2015年に盛林堂書房から刊行された元版に、新たな写真を加え、野呂のエッセイ、編者の対談を増補した一冊。
野呂邦暢という作家の名前を知ったのは、2010年に『夕暮の緑の光』がみすず書房から刊行されたときで、それ以降も愛読者というまでには至らなかった。『愛についてのデッサン』も、野呂の書いたものだ
...続きを読むからというよりは、古本屋を舞台に、古本屋主人を主要登場人物にしている作品だということに興味を持ったからである。
そこで本書。1976年頃の東京の古本屋を写した写真。当時は彼の地元の諫早から上京するのは大変だった時代。スマホで何百、何千枚でも手軽に撮れる現代とは違って、フィルムカメラで一所懸命に撮った感が窺われる。ピンボケしたものや見切れたものもあり、じっくりファインダーを覗いて写せたものではないことが良く分かる。
それでも何とか、古本屋の景色を、写真という何度でも見直すことのできる形に残しておきたかったのだろうか。
45年という月日が経ち、個々人的にはともかく、世の中一般としては書物に対する考え方はだいぶ変わった。そして東京という場所では、建物や景観は変化が激しい。それなのに、店舗の出入りは多少あれども、神保町の古書街のお店は現在も多くが健在である。
『昔日の客』や野呂自身のエッセイなどから、野呂が古本屋巡りを愛していたことは知っていたが、本書の写真を見ていると、均一棚から宝物を探す野呂の姿が浮かんでくる。
編者の一人小山力也氏の、野呂の写した足跡を辿る45年の時間を往還する一文は、とても参考になる。