【感想・ネタバレ】マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体のレビュー

あらすじ

ポール・ローマー(2018年ノーベル経済学賞受賞)激賞!
「もっとも大きなダメージをもたらしたのは、金融部門の規制緩和で、レマンは、この点を、20世紀後半にアメリカの金融部門を再構築するのに一役買ったエコノミスト、マイケル・ジェンセンのキャリアを描いた著書で明らかにしている」(フォーリン・アフェアーズ・リポート2020NO.5)

経済は思想で動く。アメリカの資本主義は、GM,GEなどの大企業と連邦政府が渡り合う「組織の時代」から、モルガン・スタンレーなどウォール街の投資銀行が牽引する「取引の時代」、リーマン・ショックを挟んで、シリコンバレーに拠点を持つネット企業による「ネットワークの時代」へと発展してきた。
それぞれの時代には、その時代を特徴づけるアイデアを打ち出して、大きな影響を与えた人物がいる。
「組織の時代」は、企業の所有と経営の分離を唱えた『近代株式会社と私有財産』の共著者で経営学者のアドルフ・バーリ、「取引の時代」は、エージェンシー理論によって敵対的企業買収やレバレッジ経営、経営者への巨額報酬に理論的裏付けを与えた金融経済学者マイケル・ジェンセン、「ネットワークの時代」はLinkedIn創業者で「ブリッツスケーリング」を唱えたリード・ホフマンだ。

本書は、「取引の時代」を主導したハーバードビジネス・スクールの人気教授マイケル・ジェンセンのプリンシパル・エージェント理論とそれがいかに金融主導の経済につながったか、それが多くのアメリカ国民を巻き込んだリーマン・ショックをもたらしたかのストーリーを軸に、経済とそれを支える経済思想の関係を豊富なエピソードを交えて描いていく経済思想物語。

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Posted by ブクログ

副題の「エージェンシー理論の光と影」に惹かれて購入したものの、良い意味でも悪い意味でも裏切られた。

【本書の概要】
本書は、アメリカ経済の「組織化」の変遷を、主に3人の思想家(学者・事業家)の人生とともに読み解くノンフィクション。
1人目は、「所有と経営の分離」のバーリ。この時代は、大企業が力を持ち、雇用の安定など社会基盤の供給者として期待された「組織の時代」。
2人目は、「エージェンシー理論」の提唱者ジェンセン。金融界が力を持ち、金融市場が流動化が進み、株主をはじめとした市場が力を持つ取引の時代へと移る。
3人目が、リンクトインの共同創業者でもあるホフマン。リーマン・ショックで、金融界に対する不信感が高まると同時に、インターネットの流行により、シリコンバレーから誕生したビック・テックが力を持つネットワークの時代。

【面白かった点】
こういった時代区分は、アメリカ経済の変遷を捉えるうえで、とても有用だと思う。
終章では、再び権力が集中する巨大IT企業に対抗するには、市民が利益集団を作り、組織化していくことが「唯一の現実的な防衛策」であると主張する。また、それまでの章で語られていたストーリーは、多元主義という基本思想から捉え直すこともできることが述べられていて、興味深い指摘だった。

【イマイチだった点】
ただ、全体として、主題が分かりにくく、焦点がぼやけていて、少し読み進めるが退屈になってしまった。
また、日本語のタイトルでは、「中産階級」をキーワードとして焦点を当てているが(原題では副題の一部)、本文の内容とのズレを若干感じた。

いずれにせよ、いろいろな論点が詰め込まれているので、多様な問題意識から読み解ける本であることは間違いないと思う。

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2021年09月08日

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