著者の岡部哲郎医師は、東大病院で長年がん細胞の研究に携わった後、中国伝統医学を研鑽、現在は個人の漢方内科を開院する医師である。
西洋医学と中国伝統医学を学んだ著者は、「西洋医学とまったく別の発想を持つ医学には、別の治療法が存在する・・・少なくとも「根治治療」という点では、中国伝統医学は西洋医学より優れていると私は確信を持って言える。・・・現在、医療といえば西洋医学しかないと思っている人がほとんどかも知れないが、そうでないことを知ってほしい」という思いから、本書を書いたという。
著者は、現代(西洋)医学の問題や欠陥、中国伝統医学との違いを以下のように述べる。
◆大学で教授になるためには基礎医学の研究実績を上げることが条件だが、そのような医師は臨床経験がなく、患者の診療は不得手である。多くの専門医は、薬の処方で最も大事な副作用の勉強をしていない。製薬会社と癒着している専門医も少なくない。
◆健康診断は病気予防の効果はあるが、異常かどうかを判断する基準値の設定次第で、健康な人間が簡単に病気予備軍とされる危険性がある。現在行われている高血圧や高コレステロールの判断はその典型。ワクチンなども十分な副反応(副作用)の検証が行われずに認可・発売されている。
◆西洋医学では医学理論知のみが医学であり、治療などの経験知は医学ではない。
◆西洋医学の病態診断は、血液や尿の中の物質量の過不足を基準にして行う、物質化学をベースにした診断。一方、中国伝統医学の病態診断は、エネルギーや熱、水分の状態変化といった(相移転)物理現象に対する診断。
◆西洋医学は対症療法、中国伝統医学は根治療法。
◆西洋医学は帰納的医学。中国伝統医学は演繹的医学で、ほぼ全ての病態に関しての分類や鑑別診断の方法が完成しており、診断を正確に行えれば、それに対応する治療薬が必ず決まってくる。中国の人々は、西洋医学の病院で病態診断を行い、治療は中国伝統医学で行う。
◆西洋医学は病気の症状を抑える化学物質による治療。中国伝統医学は職を基本とした五臓六腑を養って心身を健康にする医学であり、故に難病を含めた様々な病気に有効である。
◆「五臓」(肝・心・脾・肺・腎)は、西洋医学では解剖学的な臓器を指し、中国伝統医学ではそれぞれを機能を持つユニット、システムと考える。
そして、中国伝統医学の、疾患は「正気の虚(減少)」、即ち人間の活動のためのエネルギー不足状態により生じる、などの考え方や、中国伝統医学の治療法、また、それによって様々な難病が治った事例などを詳しく述べている。
現代西洋医療の問題点については、近藤誠医師らの多数の著書により幅広く認知されつつあるが、それを代替する手段としての中国伝統医学の可能性(著者の多少の思い入れはあるとしても)を知る上で意義ある一冊と思う。
(2015年6月了)