経済産業省が指定した日本の産業にとって重要な31種類の元素、レアメタル。
これの一角を占めるレアアース(定義によっては合計で17元素、もしくは15元素あるが、上記経産省のレアメタルの定義ではまとめて1元素として扱われている)。
軽レアアース(金属をそのまま使うケースが多い)と重レアアース(そのままではなく添加剤として使われるケースが多い)に2分されるこのレアアースは、ハイテク機器を小型・高効率化するのに欠かせず
(本書によれば、レアアースの特殊な電子配列により、ハイテク機器の原料としてレアアースを使用した場合と同レベルの小型化、高効率化を代替技術で達成するのは極めて困難との事)、また中国がその国際市場を支配している事により、2010年7月、レアアースショックが引き起こされた事は記憶に新しいかと思います。
本書は、現在中国が支配しているレアアース市場に日本がレアアース資源大国として参入する様に主張している本であり、その主張の根拠となる太平洋沖海底下で発見されたレアアース泥について、この資源についてネイチャー・ジオサイエンスに研究成果を発表した研究者自身が自ら解説している解説本です。
著者の研究結果に対して、「太平洋沖海底下にはレアアースが存在していることは以前から分かっており、これらの海底資源を経済的に採掘する事は難しい」との主張もあります。
しかし、著者はこれらの懸念に対して、今回の研究で発見された海底資源(レアアース泥)と既存の陸上鉱山との環境面を含めたメリットデメリット比較(例:陸上鉱山ではトリウムなど放射性物質の廃棄問題が発生するが、海水にはトリウムは溶けにくいのでレアアース泥ではこの様な問題は起こらない)やその経済性を推計しており、充分実用可能であると結論づけています。
この外、中国にハイテク文明の生命線となる資源を牛耳られる危険への備えとしての必要性の他、今後世界的な需要の高まりが予測できるのでレアアースの資源価格が急騰する可能性があり、そうなれば莫大な利益が確保できるとも指摘してます。
加えて、日本のEEZの範囲内にある南鳥島沖海底下のレアアース泥の採掘計画の素案も提案しており、それによると既存のどの陸上鉱山よりも高効率にレアアースを採取できる他、採取した後に出てくる泥を使って埋め立て工事を行い、南鳥島の権益確保・拡大をはかるべきとも主張していました。
また、上記の様な研究内容やその利用方法の解説・主張のみならず、研究室あげてアメリカへ行ったときに食べたファットバーガー(でぶバーガー:そのままなネーミングですね)がとてもうまかったと言ったエピソードや研究資金確保の苦労。
研究者人生、研究発表後の大騒動や日本メディアへの不満。
更には著者お気に入りの女子アナまで書かれており、資源安保の観点からの著者の熱心な主張も含めて、淡々と研究内容を解説した解説本とは違った趣きを持っています。
その為か、スピード感あふれる文体となっており、(読者が地球科学の素養でも持っていない限り)読んでいてうっかり気を抜くとおいていかれる印象すらもして来る程です。
(経済的に採掘できる)レアアースの希少性。
中国起因のレアアースショック。
そして、従来とは違って経済的な採掘が可能な(少なくともその可能性がある)海底レアアース資源の発見。
これら今後の世界情勢にも大きく影響を与えそうな研究成果に興味をお感じになられれば一読をおすすめします。