「アメリカの風景」「暗闇を見る」「ストレンジャー」の三部作。
それぞれ別々のエピソードかもしれないし、つながりがあるのかもしれない、くらいの気持ちで読みはじめた。NYのある男の家で話をしている。男とは、ポートレート写真のシリーズで出会い、あるイメージというか夢をはじまりとして回想を話しているようだー
...続きを読むーぼんやりした認識とともに、回想のなかと話をし過ごしている家とを行き来する。那覇、沖縄の小さな島、開放地、大阪、NY。小さなループがあり、終わりの方で大きなループを感じた。
鉤括弧も説明もなく人が話しシーンが切り替わっていくのが、とても自然で気持ちいい。僕、J、ジャックの視線で描かれる場面や人物の仕草、ずっとあとでその視線のなかにあった人物がその人物の視点で話したり思ったりして、また別の場面が描き出される。一つ一つは短く小さな場面だ。いつのまにかそれが読んでいる私の記憶になり、既視感をおぼえる場面にであったりする。微細に揺れ動くこころと淡い期待や失敗、体の造形を追う視線に感じる、見るもの見られるものの体温。
音楽、映画、美術作品、飲み物、食べ物もよく描かれる。カンパリのビール割り、「くら」をアイスレモンティーで割ったもの...回想する中、特に飲み物はいつも片手にある。
いちばん食べてみたくなったのは、つまみとお酒でお腹がすいてきた頃に、ニルスが作ってくれる、「レモン果汁とニンニクだけのシンプルなパスタ」だった。
2章、NYでの経験のあと帰ってきた東京の彼は、少し疲れ、揺れ続けている。最後に描かれる、NYで確かに歩んだエピソードをもって。
まわりの人のさりげない気遣いや、やり取り。写真家として歩いていく前・それが生活になっていくさまを、いくつもレイヤーが重なるように描かれた、青春小説。