あらすじ
「みかん、好き?」 突然、女の子が言った。「え?」「私は大好きなのじゃ。食べすぎて、冬になると全身が黄色くなるくらい」 ほら、と袖をまくった。「最初は手のひらや足の裏が黄色くなるけど、そのうち手の甲や足の甲も黄色くなって、さらに食べ続けたら、顔もお腹も黄色くなるのじゃ。といっても、今は春だからだいぶ薄くなったけど。冬はもっと黄色かったのじゃ」 何を言ってるんだろう。拓海はあとずさった。中学生か高校生に見える。でも見かけたことのない顔だ。「そうじゃ」と、女の子が思い出したように手をたたいた。「ここって、西村実さんのみかん園かどうか知ってる?」「え、じいちゃんを知っとるん?」「孫なの?」 女の子がぱっと笑顔になった。「よかった。やっぱりここが西村実さんのみかん園なのじゃ」 そう言うと、斜めにぶら下げたバッグから、定期券入れのようなケースを取り出した。――本文より西村拓海の目の前に突然あらわれた、少し変わった話し方をする女の子・長谷川ひなた。拓海の祖父がつくるみかんに感動して東京からはるばるやってきたという。困惑する拓海をよそに、ひなたと祖父はどんどん仲良くなり、いつのまにやら一緒にみかんを育てることに……。彼女に振り回されながら、みかん作りを通して少しずつ成長していく、甘酸っぱい青春小説。
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Posted by ブクログ
私は大好き!
おじいちゃんがみかん農園している男の子と
みかんが大好きで東京から島にやってきた女の子のお話。
みかんについて詳しくなるし食べたくなる〜!
Posted by ブクログ
みかん農園を舞台に高校生3人の、それぞれのみかんに対する想い、人間関係や家族について描かれた物語。深刻な事件や出来事が起こるわけではないが、あきることなくさらっと読めた。
途中少しだけ触れられているが、みかん農家の将来について環境問題や後継問題など、考えさせられる部分もあった。
Posted by ブクログ
・みかんを食べながら読もう。
・ボーイ・ミーツ・ガール。第一声が「みかん、好き?」
・虫嫌いで農作業には向かない高校生である拓海はみかん大好き女子高生のひなたと出会いなりゆきで祖父のみかん畑の手伝いをすることになった。
・シンプルで、普通に心地よいお話。新年最初の読書には良い。
・みかんを育てることで三人の高校生がそれぞれ少しだけ成長していく。また、絆ができていく。
・高校生というより、なんとなく中学生という印象の三人。
・みかん色のスピンがついている本。
▼西村みかん園についての簡単なメモ
【柴】拓海と同じ高校の総合科生徒。不良っぽいが、祖母思いの気のいいヤツ。とあるできごとでひなたともめる。けっこうみかん愛がある。どうやら亡くなった祖父がみかんをつくっていてよく手伝わされたらしい。ひなたいわく「意外なみかん名人」。彼女をつくるなら甘えさせてくれる系がいいそうで、三つ年上の女性にすると決めているらしい。
【島】舞台は瀬戸内海に浮かぶどこかの島。拓海の父の出身地で帰りたがっていた。過疎化は進んでいるがまだ小中学校は複数あり高校もある。それなりに大きい島のようだ。小豆島あたり?
【拓海】西村拓海。高校生だが中学生程度にひねくれている。虫が苦手、特にクモが苦手。母は介護施設で、父はホテルで働いている。その父の故郷が舞台となっている島で、拓海は仕方なくついてきてはいるがそれほど島が好きではないようだ。祖父は西村みかん園を営んでいる。徘徊していると思われるお婆さんに親切にしてあげることができる優しい性格ではある。
【西村拓海】→拓海
【西村実】拓海の祖父。西村みかん園を営んでいる。
【長谷川ひなた】→ひなた
【ひなた】長谷川ひなた。みかん大好き少女。拓海と同じ高校の特進科の生徒。西村みかん園のみかんに惹かれて東京からわざわざこの学校に進学した。ヘンな方言っぽい言葉を使う。美少女らしい。
Posted by ブクログ
この頃のあまり読めない中高生でも読めるようにという配慮か、大変読みやすく、わかりやすく、また、学校向きの毒のない本だった。と言うと褒めてないみたいだが、ここまでわかりやすく書いて、それなりに納得できる作品も意外とないのである。
主人公は高校生なのだが、男女の間柄もほのぼのとしたもので、小学生に読ませても(読書家でない小学生でも読める量と文章)安心。
方言が生き生きしてるなあと思ったが、魚住さんは広島出身なので、そこは当然か。この頃はあまりガチの方言は(分かりにくいと読まない子どもが多いので)嫌われるため、地方が舞台でも標準語喋る作品が多いが、この本の方言は、あまり強すぎず、読むのに困らないのも安心。主人公(語り手)は、イマドキのやわらかめの方言、東京から来た女の子は自意識過剰になってて不自然な方言、さらにその女の子が東京に戻ると自然な標準語、と使い分けが女の子の心理を表しているのも良い。
貧困や離婚、LGBTや発達障害などを取り上げたYAが近頃は多いが、これはそれもなく、本当に普通だ。いじめや家庭の問題が無いわけではないが、あまり深く突っ込んで描いていないので、生々しさはない。
実はスマホもPCも出てこない。持っていそうだが、具体的には描かれていない。
ここまで来ると、かなり色んなことを意識して、敢えて書かないことにしたとしか思えない。
それをしながら、不自然にならないところはすごいと思う。
そのテクニックに感心した。
スマホも出てこないということは、逆に10年20年経っても古くならないということだから、ある意味意欲的作品とも言える。
凄いな魚住直子。
みかんが重要なモチーフなのでカバーを外すと本体がみかん色。スピンもみかん色。見返しはキレイな黄緑(葉や熟してないみかんのイメージ)と、ブックデザインもいい。堀川直子の表紙絵も、本の内容を過不足なく表していて好感が持てる。