今日の書評は「アメリカの世紀は終わらない」ジョセフ・S・ナイ先生の本です。
でどういう本かというと、端的に言ってアメリカの覇権(ヘゲモニー)はこのままずっと続くということです。
それはこのような反省に立っています。70年代にはソ連のパワーを80年代には日本のパワーを過大評価していたが、見事外れた
...続きを読む。これは中国にも言えるのではないか?と言うことだ。
なぜなら、中国にはソフトパワーが欠けているというのである。即ちパワーは強制と報酬というハードパワーの他に、その国の魅力というソフトパワーがあるという。
例えば、世界的な「ブランド」の上位25位のうち19までをグーグル、アップル、マイクロソフト、IBM等アメリカ勢が占めるというからだ。したがって中国の貿易はアメリカ及びドイツより多いが、洗練されている度合いは低いということである。
またイノベーションも自前では起こせず、他国の技術の模倣する戦略に多くを依存している、というのだ。
ソフトパワーについても、中国にはハリウッドやボリウッド(インドの映画産業ね)と競争できる文化産業がなく、世界ランキングのトップクラスに入る大学もない、アメリカでは非政府組織がソフトパワーの大半を生み出すが、中国にはそのような存在はない。確かに伝統文化は魅力的で孔子学院はあるが、まだまだだとのことだ。
他にも間違った政策があるという。20世紀にはじまった「一人っ子政策」で「豊かになる前に老いていく」というのだ。
情報面の統制もマイナスであると筆者は説く。中国には6億人の世界最多のネット人口がいるが、政府により厳密な管理がされているというのだ。そこでは激しい国家主義のものが多く、少数なリベラルな意見は排除され、反対派は罰せられる。この統制が発展を妨げるというジレンマに政府は陥っている。
軍事力でもアメリカに劣る。世界全体の軍事支出に占める比率は中国が11パーセントで、アメリカの39パーセントよりもかなり低い。しかし中国の増加率がこのまま続けば、今世紀半ばには両者はほぼ同等になる。それでも配備済みの軍備の近代的な規模で見れば、アメリカは中国に10対1の比率で優位であるという。つまり軍事的に中国はアメリカに太刀打ちできないのだ。
しかしながら、アメリカは中国と険悪な関係を継続しようとするのではない。第一に、反中国の同盟を形成することは不可能だというのだ。アジア諸国はアメリカと中国の両方との良い関係を欲している、1990年代のクリントン政権で中国と敵対的な関係を求めないことを志向した。
例えば、中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、歓迎された。また中国の脅威を防ぐため日米は安全保障条約を再強化した。
中国とアメリカの差は双方の国家が結んだ、同盟国の数だという。アメリカは60か国ほどあり、中国は殆どない。(評者注:この本が書かれたのはアジアインフラ投資銀行の設立前)世界の国を線引きしたならば、150か国のうち約100か国がアメリカに近く21か国のみ、アメリカに反発しているのだという。
ドイツは第一次世界大戦が始まるまでにイギリスのすぐ後に迫った(工業力では抜き去っていた)だが、米中の場合これとは違ってグローバルな比較で軍事、経済、そしてソフトパワーで数十年先行している。
いいかえれば、イギリスと違ってアメリカは首尾よく対処するための時間がもっとあるということだ。米中に関しては正しい選択をすれば、軍事衝突は起きないと思える。世界を舞台にした中国の台頭はまだ先の長いプロセスであり、アメリカの世紀は終焉していないと見て取れる。
このほか、著者はロシア、ブラジル、インド、日本等にも言及しているのだが、ハードパワー・ソフトパワーともアメリカに肩を並べられない、と見て「アメリカの世紀」は今後も長く続くと結論付けている。
私の感想としては、著者はアメリカの内政状態を矮小化しているのではないかとも思うが、現実米国は様々な困難を乗り越えてきた。例えば、格差が激しくなるとサンダーズ氏のような人物が、オバマ大統領の実行力の無さが表面化して来たら、直言的なトランプ氏などが大統領候補として出てくる。きちんと、ビルト・イン・スタビライザー的な自浄作用がアメリカにはあると思う。したがって私はナイ氏と同じく「アメリカの世紀」はしばらくは、かなり長い期間終わらないと思う。