【感想・ネタバレ】横浜1963<文庫版>のレビュー

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戦後はまだ終わっていない

伊東潤氏の現代ものを初めて読んだ。横浜が舞台の警察小説ということで、はじめは
森詠の「横浜狼犬シリーズ」みたいな作品を想像していたが、全然違っていた。
伊東氏の文章は読みやすく、また多くの史実を丹念に調査して書かれているものが
多いので殆どハズレがない。本作はオリンピック直前の横浜で発生する連続女性殺人
事件を追って、ハーフの日本人警官(ソニー沢田)とアメリカ軍のSP(ショーン坂口)
が活躍するという筋立てだが、戦後約20年を経過しても日本に駐留を続けるアメリ
カ軍兵士に、日本人がどのように映っていたのかがよくわかった。そして、その傾向
はおそらく今も変わっていない。アメリカ人(とくに白人)の根底にあるのは、有色人種
に対する優越感と差別感情。終戦を境に手のひらを返したように占領軍に平身低頭の日本
人は御しやすい反面、節操なく信条を変える不気味な民族と思われたことだろう。
日本人特有の事なかれ主義の悪弊である。
昔から対外戦争によって領土や権益を拡大してきたアメリカにとって、戦争はなかば
公共事業のようなもの。太平洋戦争もその1つ。国粋主義や軍国主義にはもちろん反対
だが、いつまでも対米従属を続けることが本当に正しいことなのかどうか。日本人の
意識が変わらない限り、アメリカに支配されたままの戦後は残念ながら、永遠に続く
だろう。

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2020年06月14日

Posted by ブクログ

1963年の横浜を舞台にしたミステリー小説。著者本人が当時の横浜を再現することに力を入れたと述べているが、主人公が駆け抜けた地域に住む人間にはたまらない。当時の、匂いや音までも感じられるし、横浜の人々が米国人にどのように接していたかも追体験できる。似たようなバックグランドをもつ二人の混血人の活躍もスリリングで面白い。

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2019年12月01日

Posted by ブクログ

本作は「米国人の風貌を持つ日本人」(=ソニー沢田)と「日本人の風貌を持つ米国人」(=ショーン坂口)という“境界”に在るような、やや複雑な背景の視点人物達を設定している。そして物語が、「戦後から高度成長の真っただ中へ」、「オリンピックを経て大きく踏み出そうとする前夜」という時代の“境界”という状況下に在る1963年の横浜で展開するのだ。
“境界”に在るような、やや複雑な背景の視点人物達が、警察官や憲兵という「正義を貫く職分」で「正義を貫きたい」とする強い想いを抱きながら、「色々な事情」の下で苦闘する、“境界”を蠢くというような感もした物語だ。全般として、各々の社会で「やや異質?」な者達が自身と社会との“境界”で強い想いを貫こうとする物語である。そして1963年という時期の横浜、日米関係を見詰めているような物語である。なかなかに読み応えが在る。
作者自身による<あとがき>に、御自身が横浜出身で現在に至るまで住み続けているという思い入れが示されているのだが…本作の読後に一寸気になる「ソニーやショーンのその後」を絡めて、“横浜シリーズ”でも展開して頂きたいものだ…

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2019年07月19日

Posted by ブクログ

作者とほぼ同じ年代で、横浜に住み30年の私としては、非常に馴染み深く読みました。1963年の横浜を直接知るわけではないが、黒澤監督の「天国と地獄」の情景を思い浮かべながら楽しみました。

犯人探しのミステリーとしては標準作だと思う。が、社会派ミステリーとしては、重たいテーマも孕み中々読み応えもあった。芯のある二人の捜査官の生き方がカッコいい。

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2022年03月04日

Posted by ブクログ

面白かった。東京オリンピック前年、戦後日本の加速する復興の波を受ける当時の横浜。まぶしくてそして闇も深い当時の横浜にタイムスリップした気持ちになれた。
1963年、事件は戦後の日米関係、人種差別、宗教、などの問題が絡みつつエキゾチックな横浜を中心に展開される。アンタッチャブルな部分の多い事件=壁に向かい、白人との混血児である日本の警察官ソニー沢田と日系米軍人ショーン坂口という、それぞれの国でマイノリティ、アウトサイダーである二人が、お互いに共感を抱きながら地道に捜査をすすめていく様はカッコいいの一言。

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2021年05月23日

Posted by ブクログ

ミステリーではあるけど、今まで読んだことないミステリーだった。(時代背景とか)
またソニーとショーンの二人のどこか認め合ってる姿が小気味よく、引き込まれていった。

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2019年09月17日

Posted by ブクログ

米軍の基地があり、半ば占領下だった頃の横浜を舞台にしたポリス・ストーリー。一種のバディものとも言えるが、その片割れである日系三世のショーンが物語に登場するのは、頁も半ばを過ぎてからで、かなり変則的。で、ショーンのパートになると今度はソニーの影が薄くなる。よくある言い方をすると、主人公は横浜という街そのものと言うことだろう。ミステリとしてはロジックが付けたりのようで、ラストのツイストもありきたり。ポリス・ストーリーとしては、捜査の描写など淡泊すぎる。それでも当時の横浜の目に見えるような描写は魅力的で、やはり作者さんが書きたかったのはそのなのだなと思う。

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2022年07月20日

Posted by ブクログ

タイトルとおり1963年の横浜が舞台の連続殺人事件
容疑者は米軍ということで圧力もあり捜査も思うようにいかない
主人公の捜査官はハーフということでその思いも語られる
流れはまぁ普通かなと感じました

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2021年08月08日

Posted by ブクログ

母方の実家が横浜にあったので、子供の頃にマリンタワーへ連れて行ってもらった記憶が蘇る。題名通り、作品の舞台は1963年の日本。敗戦国の名の下に米軍統治下となった横浜で起きた連続女性殺人事件に挑むのは混血の刑事・ソニー沢田と日系三世の米軍SP・ショーン坂口のバディ。ミステリーとしての目新しさは全くないが、ギミック一切なしの直球なハードボイルドが胸をすく。どちらの国にも根を張れない二人の目を通した当時の日米関係や港町の情景描写が秀逸。あとがきにて著者は将来の日米関係に想いを馳せるが、見通しは決して明るくない。

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2020年11月27日

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