日本の国の政策を決める場である国会で、政策議論が行われず、官邸主導で、官邸が「政策会議」を用いながら、独断に近い形で政策を決めていく。特に、これは与党と首相が強い時に起きやすい構造になっている。第2次安倍政権の時が典型的であり、「自民一強」「安倍一強」とも言われる中で、例えば、安保法制等が多くの反対を押し切り、国会での審議も十分に行われないままに決まっていった。
本書は、ひとつには、現在の政策や予算決定の構造が実際にどのようになっているのかを、具体的に分析すると同時に、どうして、現在のような構造になったのかの歴史を振り返っている。
理解が間違っている部分は大いにあると思うが、私の現時点の理解は以下の通り。
■55年体制と呼ばれる、高度成長期の自民党政権下での政策決定は、縦割りの省庁に全体の予算を配分する形で行われていた。政策の立案は官僚が行い、省庁ごとの自民党内の「族議員」と結びつき、政策・予算を決定していく。全体の配分は大蔵省が調整するが、日本の経済が高成長を続け、毎年の税収が大きく伸びる中で、このやり方で、各省庁・各族議員が満足するような予算配分、ひいては政策決定が行われていた。この体制で強いのは、官邸や内閣ではなく、どちらかと言えば、自民「党」であり、政策・法案等は、国会審議の前に、自民党の了承を得る必要があったが、逆に、自民党の了承を得れば、あとは、国会の審議で、野党と貸し借り・調整を行いながら、原案に近い形で決まっていった。大きくは、官僚と、党が強い権限を持っていた時代である。
■この時期は、選挙は中選挙区制で行われており、各選挙区で複数の当選者が発生する構造となっていた。その選挙区に、自民党議員が複数立候補し、自民党候補者同士で議席を争っていたのである。各候補の後ろ盾は、「派閥」が勤めていた。中選挙区の選挙を戦うには、莫大な費用が必要であり、その資金を派閥が提供していたのである。このやり方は、「金がかかり過ぎる」「派閥の力が強くなり過ぎる」という問題点が浮き彫りになり、「小選挙区制」や「政党助成金制度」導入の機運が生まれた。また、省庁・官僚が強い構造は、省庁間の壁が強く、省益を超えた「国益」がないがしろにされる傾向もあり、政策は「政治主導」で決められていくべき、との機運も生まれた。
■このように、小選挙区制導入・政党助成金制度導入・官邸主導政治指向を目指して、各種の改革が行われたのが、細川政権、橋本政権であり、実際に「強い官邸」が登場したのが、小泉政権であった。この動きを加速しようとしたのが、政権交代後の民主党政権であったが、リーダーの資質(鳩山・菅)の問題や経験不足を露呈し、民主党が目指した「政治主導」政治は、機能しなかった。
■その流れを受け継いだのが、第2次安倍政権であった。本書によれば、上記の流れに加えて「官邸主導と政策会議システム」「与党事前審査の骨抜き」「官邸による官僚人事コントロール(内閣人事局)」等が取り入れられ、安倍元首相個人の支持率の高さと相まって、「一強体制」が築かれていった。
私は、本書を修士論文作成のための「資料」の一つとして読んだ。私の関心は、「労働・雇用政策」であるが、それが、どのように決まっているのか、政策決定プロセスがどうなっているのかを知るために読んだ書籍の中の一冊である。プロセスの中で、首相が後ろ盾となっている「重要政策会議」で取り上げられると、法制化や予算化に近づくという、大まかな構造があるということを学んだ。
私の論文作成のためには、有益な書籍であった。