葉山嘉樹の作品一覧
「葉山嘉樹」の「工場の窓より」「井戸の底に埃の溜つた話」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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小説・文芸
Posted by ブクログ
「セメント樽の中の手紙」はとても短い短編です。建設現場の過酷な環境で働く松戸与三がセメント樽を開けた時に樽の中から手紙を見つける。それは女工からの手紙で、セメント工場で働く恋人が仕事中に砕石機に巻き込まれてセメントにされてしまったという事故とそのセメントがどんな建築物に使われたのかを知りたい、どうか返事をくださいと書かれていた。与三はやり場のない怒りと絶望に自棄を起こして怒鳴るが、妻の言葉に現実に引き戻されて無力に打ちひしがれる。
恋人たちへの同情と過酷な環境への怒り。そんな事故に遭っても遺体は回収すらされず商品として出荷されてしまう不条理さ。彼はどんな建築物になったのか、せめてそれを知らなければ私の弔いは終わらないという女工の気持ちが手に取るようにわかる。しかしその怒りも自分にはどうすることもできず、何か行動する暇があったら7人目の赤ん坊が生まれる自分の家族のために働かなければいけない。自分だってセメントになった彼と同じような事故にいつ遭うかもしれない。他人のことを心配している場合ではないのだ。嫌なら逃げればいい、辞めればいい、という簡単な話ではない。彼らに逃げ道はなかった。「蟹工船」のように全てが敵の中で立ち上がるしかないのである。今がこういう時代だから結果論として明るい未来を描いてしまうが、当時の彼らに光は見えていない。そこが恐ろしいのだ。
もうひとつ「淫売婦」という強烈な話がある。船乗りの「私」が港町で酔っ払い歩いていると男に声をかけられる。男に50銭渡して連れて行かれた汚い倉庫の2階の部屋で横たわる女性と会う。彼女は嘔吐物と血にまみれ悪臭を放つ明らかな病人で、腐った畳の上で全裸になっていた。病人に売春させているのかと「私」はいきりたつが、彼女は裸体を見せるだけで手を出す奴がいたら男たちが放り出してしまうこと、この金で薬を買って彼女は男たちに養ってもらっているのだと知り、「私」は涙を流す。
止まない雨はない、とか明けない夜はないなどというけれど、実際には抜けられない闇がある。少なくとも自分が生きている間に朝は来ないという現実もある。
現代に比べると半奴隷的な地獄という言い方もできるかもしれないが、では本当の奴隷だった人たちはもっと地獄だったのだろうか、とも考えてしまう。自由主義が育てば育つほど自由のハードルが高くなっていくというジレンマも感じますよね。
Posted by ブクログ
小林多喜二と並ぶプロレタリアート文学の旗手、ということで読んでみた。
小林多喜二よりも、モダンな感じがする。
同じ福岡県出身ということもあって、夢野久作っぽいところもあるが、気のせいかもしれない(夢野は福岡市、葉山は京都郡)。
短篇が8編収められているが、最後の「氷雨」が秀逸。
小林にしても葉山にしても、共産主義革命家として国家の弾圧化での芸術活動は冗談事ではなく、小林多喜二は警察に拷問で殺されるし、葉山は拘留中に二人の子供が餓死している。
「氷雨」は共産主義から「転向」後の作品と言われているが、窮迫状態の中で書かれたこの哀切きわまりない心境の作品を「転向」と結びつけて語ってしまうところに、日本の(日本だけではないかもしれないが)共産主義運動の芸術観の貧しさ、ということはつまり人間把握の貧しさがあって、そうした痩せ細った思想の極限状態での暴走が、閉じた世界の中の異物排除の論理―内ゲバの世界―を産んでしまうのだろうと思う。