あらすじ
好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。自由を掴むため、他の白人男性の子を身籠ることを――。奴隷制の真実を知的な文章で綴った本書は、小説と誤認され一度は忘れ去られる。しかし126年後、実話と証明されるやいなや米国でベストセラーに。人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遥かに凌ぐ〈格差〉の闇を打ち破った究極の魂の物語。
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Posted by ブクログ
本当の話だなんて? 19世紀、アメリカの奴隷制、黒人差別がどのように行われていたかこのような当事者の目で書かれたものを初めて読んだと思う。南部では白人に所有される黒人は逃亡して捕まれば鞭で打たれ殺されることもある、そして子供が生まれれば、その見た目ではなく母親の方の身分に分類され、奴隷の母親の子供は白人の主人の所有物となる、それが法律で決まっている。どんなに惨めか、どんなに理不尽だと思っても、法律で決まっているから、逆らえば社会全体が敵になる。
その中でも奴隷制に反対し命懸けでリンダを助けてくれる白人も多くいた。置かれた立場により、自分さえ安全圏にいれば社会構造や権力にたてつかず従順にし、自分がいつも善良な市民であると思い込むこともあるし、友情や正義のために命がかけられる勇敢な場合もある。そして生活に困れば簡単に仲間を売ることもする。全部人間だ。
どこの社会もそうなのかもしれないし、時代が変わっても人間の性質は思ったより変わらないのかもしれない。奴隷制に反対する北部であり、先進的文化や風土を持つはずのニューヨークですら法律が変わって逃亡奴隷狩りが行われだすのを読みながら、現代のアメリカや日本のことを考えた。
いち少女が現実に立ち向かい、ずっと苦しみ続けながら根気強く自分を保ち、神を信じ、家族を愛し、自由を求める姿に引き込まれる。泣き言を書きながらもリンダの筆跡は誠実で、誇り高く、力強い。
訳者(堀越ゆき)あとがきもよかったです。訳者はとても文章のうまい方だと思う。その後のリンダの話もあとがきで読める。
課題図書にして欲しい
夜寝る前に漫画の広告を気になって数話読み、本書に飛んで一気に読んだ。最初に思ったのは「ムラート」「母親に付帯する身分を引き継ぐ」この2点は高校の世界史で学んだが、本書を読むまで言葉の暗記でしかなかったと気づいたということだ。いかに白人男性にとって都合の良いことなのかへの気づき、その"都合の良さ"は現代日本でも多く見られるという気づきである。訳者の言うように、もっと早くに会ったならやりたかった夢への後押しをしてくれたとも思う。しかしそれだけでなく、今も日々行なっている”女性らしさ、女性なんて"という固定観念と不自由さに対しての改善を求める個人の戦いへの後押しにもなる本であり、その固定観念のもたらす男性への影響に対する個人レベルでの改善運動も後押しする本当だと思う。
Black lives matter だけでなく現代に連綿と続くあらゆる固定観念や不自由に対して少しでも関心を持つすべての人に是非読んで欲しい。