自身も博士号を取得するまでの10年間は警備員として働いた、社会学が専門の著者による、警備ビジネスから見た日本の社会論。「警備業は『社会を映す鏡』であり、『日本社会の縮図』」(p.27)という観点で、警備会社や警備員の歴史や制度、実態を解説しながら、その背景にある社会の構造を見つめる、というもの。身近なことについてのとても分かりやすい説明、分析で、興味深く読むことができた。
おわりに、のところで「警備業とは『スズメのような存在』だと思っています。スズメは私たちの日常生活で、ごく普通に見かける身近な鳥です。にもかかわらず、『スズメの生態は?』と訊かれて、スラスラと答えられる人は多くありません。」(p.269)というのが言い得て妙だなと思った。確かに警備と守衛の違いとか、なぜ警備会社がヤクザに結びつけられてイメージが悪かったのかとか、なぜ警備員に老人が多いのか、なぜ給料が少ないのか、といった断片的な印象とか知識を裏付ける事柄が明快に解説されている。「実質的に警備会社は『警備員の手配師』として、警備員を工事現場へ送る役割を担っています。すなわち、交通誘導警備は『寄せ場の系譜』に位置づけられるのです。近年、寄せ場は(略)かつては『木賃宿』といわれ、寄せ場に集まる日雇い労働者が寝泊まりしていました。木賃宿が密集したことから、寄せ場は『宿(やど)』を逆さ読みにして『ドヤ』(または『ドヤ街』)ともいわれ、下層社会の底辺を象徴する場所でした。社会保険とはまったく無縁の、その日暮らしの生活です。」(p.227)とか、ドヤって聞いたことあったけど、宿を反対から読んだものなんだ、って初めて知った。そして2012年から「寄せ場の系譜を断ち切る動きが出てきた」(同)が…、という話も、一般人としては全然知らない裏で、こんなことがあったんだ、という感じだった。
上で挙げたのは1つで、他にも知らないことがたくさんあり、新しい視点から身近なこと、あるいは世の中全体を見る、というのが面白かった。(24/11/02)