著者の川鍋一朗氏は、6000人の社員をかかえるタクシー会社の日本交通の3代目社長です。
日本交通は、著者の祖父が作った会社なので、この方は、創業家出身の社長なわけですが、
2代目(つまり著者の父親)の時代に作った1900億円もの負債を完済し、会社を立て直した実績のある方です。
その3代目、生まれ育
...続きを読むった港区と会社のある品川区以外は道を知らないと言う地理音痴。
その彼が、規制緩和で5万8千台ものタクシーがひしめく、東京で1ヶ月間、一タクシー運転手として働いたときの経験を日記形式で綴ったのがこの本です。
著者は自社のタクシーにGPSやカーナビなどを搭載し、IT化を進めているのですが、まずその使い方に戸惑うと言う状態からタクシー運転手の仕事を始めます。
本の形は、基本は日記形式なので、読みやすく、また、その日の売り上げ、走行距離、お客さんをのせた回数などが、その日ごとに書かれています。
自社のタクシー運転手が、どのAMラジオ番組が良いなどと話していても、ラジオを普段聴く習慣のない、著者。いまいちピンとこなかったのが、実際に一運転手として仕事をしてみると、その楽しさが良くわかると実感。などなど、様々な気づきを与えてくれたとか。
また、社内では、社長が自ら運転手になることに対して、心配や単なるパフォーマンスだと言う批判の声なども包み隠さず書かれており、「まじめで誠実な人間なのかな、川鍋さんは」と思いました。
著者が1ヶ月タクシー業務に取り組んだ理由は、現場を知り、後30年は会社を存続させるために、どうしても必要な経験だと思ったからだとか。
また、会社を立て直すときに、祖父の代からすんでいた住み慣れた自宅や、ゴルフ会員権など売れるものは、何でも売ったのですが、その時の母親とのやり取り、自分が会社の再建に取り組むより、投資会社に任せたほうが良いのではないかとの悩み。
しかし、母親の生い立ちを考えると、その彼女から「日本交通の奥様」と言う社会的立場を失わせるのは忍びない、だから母を守るのが俺の正義だと心に決め、会社再建に取り組んだと書かれていました。
2代目、3代目などと、創業家の同族経営は、それだけで批判を浴びやすい、このご時世。
2代目で傾いた会社を建て直し、生き残るために黒タクなど新サービスの導入をはじめとする様々な改革を行っている著者を見ると、同族であろうが、そうでなかろうが、結局、その人自身の人間としての誠実さ、堅実さ、真面目さなどの人格が一番大切なのだなと感じました。
一読の価値ありです。