知り合いの弁護士の先生に「今年読んで一番面白かった法律関係の書籍」を質問したところ、この本を教えてもらったことから購入した。
『「リベラルアーツの法学」は、直ちに資格試験の点数に結びつくという意味で「役に立つもの」ではありませんが、そもそも「役に立つ」とはどういうことかも含め、自由とは何か、法とは
...続きを読む何か、古典を読みながら考えます。すっきりとした答えはいつまで経っても出ませんが、大きな問いに対して正面から向き合い、対話しながらひたすら考え続けます。学生のときにそのような経験をしていることは、答えのない現代的課題に取り組むうえでも、大切になるように思います』(193頁)と筆者が述べているように、偉大な先達の思考を補助線にして大きな問いについて思索と議論を重ねることによって、思考体力が養成されると思う。目の前の課題解決に追われ、近視眼的になりがちな私のような社会人が、自らを省みることができる点もこの本の利点である。
この本において「古典」は単に過去に書かれたという意味で用いられており、最新の議論も紹介されている。個人的には、「集団安全保障」といった国際法の重要概念はラテンアメリカ諸国がつくったものであることを歴史学的に論証し、「西洋から発展した国際秩序」という常識を覆す議論をしている中井愛子と、法と心理学の議論が興味深いものだった。
ただ、以下の2点について不満がある。
まず、経済と法のところで、ドラッカーの『経済人の終わり』が紹介されていないのか不満である。社会状況によっては、近代経済学の人間観が説得力を失い、危険な人間観に基づく経済学を人々が支持し、自らの自由を政府に差し出していく様子を『経済人の終わり』は教えてくれる。その意味で経済と法のところで同書は格好の古典だと思うので、次の版以降では紹介して欲しい。
次に、性規範から自由になれるかというところで、アウティングの問題が取り上げられていない点も不満である。
この点については何らかの改善が図られることを期待している。