あらた六花の作品一覧
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Posted by ブクログ
【誰にもあげないでくださいね。先輩の何も…ひとつも(謙太郎)】
Eros度★★
おやおや。恋人になれた二人を待っていたのは、毎日甘く過ごせる時間ばかりではありませんでした。高校2年生の謙太郎は文化祭実行委員として忙しく、先輩の瑞生は卒業後の進路と向き合う。会いたい気持ちは同じなのに、学校生活の中でそれぞれに果たすことがある。この現実的なすれ違いが、恋人になった後の物語をぐっと豊かにしています。
謙太郎は寡黙で、瑞生への独占欲をまっすぐに見せる後輩です。けれど、強気な言葉の内側を覗くと、自分ばかりが嫉妬しているように感じる不安や、年下であることへの焦りが見えてきます。「大人になりたい。近づきたい」。この短い願いが切実でした。瑞生の隣に立ちたいのに、先に卒業する相手と同じ時間を歩くことはできない。文化祭という楽しい行事にも、限りがあると知った途端、胸を締め付ける寂しさが生まれます。独占欲の強さも、謙太郎の不器用な愛情としていっそう響きました。
瑞生もまた、明るく余裕のある先輩という印象のままでは収まりません。謙太郎がほかの人と親しくしている姿に心がざわつき、その感情を「…やきもち妬いちゃったの!」と言葉にする。ここが本当に可愛くて、同時に大切な場面でした。これまで謙太郎が抱えていた「自分だけが強く求めているのでは」という寂しさに、瑞生自身の本音が届くからです。瑞生の嫉妬を喜んで受け止める謙太郎にも、こちらまで幸福な気持ちになりました。
瑞生の言葉や振る舞いには、相手にそばにいてほしいという願いと、その願いをどう伝えたらよいのか迷う気持ちが同居しています。家庭のことを抱えながら、自分の将来にも目を向ける瑞生。彼をただ守られる先輩として描かず、自分の感情を知り、自分の道を考える一人の人として描いているところにも惹かれました。謙太郎のほうも、瑞生を独り占めしたい気持ちの奥で、相手の歩む先を気にかけています。二人が相手の知らなかった一面に触れるたび、恋人という関係に新しい深さが加わっていきます。
親密な場面が印象に残るのも、そこへ至るまでに会えない寂しさや伝えきれない本音が積み重なっているからです。瑞生の「謙ちゃんの好きなようにしていいよ」には、身を委ねられる安心があり、謙太郎の触れたい気持ちには、離れていた時間を埋めたい切実さがある。甘い場面の中にも二人の心の動きが見えるので、表情や言葉の一つひとつに引き込まれました。
夏休みから文化祭、そして卒業へ向かう構成も、この巻ならではの魅力です。楽しい行事が続くほど、一緒にいられる今の尊さが際立つ。甘酸っぱい高校生同士の恋、独占欲の強い年下攻めと明るく健気な先輩受け、恋人になってから育つ嫉妬や信頼を読みたい方におすすめします。