【感想・ネタバレ】英米文学者と読む「約束のネバーランド」のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ー このように、貴族鬼達の倒錯した欲望の対象となる食用児達の状況は、まるで「母親」によって管」理され、不自由だが安全に守られた家庭で暮らしていた無垢な子供が、やがて大人へと成長するため「外」の世界へと飛び出し、その結果、「男」達による暴力や欲望の対象となり、翻弄されるという、子供から大人への成長の過程を象徴するかのようです。

伝統的なジェンダーに沿った物語であれば、眠り姫は性との接触によって一時的な昏睡状態に陥り、やがて彼女をその眠りから覚ます王子と結婚し、女性 =母親という古典的な価値観に順応することで、大人へと成長します。
もしも『約ネバ』が旧来のジェンダー観にもとづいて描かれていたならば、レウウィスによって傷つけられ意識を失ったエマは、男性キャラクターによって救われ、その男性と結ばれる、というお決まりの流れに落ち着いたかもしれません。

しかし、エマは自らの力で意識を取り戻し、レウウィスを倒す決定打となる閃光弾を撃ちます。「女性=母親、弱者、守られるべき者」といった古典的なジェンダーをはねのけ、自らの力で男性の脅威に立ち向かい、仲間と共に打ち倒すエマの「強さ」は、その後の物語において、大きな意味を持ち始めます。 ー

『約束のネバーランド』の真面目な考察本。
ファンガイドではなく新書で出てるので購入。
イギリス文学、宗教、ジェンダーの切り口で、まったく予想外の考察は無かったけれど、十分に必要な情報を与えてくれるので良かった。

自分たちの閉ざされた“世界”の外にも『世界』があり、この『世界』は閉ざされた“世界”の価値観を否定する。外の世界にも、その世界なりの価値観があり、宗教があり、歴史がある。『鬼』という敵と『人間』という敵を前にして、テーマは必然的に差別と憎しみと争いになり、それは究極的にはホロコーストの問題に辿り着く。最後はどこに終着するのか、というのが究極的なテーマとなる。
食用児は生まれた最初から”供物”となることが運命付けられており、彼らのその“犠牲”の上に“約束”が成り立っている。この“約束”を破る”代償”には新たな“犠牲”が必要となり、それは当然、敵側の”絶滅”に辿り着く。そうではない方法があるのか、またそうだとしたらその“代償”は何か。この辺の考え方で本作の評価が分かれるかと思われる。“甘い”と捉えるか、受け入れられるか…。また、鬼が人間の写し鏡のような存在、だとするならば、物語後の鬼側の世界が非常に心配だ…。

恐怖から守られた壁の内と外の世界、鬼と巨人、歴史、本当の敵は人間、どちらかの世界が滅びるしかないという世界観、その先の希望と絶望、という点で、『進撃の巨人』と通ずるものがある。
”世界”を変えるためには、『世界』は犠牲を強いる。その犠牲の量的な多さと、質的な深さにおいて、両作は全く異なるが、最終的な希望と絶望においては、まったく同じものを描いているような気がする。
この“犠牲”を考える時、“歴史”と“記憶”の重要性が鍵になる。あとは、“許し”と“癒し”なのだが、この最後の“歴史”、“記憶”、“許し”、“癒し”の解決策は、『約束のネバーランド』にも『進撃の巨人』にも記されてはいない気がする…。

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2021年07月25日

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