あらすじ
中国、三国時代末期。「疑」の国に、欲にまみれた俗世間に背を向けて竹林に集い、酒を酌み交わしながら清談に耽る詩人、音楽家、学者、高級官僚などなど七人の男たちがいた。飄々と風雅に語り合う彼らの話題は、ときに持ち寄った謎の話「疑案」に及ぶ。怪異な謎、不可能な謎、不思議な謎等々に、彼らは博識優秀な頭脳を絞って挑むが、一刀両断、明晰に解いてみせるのは、意外な紅一点だった――。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
3世紀の中国で老荘思想を体現した竹林の七賢人がいたそうだが、彼らが疑案という謎を解くというパロディもの。中華風の雰囲気が漂っていて、なかなかいい感じだ。7人のやり取りも、清談というか、ちょっと俗っぽいところもないわけではないが、結構面白い。謎解きも彼らがああでもないこうでもないとやるが、毎回最後に竹に住む謎の華虞姫が皆を虚仮にしながら解いてしまう。端々に出てくる儒教への批判と老荘思想への賛美がなかなか痛快だ。さて、最後の話で、華虞姫は…。
Posted by ブクログ
[竹林の七探偵]
田中 啓文
6作から成る連作短編集。
中国・魏の時代を舞台に竹林の七賢が清談の中で出てきた疑案(謎)を解こうとするが、最後は竹精・華虞姫が枝葉末節まで解決。
個人的には、老子はどこへ旅立ったかを推理する「老子はどこへ行った?」が好み。
タイトルは七探偵となっているが、賢人はどちらかというとワトスン役。華虞姫が探偵役。
華虞姫は女優の菜々緒さんをイメージさせる言動が男前。
そして最後には華虞姫の正体が?
賢人のこの先は?
Posted by ブクログ
〔七賢人〕竹林で清談してる呑んだくれたち。
〔華虞姫〕探偵役。《あのねえ、この世には不思議なんかないの》p.57。と、不思議の権化のような存在が言う。
〔尸解仙〕その男は本当に尸解仙になったのか?
〔酒徳頌〕劉伯倫が参加した酒の席で人が殺されたが誰にも殺すチャンスがなかった。
〔竹夫人〕最も危険な男、鐘士季と竹の因縁。
〔竹に虎〕阮嗣宗の祖父が虎退治をし、餃子や打鞠を始めたのは本当か?
〔老子はどこへ行った?〕老子は実在したか、どこへ行ったか。山巨源の「人を見る目」は節穴か?
〔最後の清談〕それぞれの顛末。
〔感想〕この著者はバリエーション豊かなので自分に合うかどうかはけっこう賭けやけど、今回のは好みでした。
■竹林についての簡単な単語集
【逸民】魏の司馬氏の専横を避けるため飄々と風雅に生きようとしていた人たちのこと。世捨て人というわけではなくちゃんと職に就いていた。
【王濬沖/おう・しゅんちゅう】王戎(おうじゅう)。七賢人のひとり。最年少。優男。高位の役人で資産家。金は好きだが賄賂は嫌い。皆からは「俗物」と言われているが嫌われているわけではない。
【華虞姫/かぐひめ】七賢人の仲間。竹に酒を捧げたら来てくれる小さい女性。探偵役。《あのねえ、この世には不思議なんかないの》p.57。と、不思議の権化のような存在が言う。
【疑案】謎のこと。華虞いわく《どんなことにも理屈があるの。大きな謎も、小さな謎がたくさん集まっているから不思議に思えるだけ。》p.110
【嵆淑夜/けい・しゅくや】嵆康(けいこう)。七賢人のひとり。手足が長い。思想家であり音楽家。鍛冶などもしている。
【阮嗣宗/げん・しそう】阮籍(げんせき)。七賢人のひとり。酒呑み。詩人であり文章家。最近歩兵校尉(宮城の警護人)になった(のには理由がある)。耳が尖っていて岩のような顔で眉は一文字につながっており口髭と顎髭は伸ばせるだけ伸ばしている異相と言える。
【阮仲容/げん・ちゅうよう】阮咸(げんかん)。七賢人のひとり。阮嗣宗の甥。雅楽の統括をしている。
【山巨源/さん・きょげん】山濤(さんとう)。七賢人のひとり。最年長。老人だが巨体。吏部郎(人事担当)。
【七賢人】竹林に集まって天下国家から身の回りの小事のことなどをくだくだ話し続ける呑兵衛の集まり。皆、それなりの地位と知名度を持つ。
【儒教】《儒教は、上に立つものには都合のよい学問だ。》p.174
【向子期/しょう・しき】向秀(しょうしゅう)。七賢人のひとり。大学者。老荘の研究で知られている。いつもきっちりした身なりで丁寧な言葉遣い。
【鐘士季/しょう・しき】俗物だが危険な男。他者を罪に落として処刑するのが趣味?
【清談】談義のための談義。
【劉伯倫/りゅう・はくりん】劉伶(りゅうれい)。七賢人のひとり。酒呑み。身長百四十センチくらいと小柄。小さな鹿車(ろくしゃ)に乗っていて自分が死んだらその場に埋めろと従者にスコップか何かを持たせている。『酒徳頌』という酒の百徳を称えた詩を書いているところらしい。《皆、無為のままに生きる。それが人間の本来の姿なのだ。》p.74
【老荘】老子と荘子。《大事なのは過去ではなく、未来でもなく、今この瞬間だけである。君主や親が無謀なことをしようとしたなら、身を隠して命を守れ。自分自身がいちばん大切である。仁義や礼忠は人間にもともと備わった資質をむりやり捻じ曲げるものだ。人間は自然を手本として、あるがままに生きるべきだ。目立つな、知恵に頼るな、手柄を立てるな、出世するな、世俗に関わるな、ものを裏から、逆さまから、横から、斜めから見よ……それが老荘の教えである。》(p.175)
Posted by ブクログ
後漢時代、竹林に集う七人の厭世家が不思議な出来事に解談をかわして謎に迫るお話。
古代の中国を舞台に、全部で六項目で構成。
●尸解仙:借金を抱えた男が棺桶の中から靴だけを残して消えた。男は念願の仙人になれたのか?
●酒徳しょう:三階建ての楼で、泥酔した三人のうち一人が転落、一人が絞殺された。絞殺された男はどうやって殺されたのか?転落したにも関わらず無傷だったのは何故か?
その他4篇
酒と音楽、清談を好む賢人たちの談義と謎
さらりと読めるので秋の長夜のお供に。
Posted by ブクログ
モデルは竹林の七賢人だから、どうしても登場人物は7人になり、それぞれを描かなければならないと思うのですが、そうすると、この1冊では足りないと思うのです。7人全員を描かなくても、誰か一人をじっくりと描いてくれるともっと満足するのですが、それぞれが面白いはずの七賢人がなんとなくすうっと通り過ぎて行ってしまったように感じ、何かをもっと期待したくなりました。
華虞姫の設定は面白いと思いました。そうですか、そうすると、彼女はこのような感じで、その後の世界で会話していたのですね、なるほど。
「竹夫人」は諸星大二郎が作品に仕上げそうな雰囲気で、それを想像しながら読んだところです。一番好きでした。ただ、アームチェアディテクティブではありません。よい感じです。
面白いと思いました。読み終わるまで早かったです。
ただ、自分が求めていたものとは少々違っていたかもしれません。それは手に取った読者の責任です。