2022年にハーパーコリンズ・ジャパンから刊行された『新型コロナはどこから来たのか 国際情勢と科学的見地から探るウイルスの起源』を読んだ。著者はオーストラリアの報道記者・キャスターのシャーリ・マークソン氏。感染症研究者はもちろんのこと、ホワイトハウスや各国政府高官、諜報機関職員、中国の内部告発者にまで取材をし、これまでタブー視されてきた武漢研究所流出性を多角的に検証している。
取り上げられている内容のインパクトは大きく、もっと話題になってしかるべき本だと感じた。ただ、ドキュメンタリーとして書かれている部分が多く、時系列が入り乱れている。決して短い本でもなく、もう少し要点が整理されている方が理...続きを読む 解しやすい。医学研究者の立場としては、引用元の論文まであたって考えてみたいこともあった。そこで、以下では本書の論点を整理し、医学的な点については一部補足もして、武漢研究所流出性を検証する。
1. 新型コロナウイルスをめぐる医学研究
1-1. コロナウイルスの生物学
コロナウイルスはRNAをゲノムとし、その外側にエンベロープと呼ばれる脂質二重膜を有する。この膜にはスパイクタンパク質(Sタンパク質)というタンパク質が存在し、これが細胞膜に結合する。そのため、あるコロナウイルスがどの動物に感染するか、どれだけ効率的に感染できるかを規定する最大の因子がSタンパク質である。
一方、宿主となる細胞でコロナウイルスのSタンパク質と結合するのは、ACE2と呼ばれる細胞膜上の受容体である。この受容体とSタンパク質が結合することで感染が始まる。
コロナウイルスのSタンパク質は、S1とS2という2つのサブユニットでできており、S1はACE2受容体との結合を、S2は宿主細胞膜との融合を担っている。コロナウイルスが宿主細胞に感染するためには、1) S1サブユニットとS2サブユニットの境界(S1/S2部位)と、2) S2の内部(S2´)の2か所が切断される必要がある。
通常のコロナウイルスでは、ACE2受容体と結合して細胞に取り込まれた後、エンドソームという小胞のなかでタンパク分解酵素によってこれらの切断が起こる。これにより、エンドソームの膜とコロナウイルスのエンベロープが融合して、細胞内に侵入できるようになる。
1-2. 新型コロナウイルスのSタンパク質
新型コロナウイルスでは、S1サブユニットとS2サブユニットの間(S1/S2部位)に、他のコロナウイルスには見られない4つのアミノ酸(プロリン・アルギニン・アルギニン・アラニン)が挿入されている。下図の右下「PRRA」というのがそれに当たる。これら4つのアミノ酸から成る配列は、ヒトの細胞が発現しているフーリンというタンパク分解酵素によって認識され、切断を受ける。このことから、この配列は「フーリン切断部位」と呼ばれる。
フーリンによるS1/S2開裂を受けたコロナウイルスは、宿主細胞のACE2受容体に結合すると、その近傍にあるTMPRSS2というタンパク質分解酵素によって S2´部位が切断され、そのまま感染が成立する。通常のコロナウイルスがエンドソーム内で2か所の切断を受け、ようやく細胞内に侵入することを考えると、感染成立までの過程をショートカットしていることがわかる。実際、新型コロナウイルスのSタンパク質からフーリン切断部位を除去すると、感染力が大幅に低下する(Johnson BAら「Loss of furin cleavage site attenuates SARS-CoV-2 pathogenesis」Nature、2021年)。
フーリン切断部位は、ウイルス学者にはなじみ深いもののようだ。というのは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)やインフルエンザといった有名なウイルスも、そのエンベロープ上のタンパク質がフーリンによる切断を受ける必要があるためである。
新型コロナウイルスのSタンパク質について、もう一つ重要な研究がある。オーストラリアのNikolai Petrovsky氏らは、新型コロナウイルスのSタンパク質と、さまざまな動物種のACE2との親和性をHDOCKというソフトウェアで評価した。なぜそのような検討を行ったのか? それは、新型コロナウイルスがある動物から自然発生したのだとすると、そのSタンパク質はもともとの宿主のACE2ともっとも親和性が高くなるはずだからだ。
検討の結果、新型コロナウイルスのSタンパク質がもっとも親和性が高いのはヒトのACE2、ついでセンザンコウのACE2だった。不可解な結果だ。もし新型コロナウイルスのSタンパク質がセンザンコウ由来であれば、センザンコウのACE2ともっともよく結合するはずである。このSタンパク質はヒトの細胞に感染するために作られたのだろうか?
In silico comparison of SARS-CoV-2 spike protein-ACE2 binding affinities across species and implications for virus origin - Scientific Reports
1-3. 新型コロナウイルスの系統発生解析
新型コロナウイルスの起源を探るうえで、そのゲノム配列は大きな手がかりになる。コロナウイルスはヒトのみならず、多くの動物に感染する。パンデミック発生当初、武漢の海鮮市場が新型コロナウイルスの発生源だとされたのも、そこで多くの動物が扱われており、異なる動物種由来のコロナウイルスが重複感染して、新しいウイルスが発生する可能性があるためだ。そこで、新型コロナウイルスと他のコロナウイルスのゲノムの比較に興味が持たれることになる。
新型コロナウイルスともっとも似たゲノムを持つのは、コウモリ由来のコロナウイルスである。これはRaTG13と呼ばれるウイルスで、新型コロナウイルスとゲノムの96.2%が相同である。コロナウイルスゲノムが約3万塩基なので、違いは約1100塩基ということになる。そして、この違いはSタンパク質で特に多く認められる。Sタンパク質はウイルスがどの宿主細胞と結合するかを規定しているので、ここが変化することでヒトに感染するようになった、というのは理に敵っている。
それでは、新型コロナウイルスのSタンパク質はどこから来たのだろうか。上述の通り、ゲノム全体で考えると、新型コロナウイルスともっとも似ているのはコウモリ由来のコロナウイルスである。しかし、スパイクタンパク質の受容体結合領域だけは、センザンコウ由来のコロナウイルスの方が新型コロナウイルスに近いことが報告されている。
Identifying SARS-CoV-2-related coronaviruses in Malayan pangolins - Nature
このことから、上記の論文では、コウモリ由来のコロナウイルスとセンザンコウ由来のコロナウイルスがある動物個体に同時に感染し、ゲノム間の組み換えを起こしたことで新型コロナウイルスができた可能性がある、と述べている。しかしながら、新型コロナウイルスの高い感染力に大きく寄与しているフーリン切断部位については、センザンコウ由来のコロナウイルスはおろか、どのコロナウイルスでも見つかっていない。その由来は今もって謎である。
1-4. コウモリ由来コロナウイルス RaTG13
既存のコロナウイルスのなかで、新型コロナウイルスにもっとも近いRaTG13とはどのようなウイルスなのか。上記の論文では、その点については触れられていない。しかし、インドの研究者であるMonali C. Rahalkar氏らはそれを突き止めた。氏は公開されているRaTG13のゲノム配列を、武漢ウイルス研究所のデータベースに収載されているコロナウイルスのゲノム配列と比較した。その結果、このデータベースに登録されているBtCoV/4991というウイルスと配列が完全に一致した。つまり、「RaTG13 = BtCoV/4991」ということである。それでは、BtCoV/4991とは何か?
2012年に中国雲南省の廃坑道で作業していた3名が肺炎によって死亡した。彼らはSARSウイルスに対する抗体を持っていた。その3か月後、武漢ウイルス研究所の石正麗らは、この坑道に大量にいたコウモリからサンプルを採取し、150種類以上のウイルスを単離した。その中に1つ、SARSウイルスと近縁のものがあり、BtCoV/4991と名付けられた。
つまり、既存のコロナウイルスのなかで新型コロナウイルスともっとも似たウイルスRaTG13は、武漢ウイルス研究所で2012年に採取されたウイルスだ、ということになる。
2. 武漢ウイルス研究所
2-1. 武漢ウイルス研究所とは
武漢ウイルス研究所とは、中国湖北省武漢にある、ウイルス学研究所である。1956年に設立され、国家重点実験室に指定されている。
2003年に同研究所に中国初となるバイオセーフティレベル4の実験施設を設置することが決まった。バイオセーフティレベル(BSL)とは、細菌やウイルスなどの微生物・病原体を取り扱う実験施設の格付けである。レベル1〜4があり、レベル4はエボラウイルスや天然痘ウイルスなど、重篤な病気を引き起こすきわめて危険な病原体を取り扱うことができる。BSL-4の施設は2017年の時点で、24か国・地域で59か所以上に設置されている。武漢ウイルス研究所のBSL-4実験施設は2014年末に建設完了、2018年1月に開所している。
ただ、同研究所の施設管理には疑義が呈されている。もともと、中国では2004年に北京のウイルス研究所からSARSコロナウイルスの流出事故が発生しており、中国でBSL-4実験施設を作ることには懸念が示されていた。実際に武漢ウイルス研究所BSL-4実験施設が開所した2018年には、アメリカの外交官が同施設を視察し、施設管理のさまざまな不備についてアメリカ国務省に報告している。
なお、通常のコロナウイルスはBSL-2、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスはBSL-3に分類される。同研究所でのコロナウイルス研究も、BSL-2およびBSL-3の実験室で行われていたようだ。
2-2. 武漢ウイルス研究所でおこなわれていたコロナウイルス研究
武漢ウイルス研究所でコロナウイルスを研究していた有名な研究者に、石正麗という人がいる。コウモリから多くの新しいコロナウイルス種を単離しており、「bat woman」の異名をとる。上述のBtCoV/4991を単離したのも彼女たちのグループだ。
彼女の代表的な仕事の一つが、2015年にNature Medicineに掲載された以下の論文である。この論文では、コウモリから単離したSHC014-CoVというコロナウイルスのSタンパク質の機能を調べている。具体的には、マウスに感染するコロナウイルスのSタンパク質を、SHC014-CoVのSタンパク質に置き換えた。その結果、このウイルスはマウスはもちろん、ヒトの呼吸器系上皮細胞にも感染するようになった。
A SARS-like cluster of circulating bat coronaviruses shows potential for human emergence - Nature Medicine
このように、コロナウイルスのゲノムを改変し、その感染能力などの機能を変化させる実験は、「機能獲得(gain of function)実験」と呼ばれる。ウイルスに対する理解を深めるという意義が主張される一方で、批判も大きい。改変したウイルスが流出すればパンデミックにつながるおそれがあるし、生物兵器としての使用も懸念される。ウイルスの生物兵器としての利用は、中国の軍人・国防大学教授らが執筆した『超限戦』にも示されており、中国が真剣に生物兵器開発を考えていることがわかる。
2-3. 武漢ウイルス研究所への資金提供
コロナウイルスの機能獲得研究は、アメリカの研究者と共同で行われた。研究資金は、アメリカの国立衛生研究所(NIH)の援助を受けていた。資金提供は、主にニューヨークの非営利団体エコヘルス・アライアンスを介して行われ、約60万ドルが武漢ウイルス研究所に流された。NIH傘下のアレルギー感染症研究所の所長を務めるAnthony Fauci氏は、アメリカ議会で「NIHはウイルスの機能獲得実験のために武漢ウイルス研究所に資金を出したことはない」と証言したが、これは虚偽であった。アメリカの国家予算の一部、米国民の税金が中国でのコロナウイルス研究に使われていたことになる。
この事例は、各国からの武漢ウイルス研究所への資金提供の氷山の一角のようだ。自国では行いにくい、ウイルスの機能獲得実験などの危険な研究を中国で進めていた、というのが実態だ。なかには、ウイルスを生物兵器として利用することを目指した研究も含まれていることだろう。
アメリカが新型コロナウイルスの研究所流出説をめぐる調査を思ったように進められない理由の一端がここにある。アメリカ政府高官のなかにも研究所流出説を疑い、調査を進めたいと考えた人もいる。しかし、一部の諜報機関やNIHから強い抵抗に遭ってきた。流出説を公に述べていたトランプから、バイデンに大統領が代わったことも大きい。新型コロナウイルスの起源の追究は、こうした政治の影響も受けてきた。
3. パンデミック初期に武漢で起きたこと
3-1. 2019年9月以降の武漢での出来事
本項では、パンデミック直前から初期にかけて、武漢で何が起きていたかを時系列でまとめる。COVID-19がなぜ"20"ではなく"19"なのか。その理由が見えてくる。
2019年
9月12日
武漢ウイルス研究所が保管しているウイルスについてのデータベースの公開が中止される。
9月18日
武漢の空港でコロナウイルスの拡大を想定した軍事訓練が行われる。
9月から11月にかけて
武漢ウイルス研究所で、セキュリティ関係や検査機器(PCR用サイクラーなど)の購入などの入札募集が急増する。
10月14日~19日
武漢ウイルス研究所周辺の携帯電話使用量が激減する。同じ頃、衛星画像で研究所周囲に車が見られなくなる。
10月18日
武漢から出発するフライトで原因不明の欠航が相次ぐ。
2019年10月18日~27日
武漢でミリタリーワールドゲームズ(国際ミリタリースポーツ評議会が開いている軍人スポーツ選手のための総合競技大会)が開催される。大会に参加したさまざまな国のアスリートが高熱と呼吸器症状を特徴とする疾患に罹患し、帰国後に発症した人もいたとのこと。
11月
武漢ウイルス研究所内でCOVID-19様の症状を呈する研究員が3名出る。
11月17日
中国政府の内部資料によると、最初のCOVID-19患者が報告された日。一方、この頃には中国のチャットアプリでSARSを意味する「非典」が一日に6万回以上使われていたことがのちに判明した。
12月
武漢ウイルス研究所が焼却炉と検査サービスを発注する。
2020年
1月23日
武漢ウイルス研究所が中国人民解放軍により接収される。
2月12日
中国でバイオセーフティ新法が公布される。
2月24日
中国から新型コロナワクチンの特許が申請される。申請者は実績のある免疫学者だったが、特許申請後に原因不明の死を遂げた。
3-2. COVID-19の発生時期をめぐる科学的知見
COVID-19の発生時期をめぐっては科学的な検証もなされている。本書では、2021年にScience誌に掲載された「Timing the SARS-CoV-2 index case in Hubei province」が紹介されていた。
この論文では、パンデミック初期にさまざまな地域から採取されたサンプル間のゲノム配列の相違を調べている。これにより、まず新型コロナウイルスのゲノムが変化する速度(ゲノムの変異率)を推定し、調べたサンプルの共通の祖先がいつ生じたかを推定している。その結果、COVID-19の発生は2019年10月中旬から11月中旬と推定された。
4. 新型コロナウイルスの起源をめぐる論点と私見
4-1. フーリン切断部位はどこから来たのか
新型コロナウイルスの起源を考える上で、避けては通れないのがフーリン切断部位の由来である。この4つのアミノ酸から成る配列により、ウイルスが細胞に感染するために必要な二段階のSタンパク質開裂のうち一つがバイパスされることになり、感染力が飛躍的に向上した。
自然発生説の支持者は、コロナウイルスが偶然にこの配列を獲得したと主張する。これに対して、ベイズ推定などの確率理論によって、その確率は非常に低いことを示した反論がある。確かに、4つのアミノ酸が偶然にS1サブユニットとS2サブユニットの間に入るということはなかなか起こることではない。この部位が変異が多く見られ、さまざまなアミノ酸が頻繁に挿入されるというのであれば納得できるが、そんなことはない。ただ、これを数理的に示そうとすると、推定に用いる変数は厳密に推定できないものが多い。その妥当性をめぐっては(政治的な要因もあって)議論が多いようだ。
わたし個人としては、1) フーリン切断部位がウイルス学者にはなじみ深いものである、2) それがS1/S2部位という絶妙なところに挿入されている、3) 武漢ウイルス研究所でコロナウイルスの遺伝子組換え実験が行われていた、4) Sタンパク質以外のゲノム領域が同研究所で2012年に手にしたウイルスときわめて類似している、といった事実をふまえると、武漢研究所流出説の方が蓋然性は高いと感じる。
4-2. 新型コロナウイルスのSタンパク質とヒトACE2との高い親和性
新型コロナウイルスのSタンパク質が、ほかの動物種ではなくヒトのACE2ともっとも強く結合することはどのように説明できるだろうか。
まず注意したいのが、これはソフトウェアによる予測だということだ。2つのタンパク質の結合の強さを数理的なアプローチで推定することは、今もって難しい。2つのタンパク質が相互作用することで、お互いの構造が変化し、それによってまた相互作用が変化するためだ。
また、できる限り感染初期に採取された新型コロナウイルスで結合性を評価することも重要だ。ウイルスがヒト集団でひろがっていく間に、ヒトのACE2とより強く結合するようなSタンパク質が選択されていくと見込まれる。残念ながら、中国からのパンデミックの報告が遅れ、最初期の患者サンプルも提供されないことから、実際にはこうした検討を行うことは難しい。
以上をふまえると、新型コロナウイルスのSタンパク質がヒトのACE2ともっとも強く結合する、という予測は、流出説を支持する間接的な証拠ではあるものの、決定的なものとは言えないだろう。
4-3. 新型コロナウイルスの最初の感染はいつ起きたか
これについては、中国政府の内部資料によると2019年11月17日ということになっている。しかし、この時期にはすでに、中国のチャットアプリで「SARS」に当たる言葉があふれていた。
新型コロナウイルスゲノム の変異率をもとにした検討では、最初の感染は2019年10月中旬から11月中旬であるとされる。11月には武漢ウイルス研究所の研究員3名がCOVID-19様の症状を呈しており、この時点では研究所内で感染が広がっていたと見てよいだろう。
10月に武漢で開かれたミリタリーワールドゲームズで発熱者が多数出たのがCOVID-19によるものなかは、よくわからない。ただ、その前の時期、9月から10月にかけての武漢ウイルス研究所の動向を見ていると、9月の時点で研究所内でウイルスの流出事故が起きていたのではないか、という疑いはある。もしこれらの経過が早く判明していれば、ミリタリーワールドゲームズ参加者の新型コロナウイルスに対する抗体保有状況を調べるなど、調査の余地はあったように思う。
4-4. 自然発生説の根拠
科学的に見ると、自然発生説の根拠とされるものは人為的なコロナウイルスゲノムの操作を否定するものではない。コロナウイルスゲノムは特に痕跡を残すこともなく改変できるためである。
自然発生説を検証するうえで、動物から新型コロナウイルスに似たウイルスが検出されるかどうかは重要だ。実際、武漢周辺や、武漢ウイルス研究所の研究員がコウモリのサンプルを集めていた雲南に生息する動物から、合計8万点ほどのサンプルが採取されて調べられている。今のところ、新型コロナウイルスまたはそれに近いウイルスは検出されていない。自然発生説の直接的な証拠は、まだないと言える。
4-5. まとめ
純粋に科学的に考えると、新型コロナウイルスの研究所流出説と自然発生説のいずれも、決定的な証拠はまだない。今後もそうしたものは出てこないだろう。個人的には流出説の方に有力な証拠が多いと考えるが、これについては議論が避けられない。
ただ、今回のパンデミックを受けて世界がどのような対策をとるかを決めるにあたっては、完全な証拠は必ずしも必要ない。中国では2004年に北京のウイルス研究所でSARSコロナウイルスの流出事故が発生している。2002年のSARSが発生したのも中国広東省だ。流出説の真偽はさておき中国に対する国際的な監視を強めるべきだ、という本書の結論は、納得のいくものに思える。