≪2020年11月号≫月刊 書店員すず木

≪2020年11月号≫月刊 書店員すず木
この道10年のプロ書店員・すず木です!
前月に配信された新作マンガで実際に読んで面白かったものの中から<少年・青年マンガ><少女・女性マンガ>それぞれ1作品を勝手に「今月の書店員すず木賞」としてご紹介!

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今月の書店員すず木賞

少年・青年マンガ

      • 聴けない夜は亡い 1巻

        聴けない夜は亡い 1巻

        深夜0時。通夜と告別式の合間、街の明かりが消える時間。大切な人を喪った依頼者の話を聞く青年・槙柊夜。朝起きると夜の記憶を忘れてしまう彼は、“聴き屋”として通夜の間に話を聞き、告別式の朝までに依頼を遂行する。今日もまた“想い”を抱えた依頼者が彼の元を訪れる。“死”を聴いて生きていく青年と残された...

        彼は、夜に眠れない代わりに人の話を聴く。
        死を聴いて生きているのです。


        葬儀屋の「通夜オプション」としてお通夜の間に話を聴く「聴き屋」として働く「夜」こと槙柊夜。
        彼は目覚めると夜の記憶を忘れてしまうのです。
        葬儀屋の物語と言えば、「2020年6月号」でご紹介した死者の声を聴く『ようこそ亡霊葬儀屋さん』がありますが、
        こちらは霊ではなく残された生者の声を聴き、その人の気持ちの整理をするキッカケを作ってくれます

        『覆面系ノイズ』や『悩殺ジャンキー』の福山リョウコ先生が少女マンガ誌から飛び出し、ヤングアニマルZEROで連載をしている今作。
        ご本人曰く「生まれて初めて、進むために描いた漫画」ということですが、物語に出てくるどの依頼者も死者との間にあった後悔や未練を自分が先に進むために昇華しており、読んでいる側も前向きになることができます。

        死んだ父と残された娘の思い、
        友人の突然の死に言えなかった思いを抱く青年など。
        どの物語も、切ないながらも前向きになれます。

        依頼者ごとにオムニバス形式で物語が進んでいきますが、1巻の後半から柊夜が何故「夜」として「聴き屋」を営むことになったかが描かれます。
        キッカケは、葬儀がない日に依頼をしてくる「常連」神さんとの夜でした。
        神さんは「きみが全部忘れてくれるから話しやすい」と言います。
        確かに見知った人には言えなくても、赤の他人、しかも朝には忘れてしまう人が相手なら話しやすいでしょう。
        自分ひとりで抱えられない思いを、吐き出せたのならどれだけ楽になるか。
        きっと神さんも初回はそれで救われたのかもしれません。
        しかし、彼はリピーター。自分の話を聴いてもらうのではなく「きみの話を聴かせてくれ」と頼むのです。
        そして最後にこう言うのです。
        「自分より凄惨な別れを聴くと救われるから」

        全体的に摩訶不思議でほろりと泣ける心温まる物語かと思いきや、自分の隠している確信をついてくるこのセリフにハっとしました。
        残酷な一言ですが、世の中には自分より不幸な話を聴く事で自分はまだマシだ。と思うことはあります。
        とてもエゴイスティックなことですが、それで救われる人がいるのも事実です。

        柊夜に一体何が起きたのか。
        彼が夜を思い出せる日は来るのか!?
        不定期連載なのでスローペースでの刊行になるとのことですが、楽しみに次巻を待ちます!!

少女・女性マンガ

      • 私の夫は冷凍庫に眠っている 1

        私の夫は冷凍庫に眠っている 1

        完結

        殺したはずの夫が帰ってきた…? 結婚以来、夫・亮からの暴力に耐え続けてきた夏奈。 ある夏の日、彼女は亮の殺害を決意し、実行する。 亮の死体を物置の冷凍庫に隠し、あとは自由な人生が 待っているーーそう、信じていた。   翌朝、何事もなかったかのように帰宅したのは、 殺したはずの亮だ...

        タイトルから不穏な感じがしていたのですが、
        物語は予想以上に不穏でした。


        物語は、夏奈が自宅で夫・亮を殺してしまったところから始まります。
        生前の亮は、機嫌が悪い日にささいなことで暴力をふるったり、夏奈に対して人の心を持っていないかのような言葉を投げかけたりしてくる、悪魔のような人間でした。
        それに耐えきれなくなった夏奈は、夏祭りの夜に亮を電気コードで絞殺してしまったのです。

        殺人を犯してしまったのに妙に冷静な夏奈。
        前日冷蔵庫に入れ忘れて腐らせてしまった唐揚げと亮の死体とを同列に考えていたり、なんとも奇妙な感じです。

        他にも、倉庫にアイスクリームの業務用冷凍庫があることを思い出した彼女は、死体を運ぶのですがその時に放った
        「魂が抜けた分軽くなるなんてことはないのね…」
        という一言に、冷静でユーモラスすら感じさせる彼女にうすら寒さを感じました。

        おそらく、亮のDVから解放されたという喜び故なのかもしれません。
        彼女の
        「憎しみが愛に勝ったのだ。
        最後に愛は勝たないのだ。
        勝つのは憎しみなのだ。」
        というセリフは、ずっと耐えに耐えて限界を超えてしまった思いが詰まったセリフだと思います。

        しかし、そんな夏奈の解放感は1日で崩れ去ります。
        翌日朝食を作っているところに殺した夫が帰ってきたのです。

        混乱する夏奈。
        読んでいるこちらも大混乱です。

        「殺したつもりだけれども死んでいなかった?
        間違って赤の他人を殺してしまった?」
        色々な疑いが夏奈の頭の中を駆け巡りますが、間違いなく亮を殺したハズ。
        では目の前にいるのはなりすましの別人?と疑いますが、二人しか知らないような質問にも間違いなく答えてきます。
        更には、照れた時の癖も同じ。

        夏奈は冷凍庫を確認しに行きますが、そこにはちゃんと亮の死体が…。
        一体どういうことなのか!?
        訳がわかないまま、夏奈は覚悟するのです。
        「もう一度殺すしかない。」
        しかし殺すチャンスを伺っている内に、思う存分復讐したいという思いに駆られます。
        そこで思いついた方法は、生き返った亮に殺した亮を食べさせるという、おぞましいものでした…。

        ゾクっとする展開ですが、直接的な恐怖ではなく
        全体を通してうすら寒い、不穏な感じがべったりとへばりついている感じがします。

        人気小説サイト「エブリスタ」で話題となったラブ・サスペンスを、高良百先生がコミカライズした今作。
        高良百先生が描く夏奈の「目の表現」がとても印象的です。
        絶望と憂いと覚悟を含んだ夏奈の伏し目がちの表情は、背筋に冷たいものが走りました。

        一体何が起きているのか!?
        果たして生き返った亮は何者なのか、
        夏奈の復讐はどうなるのか!?

        是非読んでみてください。

こちらもオススメ!!

惜しくも今月の書店員すず木賞からは漏れたものの、オススメの作品をご紹介!!

書店員すず木

2005年より電子書籍サイトの仕事に携わる、この道10年以上のプロ書店員。
年間に読むマンガの冊数は2000冊以上。
「面白いマンガを多くの人に読んで欲しい」をモットーに、オススメのマンガをご紹介します。

最近の書店員すず木:今月は人気作家さんの新作が多かったですね!選ぶのにとても迷いました。毎月こんなに面白い作品が生み出されていることに感謝しかない…。話は変わりますが、アニメ『呪術廻戦』のEDのダンスを練習しています。難しいです…。

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