作品一覧

  • 精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突
    4.6
    1巻4,400円 (税込)
    生死がせめぎ合う医療という場における異文化へのまなざしの重さを、感性豊かに、痛切に物語る傑作ノンフィクション。ラオスから難民としてアメリカに来たモン族の一家の子、リア・リーが、てんかんの症状でカリフォルニア州の病院に運ばれてくる。しかし幼少のリアを支える両親と病院スタッフの間には、文化の違いや言語の壁ゆえの行き違いが積もってしまう。モン族の家族の側にも医師たちの側にも、少女を救おうとする渾身の努力があった。だが両者の認識は、ことごとく衝突していた。相互の疑心は膨れ上がり、そして──。著者は、医師たちが「愚鈍で感情に乏しい、寡黙」と評したリアの両親やモンの人びとから生き生きとした生活と文化の語りを引き出し、モン族の視点で見た事の経緯を浮かび上がらせる。その一方で医師たちからもこまやかな聞き取りを重ね、現代的な医療文化と、それが医療従事者に課している責務や意識が、リアの経過にどう関わっていたかを丹念に掘り起こしている。本書の随所に、異文化へのアプローチの手がかりがある。原書は1997年刊行以来、アメリカで医療、福祉、ジャーナリズム、文化人類学など幅広い分野の必読書となった。医学的分類の「疾患」とは異なる「病い」の概念も広く紹介し、ケアの認識を変えたとも評される。全米批評家協会賞受賞作。
  • シャルコー 力動精神医学と神経病学の歴史を遡る
    -
    1巻1,320円 (税込)
    近代神経学の創始者ジャン=マルタン・シャルコー(1825-93年)は、パリ大学で学び、パリ医科大学の病理解剖学の教授を務めたあと、1882年にはサルペトリエール病院の神経病学の教授となった。同病院での膨大な臨床経験を通して神経学を確立したシャルコーの理論は、『火曜講義』と呼ばれる公開講義を通して知られるようになる。ヒステリー患者のパフォーマンスも行われたこの講義の様子は、アンドレ・ブルイエ(1857-1914年)の絵画(1886年)に描かれている。 カタレプシー、嗜眠、夢中遊行という三つの状態をたどる「大ヒステリー=大催眠理論」を打ち出したシャルコーは、精神病理の領域に催眠術を導入したことで知られ、その理論はジークムント・フロイトやピエール・ジャネのほか、ジョセフ・バビンスキー、ピエール・マリーらに影響を与えた。 本書の前半では、金曜日に行われていた『神経病学講義』を基にシャルコーの理論を概観し、さらにその生涯の事績を跡づけていく。その上で、後半では、医学を超えて思想や文学の領域にも見られるシャルコーの残響を見ることで、著者が「シャルコー的問題」と呼ぶものの広がりを示す。 「神経病学のナポレオン」あるいは「科学界の帝王」と呼ばれたこの知の巨人は、『神経病学講義』や『火曜講義』の全訳が存在しないこともあって、日本ではよく知られているとは言いがたい。生誕200年を迎える2025年、すでに定評を得た概説書である本書を、全面的な改訂を施した決定版として、ここに刊行する。 [本書の内容] 第一章 すべてはシャルコーからはじまる 第二章 男性ヒステリーとは?――『神経病学講義』より 第三章 シャルコー神経病学の骨格 第四章 大ヒステリー=大催眠理論の影響――フロイト、ジャネ、トゥーレット 第五章 シャルコーとサルペトリエール学派 第六章 『沙禄可博士 神経病臨床講義』――『火曜講義』日本語版の成立と三浦謹之助 第七章 シャルコーの死とその後 第八章 シャルコーと一九世紀末文化――ゴッホのパリ時代と『ルーゴン・マッカール叢書』 終 章 ヒステリーの身体と図像的記憶 文献一覧 あとがき 学術文庫版あとがき
  • 病いのリアリティ 臨床民族誌の系譜
    -
    1巻4,752円 (税込)
    本書は,医療人類学や文化精神医学の知見を踏まえて,病いや苦悩をめぐる精神科臨床につなげていこうとする論集である。なぜ精神医療の領域のものに,民族誌(エスノグラフィー)といった,人文・社会科学系の場違いにみえる方法を持ち込もうとするのか? 今日,細分化され精緻化された専門領域の臨床マニュアルを携えてアプローチすれば済むことではないか? そう思われるかもしれない。しかし,一旦患者や家族,相談者の側にたつとはっきりするが,それだけでは病いや苦悩を抱えた人の経験の核心には届かないのだ。それを超えるリアリティを感じ,さらにはそれを手に入れるためにはどうしたらいいのか。 著者は,臨床人類学の物語論から,力動精神医学の歴史へとさかのぼり,さらに民俗学ないし民族誌学的な視点へと迂回する「北西航路」をたどろうとする。それは,あくまで人文科学系のアプローチであるが,じつは身体になじませ,「身体技法」にいたる,環境的で生物学的リアリティを含む部分をゴールに据えようとするものなのである。この領域の圧倒的先達であるクラインマンやグッド,土居健郎や中井久夫から,シャルコーやジャネやミッチェル,ドゥヴルーを経て,子規や柳田国男に導かれるこの一種の「回峰行」を,読者とともにたどれたらと思う。

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  • 病いは物語である 文化精神医学という問い
    -
    1巻4,950円 (税込)
    なぜ臨床場面に民族誌(エスノグラフィー)が必要なのか? 著者は文化精神医学や医療人類学の方法論を精神科の日々の臨床にいかに蘇生させるかということを,ライフワークにしてきた。本論集はその集大成ともいうべき労作である。 かつてA・クラインマンは,台湾をフィールドとする著作のなかで,憑依状態で治療にあたる現地の童ケイ(タンキー)を,癒しにおいて間違いなく西洋医にまさるものと結論づけた。ここで作動しているローカルな知を現代医療において生かす方法は何かと著者は問う。現代精神医療の変容(「大きな物語の終焉」),物語論の始原へと遡るジャネの心的治療論,民俗学への架橋,そして医療自身のもつ文化をたどりながら,読者は対話場面で偶発的に溢れるように語りだされる患者や家族の「もう一つの物語」を聴くことになるだろう。 精神療法は文化とどこで出会うのか? 心的治療の多様性とは? 臨床民族誌という方法を理論にとどまらず身体技法として身につけるにはどうしたらよいか?……本書(本論集)はこれらを模索する試みである。

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ユーザーレビュー

  • 精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突

    Posted by ブクログ

    異文化コミュニケーションの事例として、これを超える本はないのではないか。下手に理論を勉強するより、こういった事例を学ぶ方が良い。
    文明vs非文明民族の対立を描いている。私は非文明民族の視点を持って生きていきたい。

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    2025年03月01日
  • 精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突

    Posted by ブクログ

    2019年にSlate誌「この四半世紀の最も優れたノンフィクション50作」に選ばれた作品。初出は1997年で、15年後の改訂版を日本語訳したもの。
    長距離フライトの往復で読み切った。初めて飛行機の中の時間が速く過ぎたと感じた。

    モン族という現在のラオスやタイ、ベトナムの山岳地帯を起点とする家族と、その家族の一人である「患者」を診る米国の医療者たちの関係が中心に描かれる。読み終わった後には、立場の違いなく、様々な登場人物に畏敬の念を抱いた。

    モン族の生活や背景、歴史事情、医療行為など、高度で入り組んだ理解が必要なテーマがいくつも折り重なっているのに、ほとんどの前知識を必要とせずにこの本を読む

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    2023年12月20日
  • 精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突

    Posted by ブクログ

    とてもおもしろかった。前のめりで読んだ。

    最新刊、と思って読んでいたけど、これは「15周年記念版」の訳で、最初に出版されたのは、1997年なんですね。
    帰化や難民受け入れについては、ずっとほぼ鎖国の日本ではまだまだ実感すら追いついていないテーマなんですが、アメリカではもうおなじみのテーマなんだろうか。それとも、やっぱりアメリカでもまだまだなんだろうか。そんな疑問を感じながら読んだ。
    でもたぶん、こういうのはどこの地でもどの歴史でもどの民族にとっても、きっと永遠にいつまでも新しいテーマであり続けるんだろうな。

    しかし、異文化受け入れに対して、自分は柔軟な方・・・と思いたいのはやまやまだが、こ

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    2022年10月02日
  • 精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    アメリカにはラオスやベトナム、タイ北部に住むモン族が難民となって住んでいる。
     モン族は中国では苗(ミャオ)族として知られる山岳民族である。無文字で、山地で農業、狩猟をして暮らしている。
    家も自分達で建てる。薬草で病気を治療する。
    そして精霊信仰をしており、生活の節々で精霊が顔をだす。
    この本はアメリカに亡命したばかりのモン族の夫妻に子供がうまれ、その何番目かの娘がてんかんの症状を発症しアメリカの病院に運ばれ、治療、退院を繰り返すなかで不可避的におこった文化の衝突のあらましを、多くの関係者者に9年にわたりインタビューをして書かれたものである。
     アメリカ人からみたら原始的で頑迷でコンプライアン

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    2022年05月12日
  • 精霊に捕まって倒れる――医療者とモン族の患者、二つの文化の衝突

    Posted by ブクログ

     ラオスから難民としてアメリカに来たモン族の一家の子リア・リーがてんかんの症状でカリフォルニア州の病院に運ばれる。家族も病院スタッフもどちらも少女を救おsうと懸命に努力するのだが、文化の違いや言語の壁などから行き違いが積もってしまっていた。
     著者はリアの両親や家族、治療に当たった医療関係者等にインタビューを重ねるなどして、どのような状況であったのか、どのように考え、どのように対処したのか、相手方の気持ちや態度をどのように感じていたのか、などを丹念に明らかにしていく。

     本書のタイトル「精霊に捕まって倒れる」とは、モン語で<カウダぺ>、魂の喪失によって引き起こされる病として受け取られている。

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    2025年04月02日

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