先日読んだ広瀬有紀さんの『ことばと算数』で取り上げられていたこともあり、こちらも読んでみることにした。
子どもが誤ったスキーマを身につけてしまうこと、それを修正するメタ認知が働かないことなどが印象に残っている。
ではどうするのか、についてはあまり具体的なことが書かれていなかったので、そういったことが
...続きを読む分かればと思い、少し専門的ではあるけれど、この本も読んでみることにした。
(思いがけない自分の向学心?に自分で驚くよ。)
小学生のつまずきの原因をさぐるために、アセスメントとなるテストを開発し、その結果を分析したもの。
だから、本書でいう学力は、受験でいい学校へ受かるための学力とは少し違う。
この本での「学力」とは以下のようなものだ。
新たな情報を認知能力と推論能力を駆使して自分が既に持っている知識の体系に組み込み、統合し、拡張すること(p168)。
ただ知っていても使いこなせない知識は、学力ではないという立場だ。
そして、学習のつまずきとして6つの要因が挙がっていた。
1)知識が断片的でシステムの一部になっていない
例:足し算の手続きは知っているけれど、どういう時に使うべきかや、引き算との関係が理解されていない。
2)誤ったスキーマを持っている
例:数はものを数えるためのものという考え→分数や少数の概念の邪魔をする
3)推論が処理能力とかみ合っていない
例:複雑な手続きがいる作業だと、認知的負荷の高さに負けて推論が利かなくなる
4)相対的にものごとを見ることができない
例:100mを紙の上の10cmに置き換えて図示することができない
5)行間を埋められない
例:「30パーセント増量」という問題文の表現から、書かれていないもとの分量の「100パーセント+30パーセント」を掛けないといけないという推論ができない
6)メタ認知が働かず、答えのモニタリングができない
例:「14人の行列で自分の前に7人いる」という問題に対し、「14×7」と立式し「98人」という行列よりはるかに多い人数が出てきても気が付かない
7)問題を読んで解くことへの認識の問題
例:何のために算数を学ぶのかがわからず、文章に出てくる数字を適当に組み合わせて計算すればよいという考えを形成してしまう
これ、小学生だけの問題ではないのでは?
自分の周囲に中高校生、大学生を教えている人たちがいるけれど、これと似たようなことが起きているという。
これらの原因が取り除かれていないのか?
それともある課題については乗り越えても、上級の学校での学習課題の中でまた同じようなことを繰り返している、ということか?
さて、これら7つの原因を一つ一つつぶしていけるのかというと、そう単純ではないようだ。
それぞれの力が相関しているからだ。
例えば空間認知能力だけを取り出してトレーニングしても、算数の学力が高まるわけでもないという。
そこで著者たちが提唱するのは、つぎのようなこと。
上記七つの原因を複数組み合わせて学習課題を作り、認知処理の負荷をコントロールしながら取り組ませていく、ということだ。
その学習課題とはどういうものになるのだろう?という問題はあるけれど、問題解決への道筋が示されたことはすばらしいと思う。
また、簡単な問題から複雑な問題へ、という「教育的配慮」が誤ったスキーマを固定化させてしまう可能性があるという指摘は考えさせられる。
単純なものから難しいものへ、というのは、私たちが受けてきた教育のやり方だったわけだが、それに問題が潜んでいるということだからだ。
割り算なら、まず割り切れる数の計算で慣れさせて…という配慮が、「分数は整数で答えが出る」という誤ったスキーマを持たせてしまい、のちに割り切れない演算に進むとパニックを起こす…など。
なるほど、と思う。
が、スキーマの誤り方は人それぞれで、事前に対応などできないこともわかる。
だとすれば、個人が試行錯誤をして進む余裕が必要なんだろうが…それが集団教育じゃ多分難しいんだよね。