あらすじ
あの鬼のモデルとなった人物は? 「約束」や「原初信仰」の謎を解く鍵は? 数々の名シーンを引用しつつ、文学研究者が徹底考察! ファン必読の一冊!! 累計発行部数2,100万部超を誇る大ヒット漫画『約束のネバーランド』。その意表をつく展開や複雑な頭脳戦といった要素から、「少年ジャンプらしくない」と評されることもある同作ですが、その物語の背景には、多彩な文学作品や宗教に関する膨大な知識が踏まえられていることが窺えます。本書は、そんな大人気作品『約束のネバーランド』を、気鋭の英米文学者が学術の立場から読み解こうと試みた考察本にして、英米文学・文化への最良の入門書です。同作の名場面を豊富に引用しながら、数々の謎の核心に迫っていく、ファン必読の一冊と言えるでしょう。なお、本書はあくまで「週刊少年ジャンプ」編集部から許可をいただいた上で、『約束のネバーランド』を作中の手がかりをもとに、英米文学者の視点から読んだ、いわば第三者目線での考察本です。よって、原作者の白井カイウ先生や出水ぽすか先生の真意を紹介した「公式解説本」とは性格が異なります。加えて、原作の終盤にかけての「読み解き」を含むゆえに、ネタバレを多く行っているので、あらかじめご注意ください。
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Posted by ブクログ
ー このように、貴族鬼達の倒錯した欲望の対象となる食用児達の状況は、まるで「母親」によって管」理され、不自由だが安全に守られた家庭で暮らしていた無垢な子供が、やがて大人へと成長するため「外」の世界へと飛び出し、その結果、「男」達による暴力や欲望の対象となり、翻弄されるという、子供から大人への成長の過程を象徴するかのようです。
伝統的なジェンダーに沿った物語であれば、眠り姫は性との接触によって一時的な昏睡状態に陥り、やがて彼女をその眠りから覚ます王子と結婚し、女性 =母親という古典的な価値観に順応することで、大人へと成長します。
もしも『約ネバ』が旧来のジェンダー観にもとづいて描かれていたならば、レウウィスによって傷つけられ意識を失ったエマは、男性キャラクターによって救われ、その男性と結ばれる、というお決まりの流れに落ち着いたかもしれません。
しかし、エマは自らの力で意識を取り戻し、レウウィスを倒す決定打となる閃光弾を撃ちます。「女性=母親、弱者、守られるべき者」といった古典的なジェンダーをはねのけ、自らの力で男性の脅威に立ち向かい、仲間と共に打ち倒すエマの「強さ」は、その後の物語において、大きな意味を持ち始めます。 ー
『約束のネバーランド』の真面目な考察本。
ファンガイドではなく新書で出てるので購入。
イギリス文学、宗教、ジェンダーの切り口で、まったく予想外の考察は無かったけれど、十分に必要な情報を与えてくれるので良かった。
自分たちの閉ざされた“世界”の外にも『世界』があり、この『世界』は閉ざされた“世界”の価値観を否定する。外の世界にも、その世界なりの価値観があり、宗教があり、歴史がある。『鬼』という敵と『人間』という敵を前にして、テーマは必然的に差別と憎しみと争いになり、それは究極的にはホロコーストの問題に辿り着く。最後はどこに終着するのか、というのが究極的なテーマとなる。
食用児は生まれた最初から”供物”となることが運命付けられており、彼らのその“犠牲”の上に“約束”が成り立っている。この“約束”を破る”代償”には新たな“犠牲”が必要となり、それは当然、敵側の”絶滅”に辿り着く。そうではない方法があるのか、またそうだとしたらその“代償”は何か。この辺の考え方で本作の評価が分かれるかと思われる。“甘い”と捉えるか、受け入れられるか…。また、鬼が人間の写し鏡のような存在、だとするならば、物語後の鬼側の世界が非常に心配だ…。
恐怖から守られた壁の内と外の世界、鬼と巨人、歴史、本当の敵は人間、どちらかの世界が滅びるしかないという世界観、その先の希望と絶望、という点で、『進撃の巨人』と通ずるものがある。
”世界”を変えるためには、『世界』は犠牲を強いる。その犠牲の量的な多さと、質的な深さにおいて、両作は全く異なるが、最終的な希望と絶望においては、まったく同じものを描いているような気がする。
この“犠牲”を考える時、“歴史”と“記憶”の重要性が鍵になる。あとは、“許し”と“癒し”なのだが、この最後の“歴史”、“記憶”、“許し”、“癒し”の解決策は、『約束のネバーランド』にも『進撃の巨人』にも記されてはいない気がする…。