決して悪い本ではないのだけれども,本書に登場する中学生に向けて講師となった著名人の方々の思想や考え方をもとにした主張には,極端に感じるものが多くて,世界に対する見方としてそういう視座もあるんだなあという気づきという意味では,キッカケとして良いのかもしれないなとは思いつつも,純粋な子どもたちは真に受けて,疑うことをせずに,「講師の先生が教えてくれたことだから,こういう風に考えるのが正しいことなんだ!」と盲信してしまいそうなきらいがあるなと感じてしまった。
主張を押しつけようとするのではなく,もう少し読んだ側・聞いた側へと考えさせるように,問い掛ける語り口を模索して欲しかったかなと思う。
登壇されている講師の方が,全員女性であることも偏りが酷くて,柔らかく受け止めてもらいやすいようにという工夫の表れなのかもしれないけど,大人側の都合というか,「こう感じて欲しいな」という思想を押し付けようとする強い作為が透けて見えるようで,鼻白んでしまったかな。
そのような点も踏まえた上で,個人的に良かったと感じたのは,最初の元SDN48所属アイドルである大木亜希子さんのお話と,最後の元TBSアナウンサーである小島慶子さんのお話。
大木さんのお話は,そもそも自分が「アイドル」という存在が好きだし,興味・関心が強いのと同時に,アイドル内における「人気」とか,「競争構造」(これはもちろん,「=資本主義社会の縮図」となっているわけですが)を考えることが好きだし,自分が好きになるアイドルやキャラクターって,どちらかというと世間的にはあまり人気が高いわけではないことの方が多いので,そのような面においても,当の「残念ながらあまり人気を得ることができなかったアイドルの人たち」が,競争社会や番付・序列・ランキング主義,成果主義という過酷なシステムをどのように考えたり捉えて,そこからどう人生を切り拓いていかれたのかという,実際の姿を知ることができたというところが,大変ありがたく,意義深かった。
もちろんこのことは「アイドル」だけに限らず,残念ながら上手くいかなかった挑戦の全てに適応し得る経験談だと思うし,長い人生を生きていく上で"失敗"することがない人なんて居ないと思うから,極めて普遍性が高い,気づきや勇気をもらえるお話だったと思う。
上では便宜上,"失敗"と記しているけれども,自分は人気やランキングといった,数値で表すことができるものさしよりは,たとえそれがたった1人の人相手であっても,生きる勇気とか希望とか,何かしら相手の人生の"救い"や"支え"を与えることができるのであるならば,それを成し得る全ての人が素晴らしく,尊い,意義や価値ある存在だと心から思うし,信じている。
小島慶子さんのお話は,自死を選択すること,自死を選択した人に対して,どう考えるかという問題を,話者本人の主張を組み込みつつも,決して押し付けようとはせずに,とにかく自分と違うように感じたり,思ったりした人であっても,「何故そう思ったのかを深く考えていって欲しい」という願いが中心に置かれていた点が,非常に良かったと思う。
反対意見の紹介とともに,中立的な視座をきちんと踏まえた上で,では「何故、わたしは自死を選んで欲しくないと感じるのか」という倫理的,哲学的なテーマと問いに対して,真摯に向き合おうとする姿勢に強い共感と感銘を受けた。
また,偶々ではあるが,これを読んだ時の自分がだいぶうつ傾向で,「死ぬことは全く考えていないけれども,生きることは苦しみに満ちているな」と感じるような精神状態だったので,辛い時,苦しい時には,裏にどのような想いがあるのかという指摘や,辛い時にはどのように対処して欲しいかという提案の言葉に,強く心励まされたなと思う。
あと,最後に書かれていた,
「みなさんからもらった感想はすべて読んでいて,今後の自分の人生に必ず影響します。
"だれかの言葉に出会うということは変わるということだから"」
という一文と,そこに通底する考え方やものの捉え方が素敵すぎて,強く心に刻まれた。
自分もだれかの言葉をきっかけとして,それを基に考え続け,変わっていくことができる人でありたいと思う。
そっと優しく穏やかに寄り添うような語り口なのに,その中に力強さと勇気と希望を含んでいる,そんな素敵なお話をありがとうございました。