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共同通信の記者として4年近くニューデリー特派員を務めた佐藤大介氏が、トイレという切り口でインドに光を当てた力作です。各地におもむき、現地で色々な活動をしている人たちを取材することにより、非常に質の高いルポになっています。
モディ首相肝いりの「スワッチ・バーラト」運動で、トイレはある程度出来たものの、形だけであったり、下水処理が追いつかなかったり、等の現実が紹介されます。人口が集中する都市では排泄物が下水処理されずに河川に垂れ流されるため、川の水質汚染が悪化しているのに、人々はその流れで沐浴をするという恐ろしい話もあります。もっとも驚いた内容は、排泄物の処理はダリットという不可触民たちの仕事で、下水の流れが滞ったとき、彼らはゴーグルも手袋もせず、下水管の中に入って、作業する様子が紹介されています。
また農村部では庭などに放置された糞尿をダリットの女性が「素手」で集めるというスカベンジャーたちがいることが報告されており、私にとっては驚天動地の光景です。
インドのGDPは今は世界第4位であり、グローバルサウスを代表する国家として、国際的にも重要な役割を果たしています。インドは伝統的に物理・数学に強いため、IT産業が発展しており、アメリカのIT産業にも多くのインド人が活躍しています。そのような発展をしている一方で、多くの国民は劣悪なトイレ事情に甘んじており、改善すべき課題がまだまだ山積していることが明らかにされています。
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サブタイトルは「下から見た経済大国インド」~携帯電話の契約件数は11億以上。トイレの無い生活を送っている人は約6億人。インド首相のナレンドラ・モディが提唱した「スワッチ・バーラト」が成功を収めたのは2019年。クリーンインドを目指すトイレ普及運動だが、どうやら各段階での忖度の積み重ねだったらしく、補助金と借金で家の敷地内にトイレを作っても使わないのは、地下のタンクの汚物の除去に金が掛かるというだけではなく、インド人が不浄とする排泄物は、脂肪・血液・ふけ・耳垢・痰・涙・目やに・汗・鼻汁・精液・小便・大便で沐浴などによって清められなくてはならないとされる。トイレも不浄のもの。乾式トイレが普及してマニュアル・スカベンジャーであるダリッドと呼ばれる不可触賤民が生まれたとする見解もある。不可触賤民は廃止されたとされ、カーストによる差別は禁止しているが、カースト自体は廃止されていない。ガンジーも、モディも、トイレの聖人・ビンデシュワル・パタクもカースト自体は否定していないのだ。トイレビジネスは大きな可能性を持っているが、不浄感を変えることはできるのか?屋外で用を足す人は多いし、近代的なトイレで用を足す人たちの下水も処理し切れていない~良い本だったね。他国のことだが、我がこととも考えられる。浄不浄感は日本にも共通するから
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インドは、どこか謎めいた遠くの国というイメージで、身近に感じることはあまりありません。本書は日本人が共感を持てる「トイレ」というテーマから、インドの政治、習慣、カーストに由来する社会問題を、取材という手法でまとめたものです。
データから判断するとインドは成長を続ける経済大国であることは明らかで、この視点を「上から」と本書は例えています。これに対して 「下から」という言葉は、生活の視点からインドを眺めてみるという意味に加え、メインの取材対象である「ダリット」と呼ばれるカースト最下層の人たちの存在も示唆しているのだと思います。
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トイレから覗く現代インド事情
本書は、現地の日本人記者がトイレ事情から現代のインドを語るというもの。
モーディ首相の看板政策、スワッチ・バーラト政策。野外での排泄が今でも普通なインドにおいて、1億2000万基のトイレを設置して、野外排泄をゼロにするというもの。
野外排泄の問題点は、住環境が不衛生になり、感染症等の温床になるだけでなく、夜、離れたトイレに向かう女性を狙ったレイプなども多発していたことにある。
しかしトイレを補助金をどっかり使って設置しようとしたところで、しっかりとした管理システムが整っていなかったり、賄賂や中抜きも横行していて整備もままならない。それにトイレを入れたところで、水洗式ではなく乾式(排泄物を一定期間貯めて、あとで取り除く)だったりなので、自分の家に汚物を貯めたくないので結局使わなかったり、汚物を取り除くのにもお金がかかる(それをやる人は素手でやったり)するので野外排泄もまだまだ普通に行われているとか。。。またトイレ問題から、インドにおける上下水道の問題や、今でも普通に行われている便所掃除人や下水処理人の劣悪な労働環境(マスクなしの素手作業、ときには首まで下水にどっぷり)の問題、コロナとトイレの問題、そして勢いのあるインドらしくテクノロジーやITを使ってトイレ問題をビジネスチャンスに変える取り組みまで、短いながらも読みがいがある一冊だった。
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トイレを切り口にインド社会をあぶり出す、秀逸です。
データを元に議論する、インドの各地に足を運んで色々な人にインタビューする、読みやすい文体の中にも一流のジャーナリストの「足腰の強さ」を見ました。
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『日本では、ほとんど誰もが清潔なトイレにアクセスすることができ、トイレのある暮らしが日常に組み込まれている。しかし、インドではそうではない。「トイレ」というキーワードで、貧富の差やカースト、都市と農村の格差といった、インドのさまざまな姿が見えてくるのではないか。そう思って、取材のためにインド各地を歩いた。そこから見えてきたのは、経済成長という言葉の陰でさまざまな問題を抱え、多くの人たちが苦闘しているインドの姿だった。』
日本から遥か遠くにある国。インド。
パソコン上に飾られた、成長率という数字だけ見れば、「めざましい経済成長をしている国」と思うのは当たり前かもしれない。でも、どことなく違和感が残るのはなぜだろう、と頭の片隅に思っていた。
その違和感の正体は、この本を通して、トイレというフィルターから、少しずつ明らかになっていった。
トイレを増やすことで、衛生面の改善を図ろうとする政策から始まる物語は、トイレを増やすことが目的になってしまった現実を浮き彫りにしている。
たくさん作ったところで、トイレにまつわる問題…下水管の掃除をするのは身分が低い人だったり、「聖なる川」がどんどん汚れていったり、と、種々の問題は何も改善されていないのだ。
そして、世襲制であるカースト制度は、改善されつつあるものの、21世紀を迎えた今でも当たり前のように横たわっている。
トイレを囲む、水回り。そして、衛生環境。
日本とインドの共通点といえば、カレーくらいしかないと思っていた自分にとって、この本が示す、インドがどんな国かという説明は、ものすごくわかりやすかったし、その着眼点には、脱帽した。
インドだけでなく、どんな国においても、わかりやすい指標ではなく、数値化しにくいものも見ることで、はじめて全体像がぼんやりと浮かび上がってくるのかもしれない。
インドのことを全く知らない自分にとっては、単行本レベルの内容の深さでした。
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インドは人口世界一、GDPも日本と然程変わらない経済大国だが、まだまだ生活環境劣悪な場所もあることを実感した一冊。「トイレ」は全人類がなくてはならない設備なのに、存在しない場所、劣悪環境下で労働に当たっている人も大勢いらっしゃる。我が国は「清潔なトイレ」「安全労働環境」が当たり前にあると感じるが、そうでない国、地域があることを学び、SDGsの目標にも考えてほしい。
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インドのトイレ事情についてのルポルタージュ。
中国に次いで世界最大の人口のインドだが、トイレがない人たちが約半数ぐらいいる。日本の常識から考えると信じられない話だが、トイレは不便と考えるのがインド人の常識になっているようだ。モディ首相は、トイレ設置による衛生状態の向上を施策に挙げて推進しているが、実態はトイレがあっても使わない。後の処理が面倒だから、費用がかかるから、という人も多いようだ 農村は野糞が当たり前で、そのために犯罪が起きる(特に女性子供)こともあるらしい。またトイレがあるところでも、下水の清掃で命を落とす人たちもいる。カースト制の悪影響の問題を技術で問題解決を目指す人たちの話等々、トイレ事情の信じられない実態のレポートとなっている。 清潔すぎる日本のトイレ事情は、逆に言えば世界の非常識なのかもと思った。
ちなみにインドには一週間ほど行ったことがある。仕事だったので、空港ホテルと会社のトイレしか使わなかった。特に不自由した覚えはなく、インドのトイレについて考えたこともなかった。ホテルに宿泊するビジネスマンは同じ感想を持つと思う。その国のことは住んでみないとわからないと言うが、まさにその通りだ。インドは好き嫌いがはっきり分かれる国だが、生活事情を見ると判るような気がする。
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スピリッチュアルな世界に関心のあるひとにとっての
世界の路地裏を歩くバックパッカーたちにとっての
インドではない
それこそ 13億人の人間が暮らす
インドを「トイレ」から見たレポート
都市であれ村であれ
どんな場所でも
バラモンであれダリットであれ
カーストなど関係なく
「出すこと」は
平等で必要なこと
きっちりとした取材に
裏打ちされた
「トイレから見た国家」が
小気味よくあぶり出されていく
著者の着眼点のすばらしさに脱帽
取材をされた人たちへの
リスペクトも感じられる
だからこそ
本音が聞きだせることができ
だからこそ
インドの今を語ることに
つながっている
現在のインドを語る
好著の一冊です
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インド政府が10年に1度行っている国勢調査によると、2011年の調査でトイレを持たない世帯の割合は53.1%。さすがに都市部では普及している(スラム以外) それを踏まえると地方や農村部では全然普及してないってことだ。じゃあ、もよおしたら、どこでしてんの?と聞くと、そこら辺の草むらで、との答え。
インドではトイレ行くのも命がけ。草むらから毒蛇が出て咬まれたり、猛獣に襲われたり。女性は朝の暗いうちに1回しか行かないらしい。羞恥心もあるが、レイプ被害にあう危険が高いからだ。
なんで家のそばに置かないかというと、日本でも昔はトイレをご不浄と言ったのと同じ理由、不浄だからだ。不浄なものを家の中に置くわけにはいかない、という衛生面というより、宗教観から来ている。そしてトイレがあっても掃除なんかしない。掃除するのはカースト最下層の不可触民である「ダリット」が行うと相場が決まっている。手袋もマスクもない状態で掃除をするから感染症になってバタバタ死んでしまう。下水道掃除も同じく劣悪な環境下で、著者が取材した掃除人も感染症で目が真っ赤に腫れていたそうだ。医者に行く金はないそうだから、たぶん失明するだろう。
そうとは聞いていたけど、ホントに人として扱われてないんだ。
モディ首相はインド全土にトイレを普及させるという「スワッチ・バーラト」政策、英語でクリーン・インディアを推進し、2019年ガンジー生誕150年式典で大成功を宣言をした。
実態はだいぶデタラメで、カースト上位の村の長どもが、トイレ設置したから補助金寄こせ、と申請し、金だけもらって実は設置してないという不正が横行。日本で言うなら貧困ビジネス的な詐欺行為を全土でしているような状態。ちゃんとしているところもあると思うけど、政府の発表を鵜呑みにはできない。
ガンジス川の汚染だって、半世紀も前から問題になっているのに、いまだに改善の兆しすらみえない。聖なるガンジスに流れれば全て清浄になる、という宗教観から、生活汚水も、工場排水も、死体もいまだに流している。
全世帯にトイレなんて、インドじゃ夢物語なんじゃないかな。少なくても半世紀はかかるだろう。
Posted by ブクログ
インドのトイレ事情についてインドへ特派員として行っていた作者が現地の方のインタビューなどをまとめたルポルタージュ。
家にトイレはなく外で用を足す方がいまだにいるインドだが、トイレを多くの地域に導入するためにトイレを入れた家や地域には補助金などが出る予算をかけた政策が打たれた。だが実際は補助金がもらえないまま排泄物の処理にお金がかかる関係で使われないなどあまり浸透せずに終わってしまった。このトイレがなかなか導入されない理由が経済格差、女性差別、カースト制度によるもので作者は深掘りしていく。
『三つ編み』に登場するインドのカースト制度や女性差別による苦しみがそのまま描かれていて線と線が結びつく場面が多く、とても面白かった。
そして現地の人はカースト制度自体に対して批判的な目で見ておらずその制度の中でも状況を改善することを目指している人が多いことがとても不思議に感じた。ガンディーもカースト制度に対しては批判していないことも1つの発見だった。
星は3.5⭐︎
Posted by ブクログ
インドのトイレ事情は衝撃そのものでした。
昔親戚の家がボットン便所ですごく嫌だった記憶があるけれど、その比じゃない。
トイレに行こうとして犯罪に巻き込まれることなど、どうにかならないものかと思わされてしまった。
経済大国インドのイメージが強かっただけに、その他の部分を知れてよかった。
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I T先進国と言われるインドの以外な真実を教えてくれる。マスメディアだけの情報を鵜呑みにせずに、本を読んだり、出来れば旅をし、その国の実情を知りたい。ジムロジャースみたいに旅ができればいいのだけど。
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人口13億人を超えるインドでモディ首相が進める「スワッチ・バーラト」(ヒンディー語で「クリーン・インディア」)、つまり「野外排せつゼロ」を目指したトイレ政策のドキュメントだ。
人口の4割以上が屋外で排せつするインドで2014年から5年計画で進められた。その進め方のザクッと感がなんとも言えない。
そして著者はトイレ政策を通じてダリット(不可触民)にも焦点を当て、彼らの悲惨な生活環境とカースト制度の根深さを浮き彫りにする。