あらすじ
コロナ・パンデミックを機に見直すべきものの象徴として著者が取り上げるのは、リニア中央新幹線計画である。本書は、安倍政権下で事実上国策化した超伝導リニア計画がはらむ問題を、できるかぎり明確に指摘するという、小さな、具体的な狙いをもつ。それは同時に、なぜこの国では合理性のない超巨大プロジェクトが次々に暴走してしまうのかを浮彫にしている。リニア計画は深刻なエネルギー問題を抱えている。そして進行中の大規模環境破壊でもある。にもかかわらず、虚妄に満ちた「6000万人メガロポリス」構想、原発稼働の利害との結合、大深度法の横暴など、計画は目的と手段の両面で横車を押すようにして推進されてきた。中枢レベルの政治権力の私物化や、ナショナリズムと科学技術の結びつきがそれを可能にしてきたことも、本書は明らかにする。最終節は、この暴挙の根を掘り下げる。日本の戦後の産業経済は、旧体制から引き継いだ諸条件を足場に経済成長を成し遂げた。そこで強化された既得権益と前世紀的な成長への醒めない夢が、時代錯誤の巨大プロジェクトの温床となっている。3.11以後/コロナ禍以後の、持続可能性を追求すべき世界で、なお私たちはそれらを延命させるのか? 決然と、それを問う書である。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
リニアは、資本主義の縮図。
リニアは、漠然とした成長神話の象徴であり、それ以外に意味を持たない。
資本主義とは、全体のパイの成長に依っており、拡大への欲望は無限。
しかし、成長のためには、地球という資本がエネルギーとして必要。その地球資本が尽きようとしている。
だからこその脱成長であり、脱リニア。
明快だ。
Posted by ブクログ
知らなかったリニア計画の問題点を知ることができ、漠然と必要性は感じないが、まあ良いことなんだろうと思っていた認識が変わった。
静岡県がリニア工事に反対しているのも明確な理由があり、それを詳細に伝えず単なる嫌がらせをしているという印象を与えるマスコミ報道にも問題を感じる。
筆者は全共闘の指導者でもあり、資本主義の限界という視座で論評しているが、ではどのような社会にしていくべきかの答えを出せないまま、反対運動でしか行動できていないのが今日の左翼運動の限界かもしれない。
Posted by ブクログ
リニアは夢の技術だから、困難はあっても進めてほしい――と漠然と思っていたが、どうやら違うらしい。
世界最速の鉄道はこの国に必要だろうか?
地方を切り捨てて成り立つ6000万人のメガロポリスは必要だろうか?
コストよりも安全性よりも速度を追求するべきなのだろうか?
どの国も追い付こうと思わない「世界をリード」する技術を磨いてどうするのか?そこまでして世界に誇りたいのか?何を?
時代錯誤だ。昭和のままだ。「もう一度、昭和を」というおじさんたちの暴走。五輪しかり万博しかり。もうやめよう、その発想。
この国は、自らイノベーションを起こせなくなり、バージョンアップできなくなり、既得権益層に金を落とす巨大な官製需要喚起策=国策を推し進めている!そろそろ目を覚まそう。
Posted by ブクログ
リニア新幹線中止で見直すべきでしょう。運行には大量の高価なヘリウム、原発前提の膨大な電力がかかるうえに地下か深くを走るため難工事かつ地下水脈にも影響があり、少子高齢化で採算も取れそうにない。元総理から3兆円融通してもらったからあとに引けないか。なかなか刺激的な指摘で、隠れがちなリニア利権の闇を暴いています。今やリモートも普及したし、超短時間移動のニーズがあるか疑問ですね。国力低下しているなかで時代遅れの国威発揚のナショナリズムに振り回されたらかないませんね。
Posted by ブクログ
リニア中央新幹線の孕む多方面にわたる問題点を、諸々の文献に依拠しながら、明快にわかりやすく紹介する啓蒙の書。エネルギー効率的にも社会経済的にもまったく割に合わない「時代錯誤」の代物であることが示される。そして何故そのような時代錯誤がまかり通るのは、成長発展を本質的に前提とする資本主義がすでに行き詰まっているにも関わらず、それにしがみつくメンタリティがあるからだと指摘する。それにしても、本当に様々な面で負の遺産となりかねないリニア計画について、何故マスコミは大きく取り上げないのだろうか。今更止められないということか。今までこの問題にあまり関心がなかったため、日々のニュースを見る中でリニアについて漠然と思っていたことといえば、何だか静岡県知事がケチをつけて工事が遅れているらしいということだった。これではまずい。今からでもリニアの是非について国民的な議論が必要だと思う。
Posted by ブクログ
リニア中央新幹線は要らない、と常々思っていたのですが、この本を読んで、その思いを強くしました。
この本によると、少なくとも次のような観点から、リニア中央新幹線は不要、といえそうです。
○工事のコスト
○工事による環境負荷
・トンネルを掘る際に出る残土の対応
・様々な水系への影響
・森林をはじめとする生態系への影響
○運用コスト
・ハイスピードにともなうエネルギー消費増
・超伝導状態を維持するためのコスト
○事故時の対応の難しさ
○人口減にともなう需要減
○WEB会議システムの充実による、移動の必要性減
書くのが面倒ですが、これ以外にも不要な理由があります。
それにしても、著者は、非常に丹念に、リニア中央新幹線が不要な理由を集めていると思います。
少なくとも、これらにすべて、明確な反論がなされない限り、リニア中央新幹線の実現に向けた動きは、すぐにでもすべてストップすべきだと思います。
Posted by ブクログ
保守政党、中央官庁、財界の権力集合体に対してこの本を読んでいる間、ずっと腹がたちまくっていた。
計画当初と今では環境がまったく違うので、もうリニア新幹線はいらない。
リニア新幹線が地下鉄だなんて知らなかった。
南アルプスの自然を破壊しないでほしい。
日本は撤退するのが昔から下手。
太平洋戦争、原子力発電所、オリンピック…。
マスコミも客観的なデータを出さないで報道しているし。
読みやすいので、多くの人に読んでほしい。
Posted by ブクログ
リニア中央新幹線構想を知ったのは昭和の時代で随分前のことになるが、超伝導というすごい技術を使うようだけれど、そんなに速くしてどうなのかなという程度の、あまりに素朴な考えしか持っていなかった。
また最近は、トンネル掘削による大井川水系への悪影響を巡って、JRと静岡県が揉めているニュースを耳にすることが多かった。
本書は、リニア中央新幹線に関する問題点を一つずつ暴いていく。
巷間言われているのとは異なり、相当な電力を必要とし、原子力発電からの供給が想定されていること。超伝導マグネットの冷却材として液体ヘリウムが使われるが、ヘリウムは希少資源で日本は100%輸入に頼っていること。事故が発生した場合の避難が極めて難しいこと。リニアでつながる東京・中部・近畿圏を包含する6000万人メガロポリスの誕生が喧伝されるが、結局東京一局集中が進むのみで地域振興の効果は期待できないこと。トンネルを掘ることによる南アルプス地域の環境への影響が予測し難い上、大量の残土の運搬、処分が大変なこと。もともとはJR東海の事業であったのが、財投を活用して無担保で3兆円を融資するという国家的事業となったこと。
事業単体としては経済的に成功が覚束ないと言われており、様々な問題のあるリニア事業が、どうして国家的プロジェクトとなり暴走してしまうのか?
科学技術も決して中立的なものではなく、国家ナショナリズムと容易に結びつき、政界、役所、企業と癒着し既得権益化することを、原子力ムラの例を上げながら著者は論じていく。
フロンティアを食い潰し、弱者にしわ寄せを押し付ける、現在の資本主義をこのまま延命させるのか、フクシマ、コロナ・パンデミック後の新たな方向性を見出していくのか。
200ページほどで大変読みやすく、リニアを通して現代社会の今後を考える貴重な示唆を与えてくれる。
Posted by ブクログ
2つの構造線を貫く地下トンネル。乗っていた車両に事故発生。300mの高低差を登り、命からがら脱出できたがそこは冬山。救助到着はいつになるのか・・。想像するに恐ろしい。超高速を生み出すのは超電導。機構の複雑さが、故障確率を上げる。最新技術の超特急だが、「乗ってみたい!」と思わない人が35%。その気持ちも肯ける。全長247kmのトンネル掘削。残土運搬のトラックは1日8000台、それが何年も続く。環境破壊に一役買いたくない。リモート環境定着で移動の需要も減った。行きつく先は破綻の道。リニアは世界をリードしない。
しかし、「脱成長」を語る第4章は余計。本章で提言される「地域分散ネットワーク型」社会を作るのも成長してこそ。目先の利便性を追い求めることだけが「成長」ではない。人が働き、知恵を出し、環境保護や心の平穏を希求することも「成長」だ。人を動かすのにはお金がいる。「脱成長」という言葉は財政出動を阻み、”緊縮財政”につながる。お金の動きが止まりデフレは継続し、格差は拡大。地域間格差も大きくなる。意図するものとは反対する方向に進む。読まれる方には、第4章を読み飛ばすことをお勧めする。
Posted by ブクログ
リニアについては以前からその需要に大きな疑問を感じており、南アの自然をぶっ壊すクソ事業と捉えつつも、その程度でしか考えていなかったのだが、本書を読むとこの事業が日本没落の象徴事業で、如何にヤバいかひしひしと理解でき、自分の無知をひどく恥した。。。
事業の影響をリアルに受けるのは多分現在20代以下の若者と子供たち、だと思う。
折角汗水たらして作り上げたとしても需要が全く無く維持に莫大なコストがかかるとすれば、何の価値も生み出さない徒労以外の何物でもなく、失った時間と資源も戻ってこなければそれはもう損害以外の何物でもない...。
人口減の日本の中で、都市(東京)への人口集中を加速させる。何より最も憂慮すべきは膨大な電力消費の問題...。アホみたいに税金を投入して運賃1000円で運用すれば新しい生活概念が誕生する可能性もあるが、そもそも誰がリニアを使いたがっているのか全く分からない...。私は順調に生き続けられてあと40年程度だろうから知ったこっちゃないが、100年200年のタイムラインで考えると素人目で観ても負債事業としか思えない....。
著者の山本義隆さん、ちょっと調べると肩書は予備校教師だが、東大で将来を期待される物理学者だったようで、学生運動でその道を変えたみたいであった。そういえば私の高校の頃持っていた物理の参考書はこの山本さんの本であった!