ロンサム・カウボーイの検索結果
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嘘はほんのり赤い
真っ赤な、までは行かない嘘とは、どのようなものか? この小説のタイトルを確認してから読み始めれば、 その「嘘」というのはおそらくこのことだろう、 という察しは、たいていの読者にはつくのではないか。 だからその「嘘」はそれほど巧妙に仕組まれたものではない。 そのことよりも、男が2人、女が1人というその力関係と 女性が持つ魅力のための軽い装置として「嘘」はあると考えていい。 3人がライダーであるならば、いささか大掛かりな「嘘」の仕掛けも 「真っ赤な嘘」までは行かない、ほんのりと赤く染まる程度なのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
彼のオートバイ、彼女の島
夏と、島と、オートバイ。 退屈を知らない日々のためには、 まずその3つが必要だ。 一度目は高原の道で。二度目は共同浴場で。 偶然の出会いが2度あった「彼女」は、 もう無関係な他人ではない。 仕事や悩みが毎日の多くの時間を占めてしまったとしても ひとたびオートバイに乗り、歓びを分かち合う人が隣にいて 風が、道が、光が、山々が、自分と一体になってしまえば もはやそこに退屈の入り込む隙間はない。 夏という時間、島の時間を生きる彼ら彼女らは 限りなく自由だ。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
愛し愛され
同じ過去を歩んだ2人は、実はもう同じ現在にはいない 互いに好きで、結婚したい意志もありながら、それが実現しない。 そういうことは、人の一生においてはありうるだろう。 しかしそれが過去の痛恨事であったばかりでなく 現在にまで影響を及ぼしていること、そして いっぽうは過去を洗い流し、もういっぽうが今も過去の輝きを生きているとしたら これは紛れもない現在の悲劇になる。 性を飛び越えるようなことがあれば、なおさらだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
愛してるなんてとても言えない
愛してるなんて とても言えない と、言うとき、彼女が語っていること。 彼女と彼の出会い。またしてもそれは路上だ。 片岡義男の黄金のパターンがここでも踏襲される。 トラブルの渦中にある彼女を拾い、とっさに オートバイに乗せて走る。逃げる。 逃げたら、ひとまず一緒に住む。 しかしそれで平穏に済むはずはなく、彼女の後ろ側にある ダークサイドとの接触は避けられない。 だから、対峙する。そして再び、逃げる。 ただ、行為があるのみ。 彼女の涙も、アクションである。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
アイランド・スタイル
アイランドとは、どのような場所か? 不気味な重低音の意味が、明らかになるその時。 小説の前半部は、夜の海だ。 星空と月明かりがあり、その絶妙の光の中で 「僕」は海と、この島と、サーフボードが完璧に調和した幸福に身を委ねる。 しかし、突然、かつて聞いたことのない重低音を海の底から聞くことになる。 それはいったい何の「前兆」か? 開発の手が伸び、変わりゆく島に、やがて すべてを押し流す決定的な出来事が訪れる。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
あおむけに大の字
無防備を撮り、それを交換する関係とは何だろう? 短編というよりは掌編。 そしてちょっと不思議な一編である。 登場人物は女性2人だけ。 酔った1人をもう1人が介抱し、その後、時を経て一緒に京都に旅行をする。 仲が良いのは間違いないのだが、そこにポラロイドカメラという装置が介在することで様々な推測が働きそうだ。 しかも互いに写真を交換したりする。 彼女と彼女の関係。これはいったいなにか。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
秋時雨
秋時雨の中を走って、4人の男女の組み合わせが順番にめぐってくる 吹き付けるような秋時雨の中を 2台のクルマが走っていく。夜もかなり深い時間だ。 2台には男女が2組ずつ。合計4人。 互いに恋人同士と呼んで差し支えない関係で それは女と女においても変わりはない。 やがてホテルにチェックイン。部屋は2つ。今度はクルマでなく部屋だ。 さて、組み合わせはどうなる? 4人いれば組み合わせの数は自ずと決まっている。 が、しかし。実は実現していない組み合わせもあるのだが・・・ 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
朝になったら、タッチミー
夜を徹して走るハーレー スーパーグライド。 彼女はなぜ、そうまでして走り続けるのか? 起点は港のフェリー・ターミナル。 そこでハーレー スーパーグライドに乗る美女を目撃した4人の男たちは 戯れに愛車で彼女の追跡を試みる。 彼らの曖昧な予想に反し、彼女は何度も給油を繰り返しては いっこうに目的地に着く様子もなく、完全に夜に入った。 仲間たちが帰っても追跡を止めない敏幸は、何物かにとりつかれはじめる。 真の闇の中、先を行く彼女の赤いテールランプだけが見えている。 なぜ彼女は走り続け、彼はなぜ追っているのか。 やがて、読者を置き去りにする衝撃のラストがやってくる。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
明日が来るわけない
起きてしまった愚かさ。 行くことも戻ることもできず、ただ顔に陽が射すだけ。 2つの不良グループがある。 抗争が起き、犠牲者が出る。 やられたら、やりかえす。必然的にそれは エスカレートしていき、ある時ついに一線を超える。 留まってはいられない、だから 走る、走る。 しかし、走っても行く所は無いのだ。 それが起きてしまったらもう 明日が来るわけない。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
あなたは男で私が女
あなたは男で私が女、あの人が女で、女がもう1人 このタイトルから類推されるのは例えば女と男のラブストーリーだろう。 その予測は間違いではない。が、本流でもない。 高原のテニスコート、という巧みな装置を得て、物語は動いていく。 コートでのゲームは対称をなす混合ダブルスではなくそこに男は1人しかいない。 すると、どうなるのか。 男は女にはなれない、という事実がそこに、差し出されるのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
アマンダはここに生きている
「ただのラブ・ソング」と 「アナザー・ラブ・ソング」。 月明かりのハイウェイを、巡業用バスが走っている。 運転しているのはアマンダ。女性として、妻として、母として完璧であり、 カントリー・ミュージシャンの夫は、あらためて惚れ直している。 結果、20年前のヒットに並ぶ傑作「アナザー・ラブ・ソング」が生まれた。 だがしかし、巡業やカントリーを取り巻く様々な人々がすべて幸福なわけではない。 だからこそ、アマンダの充実した人生は輝いている。 私立探偵アーロン・マッケルウェイ・シリーズの中では 事件らしい事件の起こらない地味な一編ながら、読後に深い余韻を残す作品である。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。76年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
雨に唄えば
カメラとビー玉 何も起こらない小説、と言ってみたくなる。 それはもちろん嘘で、ここには女と男が登場し、 女は仕事をこなし、男は女を送りおどける役目を果たしている。 それは非合法に抵触しているものの、そのことによる翳りも屈託も、そして危機もない。 すべては淡々と過ぎて行き、彼女と彼はどちらかといえば陽気である。 世間にはカメラやビー玉で妙な遊びをする男もいるが、それも驚くようなことではまったくない。 むしろ関心は雨が降るか降らないか、そちらのほうだ。 降りだした雨には、演歌がよく似合う。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
雨の伝説
レインメーカー・アイランドの奇跡に 立ち会う幸福。 雨の日のほうが多く、 通称“レインメーカー・アイランド”と呼ばれるポリネシアの島。 広い場所が好きで、ただ旅をする目的だけで来た青年・西本は 偶然、その島で皆既日食が見られるかもしれないことを聞く。 島に渡った彼以外の観光客は、ほとんどがそれ目当てなのだ。 しかし、あまりにも雨が多いため、 見られる確率は3%もないだろうとメディアは告げる。 にもかかわらず、「雨の伝説」に支えられて奇跡は起きた。 島と、雨と、日食と、当地に生きるシンプルで強い人々の 濃密な描写の数々が堪能できる美しい一編。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。76年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
雨の降る駐車場にて
立ち止まる時間がほとんどないような彼女が、ふと立ち止まるその時に 作家がそのような語彙を用いているわけではまったくないが、 これは近年の言葉で言えば「シングルマザー」の物語だ。 彼女には4歳になる息子がいて、翻訳の仕事をしている。 幼稚園に連れて行くこと、料理を作ること、絵本を読み聞かせること、 それら子供のために割く時間のほかにも 姉や姉の子、姉の夫、仕事相手との関係があり、 用事があったりなかったり、誘惑の電話も頻繁にかかってくる。 それらの細かい時間がいくつもいくつもミルフィーユのように重なって この魅力的な女性のポルトレは描かれる。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
荒馬に逢いたい
シャッター押さなかったことによって 定着された1枚の絵。 そこにこめられた荒馬の歴史をカウボーイが語る。 ごく短い酒場のシーンを前後にして 真ん中に荒野の情景が挟まっている。 荒馬の絵と、絵を語る作者の老人。 そして、その絵の起点になった荒野と荒馬を 寝袋の中に身を置いた極度の緊張感の中で体験した時間が挿入される。 北米大陸の自然と、そこに現れた人間の初期の係わり、 その名残りを描く初期作品群『ロンサム・カウボーイ』のモチーフが 馬という野生とともに鮮やかに浮かび上がった一編。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
アリゾナ・ハイウェイ
移動する時間の長さが違えば、 別れと、別れの後の出発の仕方も違うはずだ。 ある者はロディオ・ライダー。かつて栄光に輝いた彼も 今年は惨敗、負傷し、おまけに妻は1人になりたがっている。 そのロディオ・ライダーを空港まで大きなオートバイで送り届けた 日本人青年も、西海岸から東海岸までの長い移動を 妻との別れ話にあてる、という試みの最中だ。 いっぽうで帰宅してみたら愛する妻と子は書き置きを残して 家を出てしまった、という歌を好んでいた長距離トラック・ドライヴァーは 自分も歌の内容と寸分たがわぬ人生を歩むことになる。 別れの痛みとともにある人々を慰撫するのは、 アリゾナのむき出しの荒野だけだ。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。76年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
ある日の真夜中
真夜中の続きは朝 このストーリーは、このあと、どうなるのだろう? それを考えるのが非常に楽しい作品だ。 用心深く注意をはりめぐらし、出来事が起こらないように行動することと およそ正反対の主人公が愛らしい。 迂闊にもほどがある、とも言えるし、無頼だとも言える。 その時その時で、彼はやりたいように振舞うのみだ。 真夜中が続けばやがて朝が来る。 どんな朝か、想像する自由は読者の手の中にある。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
and I Love Her
春から春へ。事件無き彼女の肖像。 1人の女性がいる。 この小説は、彼女の輪郭と所作だけを丁寧に追ったものだ。 彼女がどんな部屋に住み、どうやってコーヒーを飲み、クーペを運転し、どのように眠り、バルコニーにいる時の様子や風を受けた時の表情などが、積み重ねられていく。 彼女には雨と月の光がよく似合う。 小説とは、ドラマや事件、葛藤とその克服、といった起伏が必要だ、 という思い込みを、この作品はワイパーできれいに払拭する。 それも、長篇と読んで差し支えない長さを擁して。 1点、注意を。「あとがき」は絶対に先に読まないこと。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
イアリングをつけるとしたら
つけるときよりもはずすとき 編集者と書き手の情事。 ここでは編集者が男性であり、書き手はまだ書くことの経験が十分ではない。 小説とは、いかにして書かれるものなのか。 会話の中から、そして動作を伴う、あるモノからそれは生まれる。例えばイアリング。 男には得られない視点からイアリングを見て、そのことを構築できればすなわちそれが彼女の小説だ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
いい気分だ
波が高まって、やがて凪。いい気分だ 舞台はプール。 水をたたえた空間だが人工物であり、やや密閉感じもある空間。 主役は2人の女性。というより、身体と視線だ。 もしかすると互いを捕らえる正確さと貪欲さは異性間のそれをしのぐものかもしれない。 言葉は不要。過不足のないしなやかな動きがあればいい。 波のようになめらかに高まってやがて凪へ。 身体だけではないが身体にあくまで忠実な欲求を解放させて、今、いい気分だ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
一日じゅう空を見ていた
最高の贈りものは時間である 一日じゅう空を見ていることを可能にするもの、 それも最高の条件で見続けることを可能にするのはいかなる状況か、ということをこの小説は描いている。 どんな高価なプレゼントよりも記憶に残り、消費や購買とも無縁なその成り行き。 読者の皆さんもまた、出典を明らかにすることなく この短篇とそっくり同じ一日を過ごしてみるとよいかもしれません。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
一日の仕事が終わる
仕事とは彼女の長い一日のことだ 大人同士の関係ならば、互いに仕事を持ち、そのことを尊重し合う、というのが通常の状態だろう。 そして仕事が終われば、夫婦であれ、恋人同士であれ、仕事の時とは違うふるまいをするのもまた普通である。 しかし、そのスイッチがうまく行かない、いや、スイッチを換えたくない状態というものが時折やってくる。 そんな時は金曜日であれば京都に行ってしまう。 一人になること。そして思いがけないハプニングも含めて自分の状態にある種のケリをつけること。 こうして彼女の長い一日がようやく終わる。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
一生に一度かしら
あっけらかんと百万円 たいへんに魅力的な女性がいて、彼女と寝たい、それが実現するなら百万円払ってもいい、と男が口にする。 話だけなら冗談か下衆な話題として済んでしまうが実際にそれが実現され、女性もあっさりとそれを飲んでしまうともはや外野がどうのこうの言う問題ではない。 「一生に一度かしら」などと笑いながら、百万円を支払い得ない男たちの視線の先をグラビアの彼女が涼しくすべっていく。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
一等星の見える窓
ようやく一等星の見える時刻 今日こそは会いたい女性がいる。 いつもならしない残業もこなし、時間をつぶそうとするもなかなか電話は通じない。 持て余した時間のあいだに幾人もの女性が登場しては去っていく、そのよるべなさも片岡作品にはおなじみの展開だろう。 やや深い時間になって、ようやくキャッチ。 そこまで時間が経過したのだから、夜空の遅い初夏でも、彼女の体の向こう側に一等星が見える。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
いつか聴いた歌
2人の女性に託された歌 不幸な亡くなり方をした父親から唯一の財産として娘は歌を贈られた。 長じてカントリー歌手になった娘は父の曲に自ら詞をつけて歌うようになる。 ところがその歌を、どうやらもう1人、歌っている女性がいるらしい。 自分しか知らないはずの歌なのに。 このミステリーの前に現れるのが愛すべき21歳の私立探偵アーロン・マッケルウェイだ。 もう1人の女性はいったい誰なのか。 全篇、電話による会話だけで進んでいく哀切な物語。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
いまから一〇〇年あと
離婚暦、4年の歳月、初夏の東京。 2人のシャイネスは、言葉で防波堤を築く。 女が営む店の名前はウェンディ。 ビーチボーイズのナンバーから取られている。 いちばん大切な存在だったのに、 去ってしまったウェンディという女の子を歌った曲だ。 時々店に顔を出す男は、ここへ来て4年になる。離婚暦アリ。 彼女の誕生日に、男は、金がなくて贈り物ができない 若い男性が登場する映画の話をしたりする。 店を閉め、外を歩き、2人は今までにない段階に入る。 それを「幸せ」と呼ぶことをためらいながら、体と言葉を重ねていく。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。83年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
嘘はやめよう
聡明な彼女たちは明言してから静かに去っていく。 なんと挑発的な。あるいは、なんと不愉快な。 おそらく、そのように読むことは十分に自然なことだろう。 身勝手な、イヤな、おまけに嘘つきの、男である。 おまけに反省もしない。同じことを何度も繰り返している。 ただこの男には、嘘をつかないものが1つだけあって、 それは自分の気持ちに対して、である。気持ちを偽ったまま関係を続ける、 ということが彼にはできない。そこが素直と言えば素直だが 別れ方は最悪である。やはり彼女たちは 去り際に頭からコーヒーをぶっかけて行くべきなのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
噂のベビー・フェース
ベビー・フェースと、 呼びたければ呼ばせてやれ 倦怠とユーモア。 広告代理店に勤める中途半端な年齢の男たちは 生活に困らない金はあっても遊ぶ金はそうは行かない。 そこで、45歳の中年男を引っ張り込む。 トライアングルの中心にいるのは、鹿児島から出てきた21歳の女。 どこからどう見ても成熟した肉体だが、ベビー・フェースと呼ばれている。 3人のうち誰を好きでもない、嫌いでもない 倦怠とユーモアの数日を過ごし、時が来れば さっさと鹿児島に帰るだけ。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
エクストラ・ドライ
2人で飲み、次に1人で飲む。 エクストラ・ドライのジンは、かなりキツい。 それがこの、何も起こらないといえば起こらない、おだやかなはじまりの、派手ではないが祝福に満ちたごく短い短篇のタイトルに選ばれているのはなぜか。 男女のうち、視点は女性の側にある。 ヒントは、ラストの1人飲みのシーンにあるのかもしれない。 いや、それはほんとうになんでもない、なにものをも象徴しない、ただのエクストラ・ドライでありただの1人飲みかもしれないのだけれど。 さてあなたはどう読みますか? 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
エンド・マークから始まる
飛び出す女、残される男。 かつての同級生で年齢も同じ2人の女が、再会する。 飛び出してきた1人の女を、もう1人の女が迎える。 迎えた家には男もいて、しかしそれはさして問題にならない。 ところがしばし時間が経って、女はまた出て行く。 今度は違う方の女だ。迎えたほうの女が今度は出て行く。 トラブルが起きたわけでもないのに。 女と男の組み合わせが変わる? 感情はどうなる? しかし少なくともこれは三角関係とは違う。 古い何かが終わって、新しい何かが今から始まるのだ。 エンド・マークから出発だ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
男友だち
恋人でも、夫でもない。彼は、男友だち 片岡作品に登場する女性たちの多くは社会通念ではなく、自分自身の中にモラルを持つことで徹底している。 例えば結婚。結婚しないことを貫くこと、あるいは結婚することを選択したうえで他の男性と没交渉にならないことを選ぶのも彼女たちの流儀である。 それは制度や通念への反抗ではなく、自分で決めたい、ということにつきている。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
俺のハートがNOと言う
俺のハートがNOと言い、彼女の返事もNOと言う。 音大を中退し、才能はあるものの芽が出ず、宙ぶらりんな25歳のバンドマンが2人。 東京を離れ、束の間、東北の地方都市にドサ回り興行に出る。 短いなりに、いちおう、安い下宿を借りての生活だ。 そこへある日、ホステスの女が加わる。 女が1人に男が2人。起こるべくして事が起こり、思いがけない事態になり、男は逃げる、2人とも。 時を経て、再会。女はうらまず、すべてを決めていて、男たちは前に進めない。 いやしかし、何かが変わった、確実に。 その感触を男たちは、オートバイに乗りながら、確かめる。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
俺を起こして、さよならと言った
高原のホテル。 「さよなら」の言葉に、寄り添う2人。 クラブのホステスとサラリーマンの客。 ありふれた組み合わせだが、 それが片岡義男の短編の登場人物であるなら、 その後は同行二人になるはずだ。 しかし、ここにロマンスはない。 大人の優しさに満ちてはいても、それはロマンスではない。 ハードボイルドな響きを持つタイトルだが、 「さよなら」の発話者は、意外な人物だ。 それだけに男は深い傷を負う。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
オレンジ・ペコ、午前八時
ひとりの朝、はじまりの朝。 祝福には、オレンジ・ペコがにつかわしい。 ユミコ、という女性の名前はありふれているが、 漢字で表記すればいくつもの種類がある。 自分と同じ発音のユミコと、 ありがたくない場所で遭遇してしまった主人公・夕美子は、 自らの将来について、断固とした決意に踏み切る。 あとは自動車で、列車で、それを実行するだけだ。 それらをすっかり片付けたら、彼女には、 オレンジ・ペコの時間が待っている。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。78年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
女は気だてと人は言う
それは彼女の流儀 女は気だてと人は言う。 だったら私の気立ては最悪だと女は言う。 それは投げやりでも自嘲でも、すねているのでもなく、 そうとしか言いようがない、というサッパリした理解だ。 前の亭主と離婚しようとしている女の傍らに、男はいる。 彼が新しい男になることを、女は拒まない。 それどころか子供さえも。 しかし、女には認めないものがある。 それは何か。彼女の流儀が拒否する、それは何か。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
オートバイが走ってきた
ステーション・ワゴンではダメなのだ、やはりオートバイでなければ まるで別々の2つの作品を接合したかのように およそ途中までの展開からは想像もできないようなラストがやってくる。 女と男と女。3人のあいだには親密な関係がありつつ 微妙な温度差があり、従来のような関係を維持しにくくなっている。 3人の中の1人の女性は、借り物のステーション・ワゴンに乗っている時と 自ら乗ることに決めたオートバイと共にある時とではなにかが違う。 その「なにか」に向けて物語は過去へと遡行してゆき、 そして、まさか、とあっけにとられるラストシーンへと至る。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
オートバイに乗る人
人事は荒れても、秋はきょう、この日から始まる ひどい仕打ちであることは間違いないにしても、それをこんなふうにやってのけることにはやはり小説としての爽快感があると言うべきだろうか。 どちらからともなく仕掛け、あいまいに合意し、到達しようとしたところで男はさっと身を翻す。 オートバイに乗る男は身軽だ。 相手の中にある自信、傲慢を打ち砕くこと。 そのあとに乗るオートバイ、そこで感じる秋の最初の一日の快適さ。 本当にひどい男であっても、その快適さは真実だ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
鏡が必要です
私は鏡、鏡は彼女、彼女は私 不可思議な短編小説である。 登場人物は3人。女が2人で男が1人。 しかし女のうちの1人は、確かにそういう女性が存在すると会話の中で示されるだけで実物はシーンの中に現れない。 そしてその現れない彼女と今ここにいるもう1人はとてもよく似ていて、服も共有、部屋も共有、そしてどちらがどちらなのかわからなくなる瞬間がある、というその生活が、女と男の食事中の軽い会話の中で明らかになる。 鏡の中のエロス、としてのポルトレ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
限りなき夏1
それぞれのエンドレス・サマーを描く試みは、 今のところ未完のままだ。 タイトルに「1」とあるように、この小説は さらに長大になる構想のなかにあった。 いや、「あった」ではなく「ある」というべきか。 書かれてから30年以上が経過した今、わかっているのは、 これが未完の小説の一部に過ぎない、ということである。 小説の企みは「あとがき」に簡潔に書かれている。 生きることと波乗りの区別をつけない人々にとって、 いま、生きている夏は過去の夏ともつながっており、 そしてこの先にも伸びていく永遠の夏である、という困難が、 この小説を未完にしている最大の原因なのかもしれない。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。76年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
貸し傘あります
例えば東京とは、雨と水商売と、 貸し傘と、どうにかなる女と男。 『人生は野菜スープ』に収録された作品では、娼婦やストリッパーなど、社会からはみ出したような女性が描かれているが、本作ではホステスだ。 舞台は東京・銀座。水商売の女性と少なからず同じ時間、空間を共有するのは、例えばクラブで伴奏をするピアニスト。彼女たちにとって、心強い伴奏者であり、時に人生の伴走者である彼とは、店から借りる傘で身を寄せ合って雨をしのぐような関係の中で呼吸をしている。過去も未来もあるだろう、しかし今は関係ない。水商売から提供される相合傘の下で揺れているばかりだ。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
片岡義男ボックスセット
初めて読む人にも、再び読む人にも。「片岡義男.com」編集部がお届けするボックスセット。 偶然とは思えない強い出会いだが、それを運命と見なすほど不自由でも甘えてもいない。 島で、病院で、手紙で、2人の思いが交錯する。 1人の時間、自分自身の時間を十分に生きた1人と1人が接触して初めて奏でられるあたらしいハーモニーがそこにある。 【目次】 彼のオートバイ、彼女の島 さしむかいラブソング 愛してるなんてとても言えない 味噌汁は朝のブルース 九月の雨 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
かたわらで泣いた
第1章と最終章、あとは会話で小説 作家と編集者が会う。原稿の受け渡しのためだ。 これまで共に仕事をしてきた時間も含め、深い信頼で結ばれた2人は 今、書かれつつある小説の今後の成り行きについて検討を重ねる。 そのあいだに、くだんの小説の第1章が挿入される。 そのあと、再び、検討の会話。そしてラストは・・・ 会話と書かれた小説の両方が合わさって、この1つの小説ができあがる、 という入れ子状の仕組みを持ちつつ、最後はまた一つ、 意外性のあるひねりを加えてあるところを堪能したい。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
彼女から学んだこと
彼女のサイレント・ポートレート 会話や口にされる言葉がまったくないまま小説はしばらく進行していく。 彼女、と呼ばれる女性がどんなふうに水にダイヴするのか、どんな水着でどう歩くのか、本を読む時はどうか、オートバイに乗ったらどうなるか、どのようにコーヒーを飲むか、そうしたポルトレの数々で、ストーリーがあるようなないような曖昧さの中で進んでいく。 「彼女」は1人なのか、複数なのか。 そして48章にいたって、転回が始まる。これはどんな小説か。 「彼女から学ぶ」のは誰なのか? 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼女が風に吹かれた場合
私はいつも幸せ 片岡義男の小説においては、不美人が登場しないのと同じように、嫉妬が登場しない。 いや、登場人物たちはその感情を宿してはいるはずなのだが、その痕跡は見事に消されている、 あるいは次なるアクションによってどこかへ飛んでしまう。 女と男は、それぞれの時間、確実に1対1の関係にひたりながら、その外側に別の1対1を持つ。そのことを隠しもせずに。 結婚も恋愛も出産も、陰りを持つことはない。 そこにはいつも風が吹いている。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼女が持つにふさわしい
合意に達した女性たちは、そろって彼を見送る 片岡作品に繰り返し現れるモチーフがある。 例えば、結婚を一度経験した後、自分は結婚という選択を取るべきではなかった、と確認する女性。 彼女らは例外なく、相手の男性に対する愛情を失うことなくキッパリと再び一人になってみせる。 この短篇もそのようなバリエーションの一つだが、そこにあと一つ、新しい要素が加わる。 一つは「性」の超越。もう一つは「交代」。 そんな理屈通りに行くもんか、と思う読者のとまどいをやすやすと超えて物語の人物たちは動く。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼女の心とその周辺
自分と、自分に良く似たもう一人の女性。小説による定点観測の試み。 相当に実験的な作品、と言っていいだろうか。 彼女は終始、1人であり、この小説に会話は一切無い。 しかし彼女は会話の代わりに想像する、もう1人の自分を。 あるいは自分によく似た女性を。あるいは自分のかつての思い出を。 それら、現在の彼女にとっての「周辺」とともに彼女は生きている。 場所はホテルの一室、という極めて匿名性の高い空間であり、 鏡がそこでは大きな役割を果たす。 小説による定点観測の試みであり、 片岡義男による徹底したミニマリズムの試みである。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
烏なぜ啼く
沼の上空に黒が現れ、地上に白が現れ、 やがて赤の出来事が起きる。 静かな、美しい沼がある。 沼を愛する15歳の少女が登場する。 どこからともなく、マックスと呼ばれるカラスがやってくる。 マックスと彼女は深い信頼関係で結ばれている。 やがて人間の少年も姿を現す。 少女と少年は然るべき関係になっていく。 しかし、三者が共存することはない。 あるラインを超えた地点で、それは起きる。 8月6日というその日付、この国の歴史に黒い刻印を残す その日付が選ばれていることは、果たして偶然か。 読者は考えてみること。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼のお気にいり
すべての信号が赤の日と、 すべての信号がグリーンの日。 オートバイで走る、ということによってしか 知りえない人の魅力、というものがあるのだろう。 男は前を走る赤いオープン・カーの後ろに付いたまま離れない。 女も、普通なら気味の悪い尾行と思えるこの行為が なぜかしら心地いい。こうして2人は路上で出会った。 路上の出会い。それは、片岡義男の小説の黄金のパターンだ。 その日、彼女の自動車はそのボディの色のように ことごとく赤信号で止められた。だがその1年後。 今度はことごとく信号がグリーンの道を走る運命にある。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。80年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼のオートバイ、彼女の島2
映画を書く、という仕方で行なわれる作品解説もまた、1個の独立した作品である 『彼のオートバイ、彼女の島』の続編ではない。 先行するその小説が映画化されるとしたらどうなるか、ということをテキストでやってみる、しかも同じ作家の手によって、という試みである。 場面描写が続く、ということだけでは済まず、そこにカメラと、そのフレームの意識、さらにはフレームが切り取る画面の意識が強固に表れるのが片岡義男らしい。 いわばこの作品は、作家自身によるカメラを媒介にした作品解説であり、批評なのだ。 そしてそれは同時に、生まれ変わった独立した作品でもある。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼の心の影
理想と現実が交錯する現場は、果たして過去から開放される日だろうか。 倒錯、と呼べないこともないし、あるいはおかしな性癖として 片付けられてしまう可能性もあるだろう。 しかし、幼い頃に強く願った思いが、嘘というより もはや創作として機能し、創作は年を追うごとに洗練を極め、 そして結婚式という特別のタイミングで そこまでしなければならないのか、というような もはや誰にとっても悲劇でしかないのかもしれない仕方で 関係者一同が対面する。 地に足を着けた生き方、などという言い方が陳腐に聞こえるほど 人は自分の心の影を引きずって生きているのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
彼の右隣りが、私
彼は知らずに後ろに。彼女は知ってて右隣に。 再会は、一つのドラマである。 偶然の再開は、そうそう起こるものではなく、しかし限りなく無に近い可能性とも違う。 奇跡、というほど圧倒的ではないがゆえにゆるやかな幸福感が漂う。 同じ時刻に、同じ道を走ること。 前を走る自動車がなぜか気になる、という現在は、 彼の、あるいは彼女と彼の過去が作動した結果の祝福された現在かもしれない。 10年の時を経て再び彼女は、彼の右隣をキャッチする。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼はいま羊飼い
流れ落ちるのを止め、 男はいま、留まって学ぶことを始まる。 延々と続く丘のつらなりの中を 1台の赤いピックアップ・トラックが走っている。 そこには女と男が乗っており、 ニューヨークからカリフォルニアをめざした長い旅の途中だ。 すぐに子供っぽい情熱を燃やしながら 何一つモノにならない男の幼稚さに女はウンザリしている。 しかし不意に、決定的な出会いがあった。羊飼いだ。 羊飼いの世界を知り、雷鳴と豪雨と、スカンクの放屁を浴びて 1週間意識不明になるという洗礼を受けて、 ようやく男は自分の道を見つける。 あくまでカリフォルニアに向かう女と別れ、 男はそこに留まって学び始める。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼はプールの底
三角形であること、三辺あることによって彼女は新しい自分を知る。 2人の女性と1人の男性がいる。 女性同士は友人であり、男性はうち1人の夫だ。 ある時、1人の女性がもう1人の女性に夫を紹介する機会がやってくる。 妻と夫、という関係でないほうの男女は ラジオ番組のホストとゲストになる。 そこから三人の三角関係が形成されるが、それは通常の意味での 「はじまり」と言えるものなのかどうか。そこに嫉妬はなく 性的興奮があり、そして実はその向こうに、 女と女、という関係も見え隠れしているのだ・・・ 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
彼らがまだ幸福だった頃
生きることは、見ることのレッスンだ 徹底して「見る」ということを主題にした長篇である。 刻々と変化する時間と風景の中で何をどう見るのか。見て記憶するのか。 見ることを精密にするためにこの小説で導入されるのが写真。 男は写真を撮ることを通じて「見る=思う」ことを学ぶ。 そして女はいつも見られる存在でありつつ、「なににもならないままでいる」ことを続ける。 場所が変化する。ホテル、という中立の場所がある。 オートバイもある。それらはすべて「見る」ことのための好ましい環境だ。 「見る」「見られる」ことができている時間が幸福の時間である。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
彼らに元気が出る理由
嘘偽りなく、いつでも自分自身であることを生きる 小説を書こうとしている男がいてその男も含んだストーリーと、彼が書いた小説の両方を合わせて1つの長篇小説に仕立ててある作品である。 登場人物は多いが、それぞれ、その人ひとりの輪郭をハッキリと持ち、例えば自分が日々生き生きとしているために仲が悪くないのに離婚もするし、夫婦であろうが個別に旅もするし、誰が誰と会い、どのように誘おうと自由だ。この長篇に説得力を与えている要素に「部屋」と「時間」がある。かつて暮した部屋、今は痕跡の部屋、そしてふと思い出す過去の時間が人物の生きてきた姿を鮮明に照らし出す。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
彼を愛してなにを得たか
季節がひとめぐりしたから。理由はただそれだけ 徐々に関係がまずくなるとか、短くない断絶を経て決定的にダメになるとか、そういうことではなく、なに一つ問題ないように見える瞬間に終わることもある。 例えば、春、夏、秋、冬、そしてまた春と季節がちょうどひとめぐりした、という理由で。 言い出した側が強く、言われた側が惨めだ、というわけでは必ずしもない。 夜の日本海を眺めながら夜通しクーペを走らせる、その美しい、そして悲しい時間を経験して彼女はその連続のままに、一人だけの朝を迎える。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
缶ビールのロマンス
ロマンスは一人で オートバイで長距離を移動するなら電車やバスなどの移動手段と違い、 時には先に進めないアクシデントが起こり、予定外の遅れが生じることもある。 しかし主人公の「ぼく」は、その予定外の遅れを半ば以上意図して行い 恋人と会う時間を先延ばしにしている。 会いたくないのか? といえば、すこし違うだろう。 今、彼は違う種類のロマンスがほしいのだ。 いつでも、どこでも、そしていくらでも缶ビールを飲むという、平凡で最高のロマンスを。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
カーニヴァルの女
手で触れることのできる夢に、 身を投じた女の人生。 どこからかやってきて、いつのまにか消えていく。 さまざまな種類の流れ者が登場する短編集『ロンサム・カウボーイ』の 最後を飾る一編は、カーニヴァルの中に生きている女の物語。 日々の中にひとときだけ挿入されるカーニヴァルという非日常が シャーリーンにとっては逆に日常の住処になっている。 なぜなら、彼女にとっては輝くことだけが人生だから。 彼女もまた、さすらうカウボーイ。 ベッドルームのジュークボックスには ただ1枚、エルヴィス・プレスリー『ロンサム・カウボーイ』のドーナツ盤だけが 入っている。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
樹
孤独な男は、二度失う。 二本の樹を失い、 二回の銃弾がこだまする。 長い歳月が、何もかも変えてしまうことがある。 そして、最もかけがえのないものが、あまりの純粋さゆえか、 やはり長い長いあいだ、記憶の底に沈んだままでいることがある。 2つの長い時間が交錯するその時、悲劇に振れてしまうことがある。 かつて子供の頃に1年だけ住んだ町のあまりの変貌に呆然としつつ 1枚の絵によって忽然とよみがえった自分の宝を 男は実に34年ぶりに探し始める。 その願いが叶うはずのないことが理解された時、 男の居場所はもはや、静かな狂気以外にはない。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
桔梗が咲いた
ある小説の助走のような小説は、そのままひとつの完璧な小説になった 作家自身が「あとがき」に書いたようなひとつの明確なイメージ、明確だが小説としては何年も結実しなかったイメージの定着がここにはある。 この小説では登場人物の誰もが物語を作ろうとしている。 作ろうとしながら、自分自身にも物語を持っているのは女性たちだ。 1人の男性作家によって彼女たち自身のティーンエイジャーの頃の生きた時間が呼び出され、語られ、しかしその語りの一部にはフィクションも含まれている、という微妙なあり方。 誰もが現実を超えた手の届かない存在に向けて大人になった今の時間を生きる。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
汽車に手を振った少女の物語
やってきては去っていく汽車に 手を振ることで輝く一生がある。 サザン・パシフィック鉄道の定期貨物列車で働く男たちは タフで、ユーモアを解し、人に温かく そしてみな、クッキーが大好物だ。 貴重な荷物を運んでくる彼らには、小さな小屋に住む2人の女性から とっておきのクッキーと熱いコーヒーがふるまわれるはずだ。 彼らもまた、彼女たちとは仕事の域を超えた付き合いがある。 去り行く汽車に手を振る、そのシンプルで嘘のないふるまいが 人の一生の長さをそのまま祝福し、手を振る側も振られる側も 等しく幸福の中にある。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
昨日は雨を聴いた
堂々めぐりの言葉の果てに なぜふと、唐突な言葉が出てしまうのか。 浮気。この、凡庸にして普遍的な、 みじめな、疲労感のつのる、男女間の出来事。 言葉は常に行為よりも遅れているから、 言い訳も、釈明も、解決の提示も、嘆願も、 互いの言い分も、堂々めぐりを繰り返す運命にある。 そのような倦んだ言葉のつらなりの中で、 男はふと、あらぬ言葉を口にしてしまう。 何一つ決定的な事柄にはつながらない平凡な、 しかし不思議な言葉を、ふとつぶやいてしまう。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。79年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
きみはただ淋しいだけ
今はもう10年前ではない この短篇小説を読み終え、あらためてタイトルを見ると、いかにも的確で、同時に残酷に思えてくる。 10年前の輝きを、その当時の風景を目の当たりにしていくらでも語ることができるのは、現在にその輝きが失われているからだ。 かつて選んだ男が去り、選ばなかった男が新たにやってきた、という単純な話ではない。 あの輝きはもはや、確実に消えてしまったのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
きみを忘れるための彼女
典型的に愚かな男はうつくしさを知っている 自分とはスピードが合わない。 自分はいつも遅れてしまう。 その「遅れ」の自覚から取った行動がとりかえしのつかない結末につながる。 それは2人の女性を不快にする結果にもなったが事態をハッキリと前に進めることにも寄与した。 今、男が持っているのはその「遅れ」と愚かさだ。 そのせいで彼は女性を失ったが、そのせいで彼は彼女と彼女のうつくしさを知った。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
給料日
やることは、ただひたすら金を使うことだけ。 どこにも寄りかからない真性の無頼な時間がここにある。 給料日のサラリーマン。懐には20万弱の金がある。 会社帰り、男は地下鉄丸ノ内線で新宿に出る。 ゲーム・センターで金を使い、パチンコで使い、 飲み屋を何軒もハシゴし、誘われるままに風俗店に行き、 一晩で彼はすべての給料を使ってしまう。 憂さを晴らしているわけでもないようだ。自暴自棄でもない。 金があり余っているわけでもない。病的でもないらしい。 男は金を払う。なぜなら金を持っているから。 新宿とはそういう街だから。 感情にも意味にも事件にも寄せず、新宿を描ききった稀有のハードボイルド小説。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
巨大な月曜日
その瞬間はまだやってこない サーフィンを描いた有名な映画に『ビッグ・ウェンズデイ』がある。 この場合の「ビッグ」とは言うまでもなく波のことだ。 この短篇では、待望すべきその「巨大さ」は、 どうやら月曜日にやってきそうだ。確かに台風はやってきた。 しかし、8フィートの波はどうか。 今、海に出て行くのは危険すぎはしないか。 待ち受ける2人の若者の期待と不安、不穏な海・・・ 待つこと、まだ来ないこと、しかしすぐそこにありそうなこと、 それらのざわめきを描いたスリリングな一篇。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
去年の夏に私たちがしたこと
翌年の夏に彼女がしたこと 20歳の夏。自由になる時間は豊富にある。 そして、オートバイがある。 灼熱の日本列島を、自分のペースで走り抜ける。 寄り道は自在だが、目的も、たくらみも、ちゃんとある。 若さゆえの思いつき。約束のない出来事。 そしてそれは忘れられない夏になった。 ところが、物語はそれだけで終わらない。 季節が一巡し、夏がまた巡ってくるように、 今度は彼が、彼女に驚かされる番なのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
九月の雨
貼らない写真と送らない手紙 2人には、大切な機器がある。 少女は、カメラだ。日々、関心のおもむくままにスナップを撮り、日記帳に貼り付けていく。 少年は、オートバイ。親も知らないうちに入手して、それに乗って旅に出ようとしている。 少年が少女にオートバイを見せたのは、旅立ちの日=別れの日、だった。 その写真は、まだ貼られていない。まだ彼には送られていない。 宙ぶらりんな時間の中に、2人の未来はある。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
クロスロード
彼女たちは偶然、トウキョウで会い、 またそれぞれの人生に分かれた。 東京・銀座四丁目交差点付近。 休日のこのあたりは、歩行者天国だ。 雑多な人々が行きかう路上に この時ばかり出された簡易テーブルがあり、 ハンバーガーを手にした2人の女性がたまたま相席になった。 2人はかつて、それぞれの仕方で自然の脅威を目の当たりにし、 古い自分を脱ぎ捨ててきた存在だ。 それが偶然、自然から最も遠く離れたように見える日曜日の銀座で、 周囲に溶け込まず、しかし浮き上がりもせず ごく控えめに、微笑と共に出会ううつくしい物語。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。84年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
結婚記念日
祝福の日には、 出席者全員に祝砲を。 高原のスロープに立っている優美なヴァケーション・ハウス。 夫妻の結婚記念日を祝うため、7人が集まっている。 残る1人も、まもなくやってくるだろう。 ハウスについての、そしてふるまわれる料理についての詳細な説明が書き込まれ、また、ラッキー・ストライクの歴史をめぐる いささかスノッブな会話が取り交わされる。 空虚にも思えるきらびやかさが、何か別の物事が着々と進行していることを感じさせる。 そしてほら、8人目がいま、到着した。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。77年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
煙が目にしみる
涙より煙がいい ひどい男、と言ってさしつかえないだろう。 仕事が忙しいことを理由に、約束を反故にし続ける男である。 しかし女に対する同情も微妙だ。 待つ女になりすぎている。惚れた弱み? それでも、女と男は一晩だけ、会うことができた。 倉敷から金沢、金沢から新潟。なんとムダに(?)西から東へ。 大人だから、酒も飲めば煙草もある。 煙草の煙が、目に入る。 もし涙が出たとしても、それは純粋に煙のせいなのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
高原のティー・タイム
高原の静かなティー・タイムは、 にぎやかな劇を挟んで、再び画面にあらわれる。 小説においては、このような物語も可能なのか? そうだ、むろん、十分に可能だ、とでもいうような一編。 最初と最後に、1つの視点がある。 その視点はフィクスで、テレビ画面を観ている。 紅茶のCMが表れる。秋の高原のティー・タイムだ。 CMが終わったら、番組が始まるだろう。 こちらはうってかわってにぎやかだ。うるさいほど。 番組の背後にあるアクションの積み重ねも、せわしない。 やがて、人によっては「惨劇」と呼びたくなる場面を映したあと テレビは再び、高原のティー・タイムに戻る。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
紅茶にお砂糖
彼女が紅茶で男が砂糖。底に沈んでかきまわされよう 再会。これもまた片岡作品の主題の一つである。 同じ人間が、時間と場所と立場を変えると、同じ人間ではなくなる部分と、それでもやはり同じ人間であり続ける部分の絶妙のブレンドとなりストーリーは進展していく。 再会することが自由ならば、再会に至るまでの時間に、空想を膨らませることも自由だ。 再び会った瞬間、1つに溶け合うことさえも。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
心のままに
時は過ぎ去るに任せよ、いつでも自分自身であれ 家族がある。親と子がいる。 愛情で結びついてはいるが、縛ってはいない。 だからいつしか自然に解けるよりも自ら解き放つほうがいい、と考えてもおかしくはない。 親を、環境を選べない子供たちも、大人になっていく。 一人ひとりがもっと自由に生きることを始める時、新たな出会いがあり、新たな家族の再編があり、かつて家族が他人に代わったように今度は他人が家族になることもある。 サーフィンが、カヌーが、8ミリフィルムが、音楽が、それぞれ色彩豊かなラインを生み出しタペストリーが生み出されていく。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
心待ち
心待ちが、ずっと心待ちであるために 心待ち。この美しい言葉を最大限に生かすようにこの短篇は書かれている。 梅雨の東北地方。 オートバイでツーリング中の男は21歳。 ガソリンスタンドで働く女は18歳。 オートバイには2人乗ることができるから、2人は海に向かうことができる。 その時間の輝き、その記憶が失われることのないように、 ちょっとしたやりとりの、ある仕掛けがなされる。 やがて夏が終わり、男が消え、心待ちが残るだろう。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
心をこめてカボチャ畑にすわる
思い出してみてほしい。 どこかの上に、心をこめてすわったことなんてあっただろうか? サンダンス。アメリカ西部開拓時代に生き、 伝説的な強盗、アウトローとして知られるその男と 同じ名前を付けられてしまった少年はなんとインディアンだ。 彼はガス・ステーションと簡易食堂を兼ねたような店を ほぼ1人で切り盛りしている。 囚人。囚人を護送する刑事。病気の少女。ヒッチハイカー。 てんでばらばらの女たち男たちが店に立ち寄り テキパキとサンダンスは仕事をこなしていく。 ここには、声高なインディアン擁護も社会批判もない。 ただ「心をこめて」カボチャ畑にすわることを 白人たちがしないだけである。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
こちらは雪だと彼女に伝えてくれ
名前のよく似た2人の女性 名前を構成する漢字が1文字だけ違っていて、年齢は同じ。 そして何より、2人ともとびきりすばらしい女性、 というのが、1人の男を挟んでてあちらとこちらにいる。 さて男はどうするのか。 片岡義男の小説においては、こうした状況はさして困ったことではない。 むしろ、晴れやかなことである場合が多い。 ラストの成り行きはいささかご愛嬌だろう。 三角関係が美味なサンドイッチになるのもいいが、 雪の日本と南の島に分かれるのも悪くない。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
粉雪のつらく降るわけ
誰も知らないから自分で言う。「おまえ、どうするんだよ」 未来へと目を向けてある決断を下しても、それは現在が見ている風景でしかないからやがてその時がやってきた時点でかつて未来だった幻想から悪戯される、ということはあるだろう。 卒業と結婚を同時にやろう、という青年の性急さと、かつて手を切ったものに再びからめとられる弱さは、矛盾しない。 同時にそれらを抱えたまま彼は人の世の洗礼を受けることになる。 それを優柔不断と呼ぶのは簡単だがそのことよりも今、まさに直面していることの悲しみのほうに粉雪が寄り添っている。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
コバルト・ブルー
その海の波を体験することを通して 彼女は彼を理解しようとする。 物語は悲劇から始まる。 道路まで大きく浸入してくる巨大な波に 1人の、17歳のライダーが飲み込まれたのだ。 彼の仲間たち、とりわけ恋人であった彼女は 自らも750CCのオートバイに乗り、 あの日と同じ波を自分もくらうことを強く望む。 そして1年後。その日はやってくる。 そこで彼らと彼女の身に起きたことは? 彼女はかつての恋人に、はたしてどう向き合うのか。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
コーヒーが冷えていく
冷めたコーヒー、1人で飲むか、2人で飲むのか このうえなく愚かでバカな男がいて、しかしその男には友人もいれば親しい女性もいて、彼と彼女はまったくもって不本意な行動に駆り立てられる。 この短編小説の主役はその彼と彼女のほうである。 まさか自分がそんな行動を取らなければならなくなるなんてにわかには信じがたい状況が2人を待っている。 いわば2人とも被害者だがその2人のあいだにもまだ信頼が生まれるには至らない。 さて、せっかく買ったコーヒーは、この先、1人で飲むのか、2人で飲むことができるのか。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
501 W28 L34
空に夕陽、脚にジーンズ 1年ほど付き合った男女の仲でも、共有されていないものはいくらでもあるだろう。 それが結婚だった場合、単なる考えの相違に留まらず、2人の未来の時間にはいささか暗雲が立ちこめる。 そんな時だった、目の前にあるこの本当の空があまりに美しいピンク色に染まっているのを見たのは。 それは男にとってどうでもいい空だったから彼女にとって男は決定的にどうでもよくなった。 彼女には夕陽がある。そしてよくなじむジーンズがある。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
最愛のダーク・ブルー
誰もいないブルー このごく短い小説は、冒頭とエンディングがブルーで埋め尽くされている。 2つはまるで種類の違うブルーだが、その深さ、途方もなさにおいて共通している。 そして2つのブルーのあいだに、ただ2人だけの登場人物がいる。 他人同士だが、彼女と彼は親しげに言葉を交わす。 2人のあいだには静けさがある。 それは、彼の許から多くの人が去っていったあとの静けさだ。 残された彼は苦心して1つのブルーを生み出し、そして今また、出発しようとしている。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
再会
6人から5人へ。そして4人。 それが即ち、時間が経過する、ということ。 6人の男女がいる。まだ20代だが、30が目前の20代だ。 高校、大学を通じてずっと友人だった6人は 何よりも波乗りを愛することで結ばれていた。 大学を卒業し、それぞれ社会に出て、ハワイで彼らは再会する。 だがその時、彼らは5人になっている。 女3、男3の、いささかおさまりの良すぎる配分は 5人になることによって何かが崩された。 そしてここハワイで、また1人が去っていく。 青春の終わりと時の流れの残酷さ、やさしさ、そのすべてが 圧倒的な海と空と太陽とともにある。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
最終夜行寝台
そうしよう、と思ったら、そうしてしまう。 行き着く先は、やさしい最終夜行寝台。 タイトルが示すように最終夜行寝台が舞台にはなっているが、 おそらく、読む前に想像できるイメージとは違っているはず。 その寝台には、女が1人で乗る。 そして、女が立て続けに酒を飲む、という時の 感情の動きや事の顛末なども、 これまで多くの物語が紡いできたものとは違っているだろう。 最終夜行寝台は、きちんと定刻ごおりに任務を遂行するはずだ。 そして寝台のベッドは、上段ではなく下段で、ほんとうによかった。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。87年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
鎖骨の感触
短い時間だから、ぼんやりした全体ではなく、肩を記憶しよう 見ることができ、触ることのできるもの、 そのような「できる」関係にある男女を描くには、 短編小説という器がまことに好ましい。 努力の成果、としてではなく、生まれつき恵まれた恩恵としての「肩」を 男は愛し、女は愛されることを大切にする。 鎖骨と、そこからつながっている精妙な肩甲骨の動き。 そのうつくしさ、生きていることそのものがもたらす何かを 写真に撮って残しておくことはしない。 失われるまで愛し、あとは記憶と想像が幸福を形成する。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
さしむかいラブソング
苛立ちも、失敗も暴力も、 「さしむかい」の向こう側に消えていく。 出会いの場所は路上。女は唐突に捨てられ、 男は選択の余地もなく、女を拾う。 「スローなブギにしてくれ」にも通じる片岡義男の初期小説のパターンを この短編もまた踏襲している。 若い女と男が一つ屋根の下に過ごせば むろん、静穏な時間は長く続かない。やがて 世間が、さまざまな力=暴力が2人を襲うはずだ。 それぞれの痛手を経由して、2人はようやく手に入れる。 そこにある、「さしむかい」という言葉の体温を。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
さっきまで優しかった人
さっきまで優しかった人たち 唖然とする展開、といってもいいかもしれない。 しかも2度。この短さの中で2度、唖然とできる。 舞台設定が、サスペンスの効果を高めている。 ここで「本気だ」と言われているセリフは言葉通りに受け止めるべきであり、それを怖ろしいと思うかあるいは微笑ましいと思うことだって、読者の自由である。 もしかするとこれは新手のSMプレイかもしれない。 そう読むのもまた自由である。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
サマータイム・ブルー
待つ女のままで、いてなるものか。 男はロード・ライダー。 夏のあいだ、あちこちの小さな町を気ままに走り抜けている。 一緒に海へ行くはずだった、と言うのは女。 男は毎日公衆電話から電話をかけ、必ず女は自宅にいる。 秋風が吹いたら東京へ帰る、と男が言う言葉は、はたして本当か? 待つことしかできないのか? そうではないだろう。 ラスト、家にいてもできる「待つこと」以外の生き方を、彼女はようやく見つける。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
さようならの言いかた
そして彼女はやりとげた 若い男女がいる。恋人同士ではない。 大切な人を亡くした同士だ。 男にとっては親友。女にとっては恋人。 深い悲しみの中にありながら女性は彼女なりの仕方で追悼を、そして別れを試みる。 それは恋人だった男性を彼女のやり方で理解しようとすることであり、その場所に行ってみることであり、それをやりきったら二度とやらないことでもある。 そのやり方にそっと、親友が寄り添う。 見事なその別れを、彼女は完璧に美しくやりとげる。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
至近距離
容赦なき30発。おそらくは、 リベンジの範囲を超えた、怒りの銃弾。 片岡義男の全作品中でも、 おそらく最もストレートで、待ったなしの一編だろう。 沖縄を思わせる場所で、米兵がトラブルを起こす。 現実に歴史の中で起きている出来事を、この短編も引き継いでいる。 やられたら、やりかえす。必要以上に。徹底的に。 タイトルから想像できるとおりの、いや、 それ以上の場面が展開される。 この一編を現在のアメリカ兵が読んだら、 果たしてどんな感想を持つだろうか。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
シャツのボタンが段ちがい
偶然は偶然であり、サインではない 27歳の男性。たっぷりの未来があるようでもあるしそれなりの過去の堆積もある年齢だ。 いくらでも眠ることのできる体力もある。 結婚は、してもいいし、しなくてもいい。 女性もいる。1人ではない。とっかえひっかえ、というのでもない。 ある時、連続してある現象に目を止めた。 シャツのボタンが段違い。それが連続して起きたことに意味を見出すことは可能だろうか? それは必要なことだろうか? 目の前に現れた、連続した、シャツのボタンの段違い。 ただ彼はぶっきらぼうにそれを指摘するだけだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
シュガー・トレイン
最後のサーフが消えるとき、 彼女に巨大なサーフがやってくる。 美しく、大きな波で知られた島は、変わろうとしている。 火力発電に伴うコンクリート桶の建設が、 景観ばかりでなく、ついにはサーフそのものを消してしまう。 抗いようもなく進行していくその流れは、 誰が善で誰が悪という単純さを許さない過酷さで かつて走っていた蒸気機関車の復活にも火をつける。 島そのものが持つ歴史、そこに暮らす人々の知恵から生まれる そうした一連の動きが、ある時、一人の女性の身心を直撃する。 それは慶賀すべきことであると同時にパニックに近い事態でもあり やはり善悪の向こう側にある荒々しさに満ちている。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
瞬間最大風速
渡り鳥 ミーツ キャデラック。 その成り行きは台風とともに。 それまで無関係だった男女が路上で出会う。 片岡義男の黄金パターンが遺憾なく発揮された中編小説。 女は、様々な土地を回っている渡り鳥の歌手。 男は、キャデラックを札幌の友人まで返しに行く途上の身。 その2人の出会いは、速度の遅い、しかし猛烈な 台風の接近、進行、通過とともにある。 過酷、と言って差し支えない状況をともに過ごした 2人のその後は果たして? 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。89年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
傷心のつくりかた
論理的に、あくまで論理的に 『微笑の育てかた』と題された短編集に含まれた一編。 「微笑」が育つ背景には、「傷心」の生産もあった、というところだろうか。 物語はシンプルである。女が2人、男が1人。 一方で1対1の関係があり、別の一方で別の1対1の関係があり、双方に男が共通している場合、2つの1対1が2つのまま維持されるのが困難になる場合がある。 と、こんなふうにあくまで論理的に、通常なら感情や心理と呼ばれる人間の領域も論理的に書かれるのが片岡義男の短編の特質だ。 そして最後に来るのは、「笑い」。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
正直で可憐な妻
さまざまな別れのあとには、さまざまな再会があればいい この短編の、再会のシーンのあざやかさはどうだろう。 もしも映画なら、男性視点、女性視点、ロングショット、寄りのショット、 そしてすれ違う瞬間のことや交わす目線、かける言葉のタイミングなど 制作者には相当な力量が問われるだろう。 人は大人になり、結婚をし、時間が経過すれば離婚、というようなこともあり そしてまた・・・ どこかで生きている限り、さまざまな可能性がある。 再会とは、失われたものを取り戻すことではない、と誰もが知っている。 それはまた新しい生を生きるために必要なアクションなのだ。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
白い町
なにもかも白のせい。 男は死に物狂いで赤を引っ張り出す。 会話と拳銃だけで構成された、シンプル極まりない短編。 いや、その2つの前に、大前提として白い町がある。 エーゲ海を思わせる青い海に、すべての建物が白い町。 男はそこにいる。何もかもが白い。圧倒的に、狂気の白だ。 白が失われる夕刻以降の時刻と真っ赤な自分の車だけが救い。 恋人ではなく、ただ性的な関係を続けるだけの女と 連日電話をし、彼は苛立ちを募らせる。 そして2人が会うその日。悲劇の赤、男にとっては脱出の赤がやってくる。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
時差のないふたつの島
ストーリーを書き始めるまでのストーリー 片岡義男の小説にはストーリーを書くという行為そのものを考察し、主人公が登場人物たちと会話し、その成り行きが小説として提示されている作品がいくつもある。この小説もまさにその1つであり、本格的な長篇だ。2つの島というヴィジョン、双子というヴィジョンはストーリーと、ストーリーを書くという2つのレベルに呼応し、やがてそれらは溶け合って1つの小説になる。この小説で重要なのは、プラス島の歴史=人々の時間、という大切な要素がそこに呼び出されていることである。 ※作家の敬愛する写真家・佐藤秀明氏撮影の写真を収録 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/ -
熟睡する女性の一例
熟睡できることは力だ 不思議なタイトルの短篇であり、様々に解釈できそうなストーリーだ。 片岡義男の小説群は、美人しか登場しない、 というおそるべき特質を備えているが、 彼女たちがことごとく警戒心を欠いている、 というのも共通した特質である。 ここに登場する女性もまた、 遊んだのでも遊ばれたのでもなく、執着はなく しかし電話をしよう、という意志があり といってわだかまりがあるわけでもない、という そのバランス、その強さが、彼女の熟睡に現れている。 【著者】 片岡義男 1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
ジョージア州では桃が熟れるころ
どこへでも行ける青年、 どこへでも行かせるアメリカ。 自動車を愛し、熟知していること。 そこが北米大陸のアメリカであること。 この2つさえあれば、人はどこにでも行くことができる。 目的も要件も思い出も仕事も家族も恋人も 「どこへ行ってもいい」という自由の前には関係がない。 モーテルを出て、外へ行くこと。 走り続けるに十分な広さがあること。 そこに一人でいることがもたらす大きな微笑には一点の曇りもない。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。 -
人生は野菜スープ
友人でも恋人でもない、相棒という得難い関係性の、 風のような成り行き。 ボーイ・ミーツ・ガール。はじまりは映画館。 女はロビーの長椅子に座り、男は眠りこけていたのが目覚めたばかり。 スクリーンを凝視していない2人は 映画館は映画を観るところ、という思い込みから自由だ。 友人や恋人のように重力の中で生きない、 ただ風の中で生きる、相棒として。新宿で。富浦で。 大切なのは、自分たちが何者で、これからどうするかではなく 例えば変形して痛みの伴う足を、ビー玉を使ってラクにしてやれる技術だ。 10ccに「Life is a Minestrone」という曲があります。 気になる方は検索するなどしてみてください。 【著者】 片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。