ユダヤ系アメリカ人が書いたアラブとイスラエルの関係史。
複雑に絡みあった状況をその歴史、背景から理解できる良書。
自身がアイデンティティに苦しんだリベラルらしく、現状のイスラエルにはかなり批判的。
自由と民主主義を求めて父祖の地に移住(帰還)した民族が、先住者である他民族を差別し、ましてや人種隔離
...続きを読む政策を推し進めようとしている。
全世界のユダヤ人に門戸を開いたため、西欧、東欧・ロシア、中東、アフリカにルーツを持つ人々が住み、国内でも階層化が進んでいること(アラブ(イスラム)系イスラエル人は最下層)、長年密接な関係にあった米国のユダヤ人社会においてイスラエルに対する見方が近年大きく変わって来ていることなどは、あまり知られていないように思う。
歴代保守系政権は1967年の戦争で占領したガザ地区、ヨルダン川西岸地区への入植を推し進める一方で、占領地に住むアラブ人は虐げられてきた。
アラブ/パレスチナとの融和は何度か成立しそうになるが、都度、暗殺やテロによって頓挫する。
四方を敵に囲まれ、建国以来数多くの戦争を経験した自国を守ろうとする決意や、旧約聖書まで遡る民族の自我への拘りが保守派が台頭する背景にはありそうだが、外からは打開策が全くないように見える。(アラブ側にも原因はある)
イスラエル建国の父ベン・グリオンは「①イスラエルはユダヤ人が多数を占める国家である、②イスラエルは民主国家である、③イスラエルは新しい占領地をすべて保有する、のうち2つは選べるが、3つすべては選べない」と言った。今のイスラエルは①と③を選んでいるようにみえる。
グリオンはこうも言っている。「確かに、神はわれわれにその地を約束してくれたが、彼ら(パレスチナ人)にしてみればそれが何だというのだろう。反ユダヤ主義、ナチス、ヒトラー、アウシュヴィッツなどが現れたが、それは彼らのせいだっただろうか。彼らが目にしているのはただ一つ。われわれがやって来て彼らの国を奪ったということだ」
2021年に原書が出版された本書ではガザ地区についてはあまり触れられていないが、アラブを含む多民族との融和を願う著者は、今回のガザ紛争に何を思うのか。