以前は思春期と言えば、中学生位の年頃の子供たちだったが、今や高学年どころか、小学4年生の荒れが多く見られるようになってきた。そんなお年頃、「9歳、10歳の壁」とはどんなものなのか、私たち大人がしっかりと把握し、適切に対応したり指導、支援したりすることで、子供たちの成長の支えになればいいなと思って本書を読んだ。
大人の安易な評価や励ましは、逆に子供の不信感を募らせることになる。子供自身が、これはちょっと不得手だなと思っていることに「すごいね、できてるよ」と安易に声かけをしても、調子に乗るというよりは、逆に声をかけたことに対して、「いい加減な人だ」といった不信感を持つと言うわけだ。
自尊心は8歳から12歳にかけて低下する。9歳、10歳ごろになると、自分の未熟なところや弱いところも自分の目に全て映るようになり、自己に厳しくなるためだと考えられる。また、周囲からの厳しい評価を感じたり、自分に対する嫌悪感なども持つようになり、自尊心が低くなりがちの難しい時期を迎える。自分自身についての評価は、客観的な情報と、その情報の主観的な評価とを併せ持って作られる。だから、周囲にいるものは、努めて、子供が価値ある存在として自身を受け入れるように、子供たちをサポートしていくことが大切。
○自分の発達における9歳、10歳
自分だけではなく、他人のことを自分のことのように考えたり、他人の心行動から予測したりすることができるになる。つまり、人の行動の背景にある、感情や考え方まで想像することができるようになる。
また、自分に対しても、他人から見るような視点の取り方ができるようになり、自分のだめなところを客観的に見られるようになる。そのため、ときには、劣等感が強まり自尊心が下がる。
4,5歳の子供たちが何度も同じことを繰り返すことを見せるようになる。親からすると、同じことばかりをしているように見えるが、ピアジェの観察からすると、子供はただ単に同じことを飽きることなく繰り返しているのではなく、その繰り返した行動中から、ものの因果関係や時間の前後、様々な法則性を感じとるような力を身に付けているらしい。一見無駄なエネルギーの浪費のようなことが、実は、物事の規則性を認識することにつながっている。
「規則を変えることができる」と捉えられるようになるのが、まさに9歳,10歳以降である。
小学校中学年以降になれば、「規則は変えることができる」と捉えられるようになる。例えば、トランプ遊びでジョーカーなしでやるなどといった規則の変更について提案しても、「やってみるか」と言うようになり、みんなが合意すれば、規則を変更できると考えるようになる。これは、大人から拘束力を意識する段階から、協同で規則を生み出すことができる段階への移行であり、まさに、他律から自律の道徳性へ発達している。
社会で生活していく上で、自分の自由を求めながらも、他人もまた自由を求めていることに気づき、互いに権利を侵害しないよう、配慮し合う力を持つことが重要。そしてその力の必要性を認識できるようになることが大切になる。
【9,10歳の「自分」】
自分だけではなく、他人の事についても、自分のことのように考えたりできるようになる。特に、他人の行動から、その人が何を考えているのだろうかと、どんな気持ちでいるんだろうか、といったことを予測したりすることができるになる。つまり行動の背景にある、感情や考え方まで想像することができるようになる。また、自分に関しても、他人から見るような視点の取り方ができるようになる。自分のだめなところを、客観的に見られるようになる。それまでは万能感が強かったのに、次第に「たいしたことないや」といった劣等感が強まり、自尊心が下がる。子供たちには誰でもそれぞれと必ず得意な分野や良いところがあるので、悪いところや問題点ばかりを指摘するのではなく、良いところをどんどん褒めたり、「人には得意なこともあれば不得意なこともある」と言うことや、「いろいろあるから、頑張ったり楽しんだりできる」ということなど、大人の側が伝えていく努力をすることが、この時期には特に必要。
【9,10歳の「考える力」】
様々な認識の領域で、量的にと言うよりはむしろ、質的に変化する時期だと考えられる。言葉がたくさん増えるとか、考える量が多くなると言うよりも、レベルアップすると言う感じ。自分と他人、主観的な自分と客観視できる自分、時間の軸の中での今の自分と未来の自分、物事を相対化させてみるといった高次の認識が可能になる。ただし、この年齢では、この質的な変化が、スムーズに移行できる人と、停滞してしまう人にわかりやすく、全体的には、不安定になる時期とも言える。そのため、認識の枠組みをステップアップできるように、適切な支援が必要。それぞれの子供たちの考え方や、考えられる内容をよく理解しやった上で、他にも考え方があることや、ユニークな見方、考えること自体の楽しさを伝えられるように、あせらずサポートしてやれば、成熟した考え方に構造化されていく。悩んだり、ジレンマに陥る事は、新しい心の成長の証。そうしたジレンマを、大人そのまま、まず受け止めてやること。つまり、すぐに答えを出すのではなく、「○と△だと、どちらが良いか悩んじゃうね」などと、その気持ちを受け止めてやることが大切。その上で、上から目線で強制するのではなく、「こんな考え方をするとどうだろう?」と、あれこれ考えること自体の楽しさを教えてやればよい。
【9,10歳の「感情」】
「感情」と言うものを対象化して考えられるようになり、それを文章や会話の中でも表現できるになる年齢。間接的な表現から、相手の気持ちを組むことなどもできるようになる。ただし、自意識過剰になる傾向が強いため、そこまで考える必要がないのに、考えすぎたりする。傷つくのを恐れて、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを一歩踏み込んで尋ねたりすることができずに感情を抑え込んでしまったりする。そのため、自分で自分をどうすれば良いかコントロールできない状況も出てくる。
【9,10歳の「友達関係」】
親の言うことには従うべきだと言う考えが弱まり、友達との友情が強くなる時期。大好きな友達や仲間のために、なんとかしたいという思いやりが強まる一方で、友達の目がすごく気になる時期でもある。友達を思いやる気持ちが強くなるとともに、だからこそ、友達に裏切られたり嫌われたりすることを恐れるようになる。時間的な見通しの力もつくので、ちょっとした友達との誤解が、数ヶ月、ときには1年以上続くかもしれないなどと、予想できるようになる。そういう意味では、意地悪を一時的なものではなく、陰湿で長期化するように仕込むこともできるようになり、次第に「いじめ」と言う構造が成立しやすくなる。加害者も被害者も生み出さないように予防していくためには、成熟した道徳的な価値観と、友達とうまく関わるソーシャルスキルを教えていくことが必要。
※「ソーシャルスキル」の視点から子供たちをとらえると言うことが、どういうことなのか…
①主観的な印象のみで話さず、客観的に見る。客観的な事実を明らかにして、衣装等の主観的な評価と混同しないことが大切。
×日ごろから乱暴
○2.3日に1度喧嘩をしている、
毎日のように人を叩いている
②抽象的な教え方をせず具体的に教える。
×やさしく話しなさい。
落ち着きなさい。
頑張りなさい。
○お友達が泣いていたら、大丈夫?って聞いてごらん。
③ダラダラと同じ対応の繰り返しをしない。
全く変化しそうにないことを何度もくどくど言って、 さらにお互いがイライラするような関わりは悪循環。自分の対応と子供の様子をよく見て、うまくいってないのはなぜかクールに考え改善していくことが必要。
④性格のせいにせず、教えてあげる。
×乱暴な性格ね。内気な性格ね。
○まだ、具体的に優しい行動の仕方を知らない。人に関わる行動のことを知らない、などと考えることが大切。通まだ未熟なだけ、練習すれば上手くなる、という発想に切り替えて、多様でシンプルな支援の仕方を提案することが良い。
またソーシャルスキルトレーニングは、認知を変え(柔軟に考える豊富な情報を取り入れる)、感情を変え(自分の気持ちを調節する)、行動を変える(適切な行動する)、という考え方を背景にしている。
【9,10歳の「道徳性」】
自分以外の人の立場に立てるようになり、自分と親しい人だけではなく、次第に、第三者や集団、社会といったしても理解できるようになる。ただし、個人差が大きく、自分のことしか考えられない子や、親しい友達のことだけでいっぱい、といった子供たちがクラスに混じりやすいやすい時期。なので、役割取得能力を育てることが必要。自分の視点や立場だけでなく、他人の視点や立場に立つ練習。道徳の時間を最大限に利用しながら、社会での歴史や地理を通して、その時代やその場所で生きる人たちがどのようなことを考え、感じていたのか、またそれはなぜなのか、といったことを考える事は、時代や場所を超えて人間に共通した価値を考える上で、重要な土台になる。国語では、道徳的な価値を踏まえた上で、具体的にどのようなコミニケーションすることが求められるのかを、読む書く話す聞くを通して学ぶことができる。理科算数、体育、家庭科などでは、ペアやグループで助け合って問題解決を図るなどの手段を使って、友達と助け合ってすることで、より大きな問題解決ができることを学ぶことができる。このような経験の中で、お部屋間といった概念の背景にある意味について理。具体的な能力や貢献度といったことを、この頃は重視するが、みんなのために考えてくれる人といった「公」についての理解も深まっていく。
ちょうど9歳、10歳の子供たちは、それまでは親の背中を見ながらひたすら遅れまいとついてきていたのが、次第に親と並走し、ときには親を抜いて行ってみたくなる時期にかかるのかもしれない。だが、実際にはジレンマや葛藤を抱えていて、まだまだ自分の力で乗り越えていくことが難しく、少し後ろから背中を押してもらったり、ときにはまた親の後ろに下がりつつも、次への飛躍に備えるような時期にあたる段階でもある。
9歳、10歳頃でも、具体的に自分が進歩していることを、頑張っていることがビジュアル的にわかるトーク(印表彰)は効果がある。ものによるご褒美よりも、自分が徐々に認めてもらっているということが嬉しい時期である。9歳10歳と言うと、親は「もう1年生じゃないんだから、人で宿題をして何でも自分でやらなきゃ」といきなり距離感をとって何でも自分でさせがちな年頃ですが、意外とまだ支えが必要な時。もちろん、何でも先回りすぎるのは歩だが、しっかりと支えてやりながら、少しずつはしごの位置を変える、高さを低くする位の心構えが必要。いきなり梯子を外されることほど、不安でたまらない事は無い。おうちの人が支えてくれるからこそ、学校でのストレスを乗り越えるエネルギーを蓄えることになり、またおうちの人から適切な支援をもらうことで、複雑で繊細になる人間関係を、失敗しながらも乗り越えていける。