【感想・ネタバレ】マトリ―厚労省麻薬取締官―(新潮新書)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ニュースではよく見る「覚醒剤」の事件をはじめとして、麻薬や危険ドラックを取り締まっている組織に長年勤めた方が、日本の麻薬取締の歴史と自分の活動を重ねて語る一冊。

ドヤ街の猟犬、とかイラン人組織との攻防のような、章ごとのタイトルを見るだけで只者ではないという感じがするのだが、書かれている内容もかなり壮絶だ。今では映画やドラマでしか見られないような足で情報を稼ぎ、実際の場に踏み込むという経験がこれでもかと詰め込まれている。

奥付の年代を見ると、自分が大人になってからもかなりの数の事件があったことがわかるのだが、正直にいうとそこまで麻薬や危険ドラッグなどを意識したことなどなかった。危険ドラッグとの戦いなど2010年代の話なのだが、そこまでニュースで取り上げられていたっけ・・という感じですらある。

一般の市民(といっていいかわからないが)が意識しない裏側で壮絶な戦いが行われているという意味において、まさに日本を裏で支えるという組織という感じがする。言い換えると、著者のような方がいるおかげで我々が意識せずに暮らすことができるのだろう。

・・・ただ、この著者、明らかに「狩ること」を楽しんでるよなぁ。

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2020年02月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マトリ 厚労省麻薬取締官

著者:瀬戸晴海
発行:2020年1月20日
新潮新書

今年1月20日出て、10日後には2刷が出た売れ売れの新書。2018年3月にマトリを退官した著者は、最後、関東信越厚生局麻薬取締部部長となり、2015年に行われた全国の危険ドラッグ販売店の壊滅作戦の陣頭指揮を取った。数年前までイタチごっこで全国の繁華街に何百とあった「ハーブ」と称する危険ドラッグを、新宿歌舞伎町の2店に追い詰め、それも消滅させた時の様子は、この本のクライマックスでもある。ただし、今はネット取引に姿を変えているだけだと警告もしている。

世界の麻薬市場は、今、50兆円市場。フィリピンの国家予算の6倍、日本のGDPの約Ⅰ割に匹敵。ネット取引など拡大の理由は色々あるが、その一つに、密売組織が昔のように血で血を洗う抗争を繰り返すことより、協調して利益を上げるサプライチェーン化していることがあるという。とくに、ヘロイン原料のアヘンは、今、アフガニスタンがほぼ独占供給していて、それがテロの資金源になっているらしい。

こういう麻薬に関する情報を入れながら、著者自身が経験した麻薬取締の実録を紹介。
輸入する重機ロードローラーの鉄板を切断して末端価格87億円はくだらない覚醒剤を見つけた大捕物。
大阪市西成区のドヤ街のドヤに(靴を脱いで)踏み込むと、ヤバい連中に取り囲まれたため窓から飛び出し、足の裏を何かで切りながらも必死で逃げた経験。

ネット密売は、海外から仕入れた麻薬を小分けにしてネットで販売すれば誰でも商売ができ、かなり儲けることができる実態を明かしている。日本は末端価格の高さが世界でも群を抜いているため、利ざやが大きいからだ。そのネット密売人を突き止めた時のことも書かれていて、あるプロ級のIT知識を有し、3カ国語を解する20代エリート青年は逮捕された時、「どこにミスがあって発覚したのか分からない。仲間とは顔を合わせたこともないし、飛ばしの携帯、消えるSNSを利用。自分もホテルを転々とし、仮想通貨で決裁。どう考えても足がつかないはず。刑務所でゆっくり分析し、次は完璧を目指します」とまったく悪いことをしたという意識がなかったとのこと。

覚醒剤ブームは、第一次が戦後間もないヒロポン時代で、主に日本軍の覚醒剤が流出。第二次は1970年~1994年までのシャブ時代で、「深川通り魔事件」はじめ、無関係の人を巻き込む犯罪が頻発した。今は、第三次ブームだという。

そんな第二次ブームの終盤、90年代に入って中心となったのがイラン人密売組織。イラン・イラク戦争が停戦となり、大勢のイラン人が日本に出稼ぎに来て、偽造テレカ販売の延長で覚醒剤密売に手を染めた。その手法が、時代のニーズにマッチした。それまで、シャブは恐ろしいヤクザから買っていたが、イラン人は物腰柔らかく時間通りに来るし、5袋買うと1袋おまけにくれたり、誕生日におまけしてくれたり、気軽に世間話してしてくれたりした。

名古屋に本拠を置くイラン人密売組織との対決も。名古屋の久屋大通での密売捕り物、大阪の東大阪市まで出張してくるイラン人の取締(大阪手当で売り子の報酬が数%上乗せされる)・・・イラン人密売組織は、ボスの存在があり、来日したイラン人たちが彼から日当をもらったりして売りさばいていたらしいが、ボスが持つ携帯電話が全てらしい。その番号に客がついているため、密売人が捕まってもその携帯電話がある限りは、いつでもまた復活ができる。ボスがもう引退してイランに帰る場合は、顧客のついた携帯電話を2000万円とかで売っていったらしい。

危険ドラッグの取締話も興味深かった。仕入れた数種のハーブを調合する現場。逮捕された4人に前科はなく、ITの元会社員などごく風通の青年だった。本人たちはドラッグどころか酒も煙草もやらず、採用したアルバイトが危険ドラッグ乱用者だと分かってクビにしたこともあるらしい。調合したものは「テスター」と呼ばれる人間に試してもらって、意見を聞いていた。

今、大三次覚醒剤ブーム。多くの芸能人が狙われている。そんな芸能人をワイドショーのタネにして批難するだけでは解決にならない。著者も書いているが、依存症は周囲の協力がなければ決して克服できない。ドラッグにしろ、酒にしろ、他人事だと無責任に語ったり行動したりしてはいけないことを改めて感じた次第。

(メモ)

・日本の麻薬取締機関は、マトリ、警察、税関、海上保安庁。
・薬物依存には精神依存と身体依存の2タイプがある。精神依存は切れると集中力が急になくなる、例えば煙草、覚醒剤、コカイン。身体依存は切れると手足が震えたり痙攣したり、アルコール依存など。ヘロインは精神依存と身体依存の両方。
・この4,5年、同じ大麻草でもリーフ(葉)からバッズ(つぼみ、芽)にうつり、効き目が格段に上がっている。とくに濃縮タイプでは、日本に自生する大麻の60倍。
・海外で買える大麻成分を含むチョコレートやクッキー「メディカルマリファナ」などに注意
・2ちゃんねるのひろゆき氏は、覚醒剤営利目的譲渡の幇助で摘発された(そういえばそんなことあった。書類送検されたが不起訴に)。
・危険ドラッグは、作用が大麻に似る「合成カンナビノイド」と覚醒剤に似る「合成カチノン」に大別
・一流の捜査官には人間的な魅力が不可欠。その一つの要素に「アンガーマネージメント力」がある。激怒・暴言で一度辞任した明石市長も勉強している「アンガーマネージメント」だ。

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2021年03月30日

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