番安いものを大量に買っているなあ。砂糖タップリの炭酸飲料を買うならリンゴでも買えばいいのに……」なんて頭の中でブツブツ独り言を言っています。
フランスに移住してみて、初めて体験したこと、発見したことの中に「人種差別」があります。日本という、ほぼ単一民族の島国に、日本人として生まれて日本人として育ってきた私は、もちろん差別行為や発言の対象となったことはありませんでした。 幼少の頃、父の仕事の関係で旧西ドイツに住んでいましたが、そこはほぼ日本というくらいヨーロッパ最大の駐在日本人の町だったので、差別をされた記憶はありません。「人種差別は自分には関係のない世界の話」だと思い込んでいました。 それが、フランスにやってきて、自分が「有色人種」の一人で、白人でない以上、必ず差別を受ける運命にあることを実感しました。「『自由・平等・博愛』は、フランス人に限られるの? そこによそ者は含まれないのね? せっかく尊敬して憧れて来たのに、現実はちゃうやんけ!」と失望もしたものです。
一方で「個人の自由を尊重する」という価値をかたくなに守り標榜しながら、文化、宗教、習慣もバラエティ豊かな人々が平和に共存できる社会を目指すということは、生半可なことではありません。
そして、自分が被害者になる、痛い目に遭うということのメリットもあります。人種差別に限らず、痛い目に遭えば、同じ痛みを経験した人たちを理解することができます。差別を受けてきた人たちと、同じ悲しみや憤りを分かち合うことができるようになったことは、有色人種の一人としてのプライドとなりました。
フランスだけでなく、海外に在住経験がある日本人なら同じ体験をしたことがあると思うのですが、日本国内ではなにかとライバル視しがちな韓国や中国の方たちとも、いったん西欧社会に身を置けば「お米が主食の平たい顔族」の仲間意識が生まれます(笑)。
2点目は、最もフランス人が不快だと思う日本人のあるクセ。これが最も多い「クレーム」です。それは「鼻水ジュルジュル」です。フランスと日本での「何を汚いと思うか」という感性の違いなのですが、日本人は「ブーン!!」と大きな音を立てながら公共の場で 洟 をかむことを恥ずかしいと思い、フランス人は洟をかまずに溜め込んだ鼻詰まりのジュルジュルの音を不快に感じます。
ところが実際には私が「日本人」と知ると、皆さん「日本は一番行きたい国」「一番憧れている国」と突然テンションが高くなるのです。 特に私と同世代のフランス人は、日本のアニメをみて育ってきたので、日本に対して特別な親近感を抱く人が非常に多いということを知りました。海外在住の日本人は、宮崎駿さんや鳥山明さん、もう少し最近ですが尾田栄一郎さんらを守り神と思って崇めなければいけません。もちろん、モード界の高田賢三さんのような神様も忘れてはいけません。世界で認められる日本の文化人の皆様の恩恵をどれだけ受けていることかと実感します。 テレビやラジオをつけても、「ジャポン」という音が毎日のように耳に入ってきます。 「近未来国家ジャポン」の最新のテクノロジー、伝統芸能、ポップ・カルチャー、アニメ・漫画などなど、すべてのジャンルにおいて、「ジャポン=日本」は一種のブランドとなっています。「おフランス」のものは何でもお洒落で洗練されているというイメージは、世界中に伝播していますが、「ジャポン」もまた同じような地位を獲得しています。 ユニクロが「ジャパン・テクノロジー」と 謳っているように、「ジャポンといえばハイ・クオリティ」「何歩も先を行く未来国家」「理想郷」だと信じて疑わない人もいます。