感情タグBEST3
Posted by ブクログ
小学生の頃に読んだ際には衝撃的なラストシーンばかりが印象に残っていたが、改めて読むとかなり前半のうちから切ない展開が続く。そして、ただでさえ悲惨な場面をもう一段悲惨にするような追いうちの描写が多いのも本作の特徴。
次の世代を担う子どもたちへの希望は描かれているものの、大石先生や大人になった教え子たちに関していえば、とにかく救いのない物語だと感じた。
また今回読んでみて、戦争の只中を描く第8章と第9章が特に印象深かった。地の文にさえ作者の反戦の思いが率直かつ痛烈に込められており、その母として、女性としての嘆きに年齢を重ねた大石先生の心境が重なって現れる。
大石先生は教師としてのプロフェッショナルではなく、また特別に強くも賢くもない一人の女性にすぎない。しかし、そうであるからこそ、彼女の素朴な怒りは何世代にもわたって多くの人の胸をうつのだろうと思う。
「こんな、かわいい やつどもを、どうして ころして よいものか わあっ わあっ。」(P211)
「名誉の戦死など、しなさんな。生きてもどってくるのよ。」(P212)
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“いっさいの人間らしさを犠牲にして人びとは生き、そして死んでいった”
“一家そろっているということが、子どもに肩身せまい思いをさせるほど、どこの家庭も破壊されていた”
戦争の中で十二人の生徒がそれぞれ懸命に生きる。その中での女性教師の怒り、悲しみ。
伝えなくてはいけない1冊。
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300ページに満たないこの薄い文庫には、周知の通り、瀬戸内の小さな島の太平洋戦争をはさむ二十数年が描かれる。庶民の目と声に語らせた強い反戦の思い、貧しい暮らしの中での小さな喜び、華美な描写を省いた短い文章と台詞がいかに生き生きと自然や人間を感じさせるか…伝わってくるこれらの点だけをとっても屈指の存在と思うが、加えてこれは過ぎゆく時間の物語でもある。
去った時は戻らず、惜しんでも何もかもが指をすり抜けてこぼれていってしまう。地上に生きる人間に共通のこのテーマすら内包して、世界に誇るべき名作。読み継がなくてはー!
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元々学校現場にいたので、大石先生の立場に立ったときの葛藤は昨今の教育現場を踏まえても、わりと共感できました。
というのも、誰の方に向いて授業を行っているのかな、と最近の学校教育でも感じることが多いのです。
本来は、大石先生みたく生徒たちの「瞳」に向けた授業をしなければならないし、それが教育なのではないかと改めて考えることができました。
初めて読みましたが、もっと早く読んでおけば良かったなと思いました。
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牧歌的な島の風景やなごやかな小学校生活の中に、家庭ごとの貧しさや時代の暗い影が描かれる。小学校低学年のこどもたちが大人になる過程で幾人かが身売りされたり兵隊にとられたりする。そして新任の教師時代に違和感を抱いた「老朽」の教師が岬へ赴任することについて、時を経て主人公が同じ境遇になる。教師と生徒を問わず、戦争によって生活の変化が等しく訪れることが強調される。
解説を読む限り、反戦平和のメッセージがかなり強い作品であるとのことだが、あまりそのように感じなかった。ただ、アカ狩りのシーンは無理矢理に挿入された感じがする。全体的に類型的な人物が多い。今でいうキャラクター小説か。だから時代を超えて読みやすいだろう。面白いかどうかは別にして。
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置かれた環境で、必死にもがく子どもたちに心打たれます。
現代を生きる私達の働く意味をも考えさせられました。貧しい一寒村が舞台となっていますが、家庭事情によって幼き頃から仕事を手伝い働く姿、貧しくても活き活きとしている姿、ぶつかり合いながらも団結していく姿、いつの時も子どもたちは大切なことを気づかせてくれる、かけがえのない存在であることに変わりはありません。
国のために生き国のために死ぬことが名誉であるとされ、反戦を口にすれば牢獄へ。自分の考えを持つことが許されなかった時代。
これは二度と繰り返してはいけない過ちですが、間違いに気づき正していく姿勢を持ち続けること、これは現代にも通ずるものがあります。
そして、子どものような女先生、大切なものを見失わない強さにとても惹かれました。
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小学校の先生になってみたくなった
小学生の頃に読んだきりの本
20年前の私はどう感じたんやろう
大人になるまで沢山の選択肢の中で
選べる自由が私にはあって
お金にもご飯にも衣服にも困らず生きてきた
今も何にも困らず生きてるけど
今の私の幸福度は…。
十二人のこの時代の離島の子供たち
生まれたときから
それぞれにそれぞれの少ない選択肢の中で
疑いもせず
疑ったところで抗えず
純粋すぎて優しすぎて
捨てれば良いものも捨てられず
そんな選択肢すら誰も教えてくれず
ささやかなささやかな幸せと
恵まれていないことも恨まず生きていく
死んだ方がましとまでは言わなくても
死んでもそれほど惜しくない世界
私も今死んでもそれほど惜しくなくて
でもそれならこの十二人の子供たちのように
先生のように生きてみたかった
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瀬戸内の海辺の田舎町を舞台に若い女性教師と12人の教え子たちの戦前〜戦後の激動の人生を描いた作品。
主人公の大石先生の目から見た戦争が描かれていて、一般市民の、特に女性、妻、母からみた戦争ってこういう感じだったんだと感じることができた。
戦争中の話で、貧乏だったり、戦死したりと辛い話だが、なぜか読んだあと晴れ晴れした気持ちになる。
大石先生や教え子たちの、敗戦しても生きていくしかないんだというあっけらかんとした気持ちがそうさせるのかもしれないな〜。
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15年くらい前に小豆島へ旅行に行った際に、「二十四の瞳」という本があるのを知り、読もう読もうと思っていてやっと手に取った。
戦争前後の先生の存在価値って偉大だったんだなと改めて実感。文章が古くなく読み易かった。
大石先生は、先生という言葉がしっくりくる。
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終戦から7年ほど経過した1952年、女流作家・壺井栄によって書かれました。
「瀬戸内海べりの一寒村」を舞台に、島の岬の分教場に赴任してきた女性教師と、同年に小学校に入学してきたお少年少女たちのふれあいが描かれた作品となります。
終戦から年月が経ったとは言え、まだ敗戦の空気は色濃く、文壇でも第一次、第二次戦後派の文学者たちが登場し、あの戦争の意味について振り返る風潮があった中、本作は発表されました。
個人的には二十四の瞳は、同時期に書かれた文学作品と同列に語るには異質な感じを受けます。
本作は現代も、文学というよりも一娯楽小説として読まれている気がしていて、他の文学小説に比較すると手に取る人の層が異なっている気がするためです。
戦争を挟んだ時間の流れにより引き裂かれ、また、長い年月の末、戻ってきたことによる女教師の感情の坩堝の描写が美しく、"感動の作品"だと思いますが、本作の主題は太平洋戦争への疑問や戦争の生んだ悲劇であり、本作を文学作品として読む場合、そこに目を向ける必要があると思います。
1928年、女学校を卒業した「大石久子」は、島の岬の分教場に赴任します。
子どもや島の人々との穏やかな日々が描かれますが、ある日、大石先生は子供の作った落とし穴にはまり、足に大怪我を負い通勤ができなくなってしまいます。
その後、完治したのですが、大石は、そのまま元々約束していた本校への転勤が決まり、子どもたちと再会することを約束して分教場を去ります。
数年後、5年生になり、分教場から本校へ通うことになった子どもたちと再会、再び、少し大きくなった子どもたちとの日々が始まりますが、戦争の色濃くなっていく世相の中、子どもたちや島の人々、大石の生活にも影を落とし始める展開です。
壺井栄の夫、壺井繁治氏はプロレタリアの詩人として著名です。
壺井栄自身も、プロレタリア文学運動を行っており、その活動によりプロレタリア文学家たちと交流がありました。
その縁で交流の会った佐多稲子より、作風から未来を担う子供のための文学(児童文学)を書くことを勧められ、文壇デビューした経緯があります。
本作の中でも、そんな彼女の思想が現れる部分が多くあります。
例えば、彼女の教職中、近くの小学校の教師が、受け持ちの子供に反戦教育を吹き込んだということで警察にひっぱられる事件が発生します。
その後、大石は、生徒たちに"あか"や"プロレタリア"、"資本家"という言葉を知っているか質問をするのですが、その授業が元で校長から注意を受け、『消しがたいかげりをだんだんこくして』いきます。
また、戦争が激化する中で、受け持ちの生徒の中でも兵隊を志望する子供が出てきます。
国家総動員で対処すべき渦中においても、大石はそれに疑問を持ち、兵隊を志望する子供を複雑な目で見ます。
やがて敗戦し、戦時中に生まれた息子の船で分教場に戻ってきた大石は、目の前の新しい子供たちを見て涙します。
その彼女の頭の中には、まずあの戦争があって、そして目の前に広がっている未来そのものがある、この感情は、戦争を経験しない私には計り知れないものがあるのだろうと思います。
戦争をテーマにした名著だと思います。
若干偏った思想を感じる部分もあるのですが、イデオロギーは抜きにしても楽しめる作品です。
単純に"戦争は悲惨だ"、"戦争反対"と唱えるのではなく、戦争体験をした作者の著作からはもっと深い想いを感じることができると思います。
Posted by ブクログ
ふと懐かしくなって読んだ。
映画を観たのも、子供向けの本を読んだのも小六か中一だから、文庫本で今回読んでみてその記憶力に我ながらびっくりした。よく覚えているものだ。あいかわらず涙なしには読めないのだが…。
あらためて壺井栄は文章がこんなにうまかったのかと思う。物語として完成した美しさである。子供時代にこんないい本を読んでいたのか!だから感動が持続するのだろう。
ユーモアたっぷりな泣ける物語の中にさりげなく、だが力強いメッセージがある。
おなじ人間として生まれた命が、みんな同じように成長していかない運命の不平等さ。それを深く深く考える一人の女性、岬の分教場の12人の一年生を受け持ち教える先生。先生自身も子供たちに教えられ成長をとげ、強くなっていく。
と書くと普通で面白みが無いようなんだが、そこがストリーテーラーの腕の見せ所、小豆島という背景と愛情とおかしみという味付けがすばらしいのだ。