日本現代アートの札幌宮の森美術館が、写真家北井一夫の1964~8年の作品を収蔵しており、2021年に改築することの記念事業として平凡社から出版されたとなっている。
「『過激派の時代』に寄せと」と第する巻頭文は、近頃冷静な書きぶりが多かった山本義隆の5頁にわたる、当時の熱気を取り戻したようなもので、こ
...続きを読むこで胸が痛くなる。
山本が引用し、この本で北井も書いている話がある。
「警察は全学連の活動家たちが写っている私が撮った写真のネガフィルムを欲しがっていた。何かの理由で私が逮捕されてフィルムを押収されて、それを証拠に活動家たちが逮捕されるようなことがあれば、私の写真活動は断念に追い込まれることがわかっていた。フィルム、ベタ焼き、プリント類の押収を警戒して、自宅に置かないよう気をつけた。誰にも気づかれない知人宅に、それも半年ごとに場所を移動しながら、1966年から1972年まではそれらを隠し続けた。」
そうだ、そんな時代だった。
この本にも、わざわざそのベタ焼きが掲載されている。
あの時代の息遣いまで伝わってくる当事者の側から撮影された写真は、どれも時代の証言となっていて、札幌で永久に保存されることは、素直に嬉しい。
なお、個々の写真には撮影日・撮影場所等は記載されておらず、巻末に一括して出典が掲載されている。
出版界が厳しい折柄、こうした良心的な造本で写真集出してくれた平凡社に称賛を贈りたい。