【感想・ネタバレ】新編 真ク・リトル・リトル神話大系3のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年08月22日

 ヘンリー・カットナーはかつて作家のエージェントとして働いていた経験から、多彩なジャンルで活躍していました。デビュー作である「墓地の鼠」はラヴクラフトの色が強かったことから、彼の代作では、とも噂されたそうです。
 3集は、カットナーのクトゥルフ神話代表作品である『セイレムの怪異』やラヴクラフトが添削...続きを読むしたことで彼の色が加えられた『メデューサの呪い』など8編を収録。

 以下、ちょっとだけネタバレありの各話感想。
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『セイレムの怪異』(カットナー/1937)
 作家のカースンが新しく借りた住居にはある魔女の伝説の謂れがあり、周辺の住人から恐れられていた。ふとしたきっかけで地下の隠し部屋を発見したカースンはそこをいたく気に入り、執筆用の部屋として使うことにする。その後、悪夢を見た翌日にカースンは、彼の魔女の墓が荒らされ、死体が消えたことを知らされる――。
(カットナーが新たに創造した神格であるニョグタが初めて登場する作品。ラヴクラフトの『魔女の家の夢』の影響が伺えるが、ダーレスの同じような作品と比較すると、カットナーの色がしっかりあって良作に仕上がっている。ちなみに作中で女性がカースンに向けたハンドサインは「コルナ」と呼ばれるもので、一般的には侮辱的な意味を持つが、エンガチョのような魔除けや拒絶といったような意味もある。)

『墓地に潜む恐怖』(ヒールド&ラヴクラフト/1937)
 とある田舎の村の墓地に埋められている二人の人物。一方の妹は何かを恐れて家に引き籠もっている。その彼女に白痴の男が死者の声を伝える。はたしてこの村で一体何が起きたのか――。
(ラヴクラフトの添削により、本人の作風が付加された、ハーバート・ウェストのようなマッド・サイエンティスト要素を添加した「早すぎた埋葬」もの。これに使者の復活の要素を加えたらB級のゾンビ映画になることは想像するに難くない。)

『暗黒の接吻』(カットナー&ブロック/1937)
 ディーンは祖先が建てた古びた屋敷を相続して住み始めた日から、海に関わる夢を見るようになる。その展開は、当初はありふれた内容だったが、やがておぞましいものへと変わっていく。医者に診てもらって帰ってくると、「すぐにその家から離れるべし」という旨の電報が――。
(登場するクリーチャーは深きものを彷彿させるが細部の描写から別物であるとわかる。表題の意味が解る描写は生理的不快感で鳥肌モノ。)

『セベックの秘密』(ブロック/1937)
 謝肉祭最後の日、わたしは夕食後の帰り道でエジプトの神官の装いをした男に出くわす。オカルティストである彼に誘われて訪れた彼の屋敷で、彼と同じくエジプトの神官の装いをした人物を目にする。彼と違っていた点は、その人物は、クロコダイルの頭をしていたのだった――。
(ブロックらしいエジプト色の強い作品。ゲストとしてラヴクラフトが創作したキャラクターのド・マリニーを登場させている。)

『メデューサの呪い』(ビショップ&ラヴクラフト/1939)
 道に迷ったわたしが訪れた屋敷にいた老人。彼が語る、この屋敷で起きた悲劇とは――。
(不条理系。はたして彼女の正体は何だったのか。原題のメデューサは海神ポセイドンの愛人でもあるという話から、ルルイエもしくはクトゥルフの巫女的な存在とも深読みできるが、さて。ビショップはラヴクラフトから添削指導を受けており、彼の作風が反映されている。)

『触手』(カットナー/1939)
 友人で作家のヘイワードに呼び出されたわたしとメイスン。身の危険を訴えるヘイワードの正気を疑うが、鴎とおぼしき甲高い声、蔓を思わせる象牙色の触手、そしてメイスンが目撃した異形の存在がヘイワードが正気であるということ、そして私達の身にも危険が迫っていることを教えていた――。
(カットナーが創作した善神ヴォルヴァドスが初登場する作品。ロングの『猟犬』の影響を伺わせつつ、「こんな所にいられるか!」や前半の展開から事態を打開するヒントを得るなど、ホラー映画のテンプレに近いが面白く読める内容。ちなみに襲ってくる怪物は、後にTRPGでニーハン・グリーと名付けられる。)

『ハイドラ』(カットナー/1939)
 交流のあった三人のオカルティストの内、一人が失踪し、二人が変死した事件。関係者の日記や書類から明らかになった、この不可思議な事件の様相とは――。
(クトゥルフ神話らしく、肝要なところはぼかされたり濁されたりしているが、それでも読者に与える怖気と読ませる勢いは弱まらないカットナーの筆力が素晴らしい。ちなみに今作品で登場するハイドラは、ラヴクラフトの『インスマスを覆う影』で言及されている母なるハイドラとは別存在らしい。TRPGでは明確に区別されている。)

『幽遠の彼方に』(ダーレス/1941)
 従兄に呼ばれたわたしは久方ぶりに祖父と対面する。祖父は大叔父の暗号めいた遺言の解読を試みており、大叔父が何か超常的な存在と通じていたと仮説を立てていた。その晩、外から妙に美しい音楽の調べが聞こえてきて――。
(イタカ物語群の一。結末は予想しやすいが、そこに至るまでの、登場人物をじわじわと追い詰める表現が良い。)

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